紳也特急 117号

~今月のテーマ『無関心(Indifference)』~

●『愛の反対はIndifference』
○『草食系男子』
●『男食系女子』
○『Indifferentではいられない?』
●『環境が変える性欲』
○『ビニール袋は無関心の証』

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●愛の反対はIndifference
 「愛の反対を知っていますか」と聞くと、最近は10人に1人くらいは「無関心」と答えてくれます。Yoshiさんの小説などを通してマザーテレサの「愛の反対は無関心」という言葉が広がっているのはうれしい限りです。私自身は未だに「愛って何だろう」と迷っては「愛の反対は無関心」という言葉に救われたり、また迷ったりという日々を繰り返していますが、何はともあれ説得力がある言葉と思っていろんな人に伝えようとしています。その私の質問「愛の反対を知っていますか」にはじめて「Indifference」と答えた人がいました。びっくりを通り越して感動でした。若い世代はすごいですね。
 その方とお会いしたのは先日岡山市で開催された日本泌尿器科学会総会の折、せっかくなので岡山市で熱心に思春期の若者支援に尽力されているウィメンズクリニックかみむらの上村茂仁先生に「一緒に飲みましょう」とお誘いしました(ごちそうさまでした)。その席に岡山市近郊で思春期問題に関心があるという美人3名が同席されていた中に、「Indifference」と答えた方がいました。その答えもびっくりでしたが、上村先生が声をかけられた3人ともがすごく思春期問題や性教育に積極的で、思春期のことに関わりたくて病院を辞めてきたという方もいらっしゃいました。
 ところが「岩室先生はどうして性やエイズの問題に関わっているのですか」と聞かれても、「エイズや性の問題が自分の前にたまたまあったから」です。上村先生に「どうして産婦人科医になったのですか」と聞いたら「親が産婦人科医だったから」というある意味安直な答えが返ってきました。安直な医者2人と、すごく熱心に勉強をしている女性3人という不思議な組み合わせでした。このような皆さんと話していて気がつかされたのが仕事のモチベーションを保つ上でも、仕事相手に対して「Indifferent」であってはだめだということでした。そこで今月のテーマをずばり「無関心(Indifference)」としました。

無関心(Indifference)

○草食系男子
 「コンドームをつけると勃起が継続できないんです」
 このような相談が最近増えているように思います。皆さんだったらどう返事をしますか。「専門医に相談してください」とだけは言わないでください。このようなことに対する専門医はいません(笑っている場合ではありません)。そもそもそうやって自分以外の人に振ろうとしているあなたはもしかしたらその相談者に「無関心?」。
 「あり得ない」。「変じゃない」。そう思っている男性だとなかなか相談者の役に立つ、相手に通じる返事はできません。私のHPでも「くり返しオナニーの際に練習しましょう」といったアドバイスをしていますが、そう答えつつ、いつも私の頭の中では「原因は、本質は、本当のところどこにあるのだろうか」という疑問が行きかっています。
 「草食系男子」といったことが言われていますが、もしかしたら実際にパートナーに対して強い性的な興奮を覚えない、感じられない人が増えてきているのかもしれません。確かに昔は「すぐ勃起してしまうのですがどうすればいいでしょうか」という相談がありましたが、最近そのような話は全くと言っていいくらい聞きません。その原因はどこにあるのでしょうか。

●男食系女子
 一方で女性からの相談が最近は明らかに性的な表現に躊躇しないものになっているように感じます。以前は「フェラで病気になりますか」というのは男子からの、少し冷やかしや講師の反応見たさの茶化しのような発言が多かったのですが、最近は女子が「フェラはどうですか」とか「飲んでも大丈夫ですか」というのを真顔で聞いてきます。「そんなことをクラスの男子の前で、友達と一緒のところで聞いていいの」と思ってしまう私の方がもしかしたら変なのかもしれません。ただ、女子がこれだけ性に対して前向きになると、以前は性的な面でリードしていた、というか自分から動かなければ性を手に入れられなかった男子が性的な面でも食われてしまい、男食系女子に性的なエネルギーを食べ尽くされて「草食系男子」が生まれているようにも思えます。

○Indifferentではいられない?
 上村先生は岩室の比ではないほどメール相談を受けています。携帯で相談を受けては自分の携帯からすぐに返すというとてもまねができない早業で対応しています。どうして一銭にもならないのにと他人事のように思ってしまいますが、自分のことに置き換えると、思春期の問題だけではなく、健康づくりの仕事も、HIV/AIDSをはじめとした診療でも目の前に自分が対応しなければならに課題があるとそのことを放り出して、あるいは忘れて他のことをすることができません。自分でも不思議なのですが、理由はよくわかりません。おそらく、単にせっかちだったり、忙しいのが好きなだけなのか、あるいは相手がとりあえずこちらを向いてくれているのがうれしくてついついいい顔をしたくなるのかもしれません。無関心でいられないのではなく、相手に無関心でいて欲しくない、関心を示してくれていることに反応して先にこちらから反応しているような気もします。ただ、少なくとも言えることは無関心ではない状態は決して居心地は悪くないですよね。お互いにとって。

●環境が変える性欲
 話を草食系男子に戻すと、何もしなくても女の子が近寄ってきてくれて、フェラもしてくれて、生でもやらせてくれる時代になると、男があくせくして、性欲に後押しされて獲物刈りに行く必要がありません。そのため、コンドームをつけるといった些細な(ご本人にとっては重大な)ストレスにさらされると萎えてしまうのも理解できます。「そこまでしなくてもいいじゃん」といったかいわなかったかはわかりませんが、「面倒」というストレスがあることは事実だと思います。
 肉食系動物は獲物を捕るのに必死にならなければなりませんが、草食系動物は干ばつになると困るでしょうが、いつもはのんびりと、目の前に広がっている草原でゆっくり、一日中食事をしていればいいのであくせくする必要がありません。草食系男子が増えているのは環境ホルモン等の関係で精子が減っていることと同じではないかといった声が少なくない中で、ふと、環境ホルモンではなく、性に対してあくせくしなくても性が手に入る環境になってしまったため積極的にならなくなった男たちが増えていると考えられないかと思いました。

○ビニール袋は無関心の証
 「初めて性行為をしようとなったときゴムがなくて彼がビニール袋をはめて挿入することになってたいへん悲しかったことがあります。もちろんうまく挿入できるわけがなかったのですが…。他にそんなことをしでかそうとする人がいればとめてあげてください。」
 このような声をいただきました。彼は避妊が必要ということはわかっていた。でもコンドームがなかった。身近にビニール袋があった。だからつかってみた。これだけのことでしょうか。「思いやりのこころを」とスローガンのように言うのではなく、「ビニール袋で彼女を悲しませないで」と言わなければならない時代なのです。すべての答えを与えられてしまっている今の環境が考える力を放棄させているとすれば「環境が本能を変えている証」と言えるのかもしれません。 だんだん、何が何だかわからなくなってきましたが、このようにいろんな人の行動の原因を考えることは相手のことに関心がある、Indifferentではないのかもしれませんが、それが「愛」なのか単なる「個人的な関心事、興味」なのか。後者なのでしょうね。