紳也特急 105号

〜今月のテーマ『「正しい」とは』〜

●『テレビの反響はすごい』
○『裁判員制度』
●『自分の中の「正しい」』
○『正しいオナニーとは』
●『バランスが大事』
○『早漏のすすめ』

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●『テレビの反響はすごい』
 R30に出させてもらった翌朝、メールを開いたら100通を超えるメールが一度にダウンロードされ、「迷惑メール?」、「サイバー攻撃?」と思ったくらいでした。私が番組の中で「ホームページは『岩室紳也』か『コンドームの達人』で探してください。そこからメールを送ってもらえれば24時間以内に返事をします」と話したので、番組を見た直後から、中には見ながらメールを送ってくれた人もいたようです。正確には調べていませんが、私のPC向けのHPからのアクセスが3分の2で、携帯サイトからのアクセスが3分の1くらいでした。でも送られてきたアドレスは携帯のものが3分の2程度と圧倒的に携帯メールが多かったのが印象的でした。さらに、私の携帯サイト(http://homepage2.nifty.com/iwamuro/i-mode.htm)のアクセスも、PCサイトと比べて10分の1程度だったのが、R30以降、急速にアクセス数を伸ばしています。やはり若い人たちの間に情報を送るには、携帯でどれだけつながれるかがカギのようです。
 今回寄せられた相談内容は、どれも今まで多くの人たちから私に寄せられた相談内容と大差がありませんでした。妊娠したかもしれない。性感染症が心配。エイズの症状は。包茎は大丈夫か。早漏を治す方法はないのか。ベッドに押し付けるオナニーをしているが大丈夫か。コンドームが破れた。中には番組がきっかけでHPを見て、お子さんの包茎の相談をしてきた人もいました。
 私がオナニーやコンドームの話をする一方で、私を呼んでくれた水谷修さんが中絶をしないで欲しい。レイプされて妊娠したとしてもその子を産んで欲しいという話をしていました。このことに私がコメントをしなかったことで何人かの方から私の考えを確認したり、お叱りを受けたりしました。そこで、今月のテーマを「『正しい』とは」としました。

「正しい」とは

○『裁判員制度』
 死刑か無期懲役か。実刑か執行猶予付きか。有罪か無罪か。裁判員制度がはじまると、裁判員に選ばれた人は担当した裁判で判決を下さなければなりません。最近、様々な事件が報道される度に、自分だったらどう判断するだろうかと悩みます。それは他人には理解できない、受け入れがたい考え方や思考パターンというのがあるからです。
 「中絶は悪」と考えている人が大多数の国では、中絶をした人が裁かれることも考えられますが、日本では一定の条件が満たされれば合法的に中絶をすることができます。しかしその日本に、水谷修さんのように中絶をしないで産んで欲しいと考えている人も大勢いますし、その人たちに考え方を変えなさいというのは無理な話です。ただ、大勢の、多様な考え方を持っている人が同じ国の中で暮らすためにはルールを作り、それをある程度守り、そのルールを守れなかった人をそのルールにのっとって裁かないとそれこそ無法地帯になってしまいます。裁判員制度では自分たちが作ったルール、法律に照らし合わせて、ここが大事なのですが、自分の考えがどうかではなく、法律に照らし合わせて、判決を下すことが求められています。しかし、共通のルールにできないことも多々あります。

