紳也特急 101号

〜今月のテーマ『一日、一瞬が大切』〜

●『明けましておめでとうございます』
○『一番良かったこと』
●『事例に耳を傾けてくれました』
○『なかったことに』

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●『明けましておめでとうございます』
 平成20年1月1日。私もその一人ですが、新年を迎えられた人は本当にめでたいですね。平成19年の一年間に病気だけではなく、多くの方が理不尽な出来事で亡くなっています。HIV/AIDSの治療薬が開発されているとはいえ、昨年も、一昨年も何人もの方がAIDSで亡くなっています。その方々の冥福をお祈りするとともに、その方々から残されたわれわれは何を学べばいいのでしょうか。多くの方は「自分だけは大丈夫」と思っていたのではないでしょうか。「他人事意識」も大きな課題ですが、ではどうすればなくなるのかと聞かれると、答えは「経験すること」しかないようにも思います。でもそれでは遅い?
 竹内まりあさん作詞作曲の「みんなひとり」という歌があります。松たか子さんも歌っているようですがその一節を紹介します。

 生まれる時ひとり 最期もまたひとり
 だから生きているあいだだけは
 小さなぬくもりや ふとした優しさを
 求めずにはいられない

 若者たちの性行動の低年齢化。性感染症や人工妊娠中絶といった問題ももちろん考えなければなりません。ただ、この詩が教えてくれるように、小さなぬくもりやふとした優しさが自分の周りにあれば何かが変わるかもしれない。そのためにも、今年も一期一会、一日、一瞬の出会いを大切に、一日、一瞬が大切だと感じながら生きたいと思います。

『一日、一瞬が大切』

○『一番良かったこと』
 一年を振り返った10大ニュースということがよく取り上げられますが、皆さんにとって何が一番良かったことですか。何が一番印象に残りましたか。私にとって一番印象に残っているのは結婚27年目で念願のミカン狩りに行けたことでしょうか(笑)。その程度のこと、と思われるかもしれませんが、Noと言えず仕事を引き続け、年間200回を超える講演、週一日の診療、それ以外の研修会等々で全国を飛び回っていると、逆に当たり前のような日常、それこそ家で食べる普通の夕食がすごく有り難い、貴重なものに思えてきます。自分自身が「小さなぬくもり」や、「ふとした優しさ」を求め、ありがたいと思っている時に、それを求め、残念ながらちょっとした勘違いから残念な状況に追い込まれていく若者たちのことを責められないように思いました。

●『事例に耳を傾けてくれました』
 3年前から私のセンターで「スローガンをやめて、自分を、事例を語ろう」という研修会をしています。その1回目の受講生の方と先日お会いしたところ、「岩室先生。やっぱり自分のことを語ったり、事例を語ったりすると若者たちは耳を傾けて真剣に聞いてくれますね」と言ってくださいました。その保健師さんは今までは病気の話や、2次性徴の現象について話をしていたそうですが、研修会に参加してからはなるべく事例を紹介しながらそこから何かを考えてほしいという方向転換をしたそうです。

 「このじゅうじつした幸せな日々はいつこわれてもおかしくないと思いました。1日1日を大切にして生きていきたいと思いました。」

 「私は何度か“死にたい”と思ったことがあります。でも、話を聞いて命を大切にしようと思いました。うまれてきたんだから生きている意味はあると思いました。」

 どちらも中学3年生の感想文です。感想文では評価にならないという意見もありますし、その通りだと思いますが、一瞬でも何かを感じてもらえれば、それもいいのかなと思って今年も講演に飛び回ります。

○『なかったことに』
  一瞬を、それこそ一期一会が大事だという思いを強くしたのはある高校の先生の言葉からでした。いまどきの高校生はトラブルに巻き込まれそうになってもそのことを「なかったことにする」というのが得意だそうです。誰しも辛いことがあればその記憶を、その現実をなかったことにしたいですよね。しかし、現実問題としてその事実は容易には消えません、消せません。それどころか、その現実とどう向き合い、どう共に生き、可能であれば解決する方向に向かう手立てを講じるしかありません。しかし、「なかったことに」する若者たちの心をとらえた言葉が「そんなの関係ねえ!」だったとしたら悲しい、というかするどいですね。
 高校生が学校で、コンビニの駐車場で出産するというニュースを聞くと、「どうして」と思いがちですが、出産するまで妊娠は「なかったことに」なっていたのですね。それならガッテンです。しかし、その子たちが「なかったこと主義」に育った背景には大人たちの「なかったこと主義」があります。「なかったこと主義」をなくすには大人たちこそが自分たちの失敗をもっと語る必要がありそうです。
 今年もまた大いに岩室紳也の失敗シリーズを講演に盛り込みながら若者たちに何かを感じてもらえるようにしたいと思います。
 本年もよろしくお願いします。