紳也特急 11号

~今月のテーマ「知識だけでは行動に結びつかない」~

○『許されないこと』
●『男なら誰でも同じ思い?』
○『他人事意識が基本の「男社会の論理」』
●『正しい知識だけでは役に立たない』
○『想像力を育む方法』
●「2000 AIDS文化フォーラム in 横浜」のお知らせ
○『訃報〜山本直英さんを偲んで〜』

◆CAIより今月のコラム「体内の虹」

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知識だけでは行動に結びつかない

○『許されないこと』
 予想もしなかったことが身近で次々と起こっています。世間で言えば17歳の事件の数々も信じられないこと、予想できなかったことと人は思っています。
 実は私と同じ年の友達が酔っ払って民家の風呂を覗きこんでいるのを通報され警察に現行犯逮捕されました。本人はよく覚えていないということです。彼を知らない人が新聞やテレビで情報を得れば、バカ、まぬけ、スケベ、逮捕は当然、本当に初めてか、と言った声が聞こえてきそうです。本人を良く知る人からはどうしてあの人がという声まで聞こえてきます。酒の上であろうが何であろうが「悪いことは悪い」。その通りであり弁解の余地もないし、当人を擁護するつもりもありません。ただ、私の胸の中には何か引っかかったものが残り、何日経っても一向に消え失せないでいます。大人として、社会人として常識がある人と思われていた彼に何が欠けていたのでしょうか。

●『男なら誰でも同じ思い?』
 高校の時だったか、大学の時だったか、とにかく場所は奥日光だったことだけは覚えています。男友達数人で夕方の散歩に行った時、ホテル風の温泉旅館の大浴場の曇った窓ガラス越しに若い女子高校生風のはしゃぎ声と微かに動く陰を百メートルほど離れた所から見ただけで友達と大騒ぎをしていたことを思い出しました。今でも電車に座っていて目の前の女子高校生がだらしなく股を広げて座っていると「おじさんみっともないよ!」という天の声を聞きながら思わず目が動いてしまいます。階段を昇る時に超ミニの女性が前にいると目のやり場に困ります。でも、私は覗かないように、見ないようにしています。今回の事件を聞き、自分の行動に対してブレーキはどのように働いているのか正直なところわからなくなりました。

○『他人事意識が基本の「男社会の論理」』
 どちらかというと男は性被害について鈍感です。男は自分自身が性被害にあうという経験や意識が乏しく、実感として性被害について考えられる人が女性より遥かに少ないと言えます。男性読者は女性が性被害にあった場合、その人の心の傷がどれくらい尾を引くか考えたことがありますか。自分の家族が性被害にあった時のことを考えたことがありますか。私の身内が被害にあったら犯人を決して許せないと思います。みなさんはいかがでしょうか。
 ある時、娘さんがレイプの被害にあったというお母さんからの相談を受けました。警察では娘さんが危ない所を一人で歩いていたのが悪いと逆に注意された、状況を根掘り葉掘り興味半分に男の警察官に聞かれた、等々、警察の対応が悪く癒されない気分になってしまったという訴えでした。相談を続けるうちに、実はそのお母さん自身もかつてレイプの被害にあいその心の傷を今でも引きずっているということが明らかになっていきました。事情聴取をする男の警察官は、被害者である女性の心の傷についてどこまで考えられているでしょうか。性被害にあったことがその後ずっとトラウマとして残ることを加害者は、そしてその加害者を処罰する裁判所、あるいは社会全体がどこまで理解しているのでしょう。

●『正しい知識だけでは役に立たない』
 「覗きは悪い」という正しい知識を持っていても行動にブレーキがかからないことを今回の事件は示しています。覗きをしてしまった彼がどうこうという以前に、皆さんの中で覗かれた相手の人の気持ちについて考えた人がどれだけいるでしょうか。今回の事件も覗かれた女性、そして家族の恐怖感、嫌悪感、羞恥心、心のトラウマが早く癒されることを願わずにはいられません。被害者の気持ち、性に関することで言えば望まない妊娠をしてしまった女性の気持ち、HIVに感染してしまった人の気持ち、等、これらのことをもっと訴えて感覚的に理解できるようにならないと理屈でわかっていても箍(たが)が外れることがあります。正しい知識を普及させるだけでは行動に結びつかないのであれば、覗きをしないという行動がとれるような心のブレーキをどう育てるかということが課題になります。