●『自分の中の「正しい」』
 水谷修さんが性を語る時に敢えて岩室紳也も同席させたのは、それこそ一見両極端の意見を持つ二人だからこそ、一緒に出演する意味があるということを多くの人に知ってもらいたかったからではないでしょうか。彼が定時制高校の教員だった時に私を教室に呼んでくれましたが、その時も「生徒にはコンドームの話は大切だけど自分にはそのような話はできない。だから岩室さんを呼んだ」と言ってくれました。R30の時も、「水谷修が語れない部分を岩室紳也が語る。岩室紳也が語れない部分を水谷修が語る」という姿勢でしたし、そのようなことを最初に水谷さんも断わっていました。ところが、水谷さんが中絶について語った時に私が何も言わないと、私もその姿勢を認めていると受け取られたようです。
 性教育バッシングが起きた時も(今でも続いていますが)、自分の中の「正しい」を声高に押し付ける人がいて、そのことが少なくとも政治やマスコミのレベルで「正しい」とされたために、「正しい」人たちと異なる考え方が共存することが許されず、「正しくない」というレッテルを貼られてバッシングされました。性教育バッシングから学ばなければならないことは、自分が「正しい」と思っていることは所詮、自分の中の「正しい」ことでしかないということです。特に人の生き方を「正しい」という言葉でくくろう、判断しようとすると自分の価値観を押し付けることになりかねないということです。

○『正しいオナニーとは』
 今回のR30の後にすごく多かった相談は「(男性の)オナニーの仕方」についてでした。私が「ベッドにこすりつける、手を使わないオナニーはやめろ」と話したのを聞き、ベッドにこすりつける、手を使わないオナニーをしている多くの男性から「正しい」オナニーの仕方を教えてくださいという相談を受けました。確かに私のHPにも「正しいオナニー」という表現も使っているのですが、何をもって「正しい」とするかは深く考えていませんでした。反省です。
 どうしてベッドにこすりつける、手を使わないのが問題なのかと聞かれると、泌尿器科の患者さんで増えている射精障害になるからと言っていました。しかし、ここで言う射精障害とは多くの場合は膣内射精ができないことを指します。一生女性とセックスをしない人、膣内射精で子供を作ろうと思わない人にとっては膣内射精をする必要がないので、ベッドにこすりつける、手を使わないオナニーでも問題はありません。このことも今まで話していませんでした。ここまで話すのはくどい、言い訳がましいと思いますが、正確に話すとそういうことになります。

●『バランスが大事』
 膣内で射精ができない一番の理由は、物理的な、ベッドのシーツなどこすりつけることで得られる強い刺激が膣内では得られないためです。しかし、男性の皆さんはどのような場面で射精するか、射精してきたかを考えてみてください。足を組んでペニスを両足の間に挟んだだけで快感を得て射精することもあるでしょう。私が思春期の頃はそれこそ性的な情報が少なかったため、少し強烈な映像を見るとそれだけで射精しそうになりました。週刊誌に出ている裸の写真を見ながらのオナニーであればあっという間に射精をしていました。すなわち、射精は単にペニスに対する物理的な刺激だけではなく、目や耳から入る情報、想像力で膨らむ性的な興奮が重なり合って射精することがわかります。
 射精障害の人たちは、主として物理的な刺激で射精を繰り返していたため、目の前にいるパートナーという存在に強烈な性的刺激を感じることがないようです。確かにインターネットやアダルトビデオなどに出てくる性描写を見続けていると、自分の目の前のパートナーが性的な興奮を覚える存在ではなくなってしまい、その上、射精に必要な物理的な刺激が得られないのであればなおさら膣内射精ができなくても不思議ではありません。

○『早漏のすすめ』
 一方で「早漏を治したい」という相談も少なくありません。早漏の基準、すなわちどれくらいで射精すれば早い、あるいは標準、遅いというのはありません。それに射精障害の人からみれば目や耳から入る情報+想像力+少しの刺激で射精ができる素晴らしい状態にあることになります。一番大事なのはバランス感覚だということを早漏が教えてくれています。
 国という体制を確立していながら、国民が宗教観、価値観の違いから混乱している国も数多くあります。そこにはそれぞれの「正しい」があるのでしょうが、共通する「正しい」や「ルール」がなく、双方の「妥協」もないために衝突が繰り返されています。
 「エイズ予防には正しい知識を伝えましょう」と言い続けると、感染した人は「正しくない人」となってしまう危険があります。特に自分の「正しい」を押し付けている人は反省です。わたしもこれから「正しい」を使うときはもっと注意します。本当に言葉は難しい。