○『想像力を育む方法』
 いざという時の人の想像力はいろんな経験や学習を通して育まれます。
 逆に経験が乏しい若い世代は想像力を働かせることが苦手です。
 想像力を育むためには疑似体験をしてもらうこと、体験談を聞くという形で話しをすることが有効です。
 ロールプレイもこのような効果を狙って行なわれますし、H.I.Voice ActはHIVに感染している人の投稿記事や詩を朗読することで、朗読を聞くことでHIVに感染している人の気持ちを感じられるような感性、想像力を育む活動をしています。
 私は人に話をする時は体験談風の話をふんだんに盛り込むようにしており、そうすることで生徒が真剣に聞くようになります。
 真剣にというより、聞きやすいのかもしれません。人は自分の周りの人が、異性が、恋人が何を考えているかを知りたいという知識欲があり、疑似体験をすることで関心を深めていきます。大切なポイントは、「○○さんと△△さん」というような組み立てをすることで「あなたと彼」、「あなたと彼女」、「あなたとHIVに感染している人」という想像力を働かせられるように持っていくことです。
 「痴漢はいかん」だけでは効果がありませんが、知らない男に痴漢をされている彼女の気持ちを考えてみよう、見知らぬ男にあなたの大切な彼女が痴漢をされたら君はどう思うだろうか。
 その時に「減るもんじゃない」と言えるはずがないよな。
 これが私の中の心のブレーキなのかもしれません。

 こんな調子で話していますがどう思われますか。

[時事通信社 2000年 6月27日 19:33 ]
HIV感染者、過去最多の530人=昨年、患者も増加に転じる−厚生省(時事通信)
 厚生省のエイズ動向委員会(委員長.柳川洋埼玉県立大副学長)は27日、1999年版エイズ発生動向年報をまとめた。報告されたエイズウイルス(HIV)感染者は、調査を始めた84年以降最多の530人、エイズ患者も初めて減少した98年から再び増加に転じ、過去最多の300人となった。
 年報によると、感染者は前年より108人増加。特に日本人男性は45.1%増の379人で、全体の71.5%を占め、感染経路では性的接触が83.6%だった。
 感染者全体を地域別にみると、東京と関東.甲信越が多いが、近年は近畿でも増加傾向で、九州でも増加の兆しがみられた。患者については、依然増加傾向が続いているとみられる。

予防が大切だと言うことがもっと強調されるといいですね。

●「2000 AIDS文化フォーラム in 横浜」のお知らせ
テーマ:いま、一人ひとりができること
期日:2000年8月4日(金)〜8月6日(日)
場所:かながわ県民センター
〒221-0835 横浜市神奈川区鶴屋町2‐24‐2(横浜駅西口徒歩4分)
入場:無料
主催:「2000 AIDS文化フォーラムin横浜」組織委員会
共催:神奈川県
後援:横浜市・川崎市・横須賀市・相模原市・横浜商工会議所エイズ問題対策
懇談会(予定)
今年の特徴:女性の企画が元気です
 岡田美里と語るエイズ
 北沢杏子の「エイズ模擬授業」(性を語る会)
 女性自身で守るこころ&からだ(清水敬子)
 神様がくれたHIV(北山翔子)
 女性とエイズ(ウィメンズネット横浜)
 ピル−「安全神話」の落とし穴(「エコロジーと女性」ネットワーク)
 女性用コンドーム(ぷれいす東京)
事務局:「2000 AIDS文化フォーラムin横浜」事務局
〒251-0025 藤沢市鵠沼石上1-13-7 藤沢YMCA内
TEL:0466‐26‐1151 FAX:0466‐26‐3406
E-mail abunkaf@yokohama-ymca.or.jp

訃報
 山本直英氏が67歳という若さで亡くなりました。性教育に関わっている人なら知らない人はいない大御所です。エイズ教育、性教育が少しずつ根付こうとする中でまだまだリーダーの一人として頑張っていただきたい方でした。何故か性教育にも派閥があり、流派のようなものもあります。私はそういうのが得意ではないので今までも、そしてこれからも一人で自分なりの考え方で行動しています。そんな私に山本直英さんは彼の関連の雑誌で書く機会を与えてくださったり、患者もよく紹介してもらいました。山本直英さんとの最後の思い出が彼の遺稿に共著という形で参加させていただいたことで、感慨深く、一方で責任の重さを痛感しています。今月中に「間違いだらけの包茎知識」(青弓社)(1600円+税)が出版されます。これは山本さんが相談を受けた包茎手術後の患者を私に紹介され、結局、山本直英+岩室紳也+患者の3人がそれぞれの立場で書いています。日本の包茎の常識を覆す本になることは間違いないと思います。ぜひ、一読下さい。
 山本直英さんのご冥福をお祈りします。合掌。

◆CAI編集者より今月のコラム
「体内の虹」

 音が我々に向かってくる。その「向かってくる」ことが愛ではないかと思う。「向かってくる」という意志を意識したとき、我々はプリズムのように体内の虹を映し、発することを知る。意志と意識に満ちた世界がそこには広がっている。あなたのまぶたが閉じられて漆黒の闇が訪れたとしても、光は残る。
                          S.K 音楽家