紳也特急 119号

~今月のテーマ『草食系男子』~

●『リアリティのある話』
○『あり得ない話』
●『初体験は襲われた時』
○『求む、男食系女子』
●『婚活の歴史に学ぶ』

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●『リアリティのある話』
 今回のお話の中で一番衝撃を受けたのは、エイズはタトゥーでも感染してしまうということでした。なぜかというとちょうど最近、友達がタトゥーを入れたいけど高すぎる。ちょっと入れるだけだから安いところにしょっかな、と言っていたのを思い出したからです。自分にタトゥーを入れることはこれからもないから関係のない話だと心の中で一瞬でも思ったのがはずかしいです(もちろんあのあと友達にはタトゥーを入れるならケチるな)と連絡しておきました。
 岩室先生のお話を聞けて本当に良かったです。というのも私が片思いしている男性に「付き合ったりはできないけどセフレにならなってあげる」と言われて悩んでいたからです。岩室先生のお話を聞くまでは、年相応にセックスへの興味もあったし「こんなに好きな人ならセフレとしてでも繋がっていたい!」なんて考えたりもしていました。
 岩室先生の講義を受けて、とにかくすごい授業だったなあと思いました。私は性についての授業が苦手で、保健の授業を受けるといつも手が震えていました。ですが、岩室先生の授業は同じ性の授業ですが、手は震えることなく、しっかり聞くことができました。
 今まで聞いてきたHIVやエイズの話はあまりにも自分自身の問題とかけ離れて思えていた上に、とても怖い話でもあったので、いつも聞いていて気分が悪くなり、耳をふさぎたい気持ちでした。だから聞き終わった後も自分自身の問題として受け止めることはできていませんでした。しかし、岩室先生のお話は自然と自分の中に入ってくるのを感じました。
 聴衆の感想は単に自分の話をどう受け止めてもらえたのかを知る指標になるだけではなく、いつも新たな気持ちと共に「Tattoo」や「セフレ(セックスフレンド)」が本当に身近な問題だということを再確認させてもらったり、性の話を嫌な思いで聞かされ続けた人がいることを再確認させてもらったりできるいい機会となっています。そしてそのような声がリアリティをもって私自身の考え方や話に大きな影響を与えてくださっています。そしてやはり一番リアリティがあるのが当事者の話です。
 先日、会うなり「わたし、草食系男子です」と自己紹介された人がいました。2号前に少し草食系男子のことを書いたのですが、その時の私はまだまだ不勉強だったようなので、今月のテーマはずばり「草食系男子」としました。

『草食系男子』

○『あり得ない話』
 大学生が女の子にお酒を飲ませ、集団でレイプをした事件で加害者が「合意の上」と供述したという報道を聞き、多くの人は「とんでもない」、「あり得ない」と思ったと思います。私もそう思いましたが、では、「どうしてあり得ないのか」ということを中学生や高校生にどう話せばいいのかを考えてみました。
 そもそも、若い女性の方がある男性を好きになった時、その女性はその男性と一番したいことは何でしょうか。年齢、性体験の有無、家庭環境等々で思いは違うでしょうが、最初からセックスをしたいと思いません。絶対「ノー」です。「そんなことはないよ。だって岩室さんが紹介した感想の中にセフレになってもいいという女の子がいたじゃないか」と反論を受けるかもしれません。しかし、講演の中で「女性のあなたが今大好きな彼と付き合うことになりました。その彼と何をしたいですか?」と投げかけた後に、「セックス」、「キス」、「メール交換」、「おしゃべり」、「一緒に歩く」といくつもの選択肢を上げ、「大多数の女の子はセックスをしたいとは思っていないよね」と話すと納得した表情になります。すなわち恋人との関係でさえもセックスを必ずしも求めていない女性が、複数の男性とセックスをすることに合意するというのはあり得ない話です。
 一方で「男子は今大好きな彼女と付き合うことになりました。彼女と何がしたいかな」と投げかけ、「セックス」、「キス」、「メール交換」、「おしゃべり」、「一緒に歩く」と言われたら、「一緒に歩くもいいけどできたらセックスをしたいと思っているのが岩室を含めた多くの男たちが思っていることだよな」に納得顔の男たちがほとんどです。ところがそう話しながら、でも最近セックスをしたがらない「草食系男子」が増えているという思いがいつもどこかに引っかかっていました。そのことへの答えをくださったのが本物の「草食系男子」の方でした。

●『初体験は襲われた時』
 「岩室先生、私、いま流行りの草食系男子です」と自己紹介してきたのがある雑誌の取材を受けた時の若い記者の方でした。確かにマッチョ系ではなく草食系と言われても「なるほど」という方でしたが、決してもてないというタイプでもありません。性に関する取材だったので思わず、「でもセックスの経験はあるのでしょ」と聞くと「はじめての経験は襲われた時でした」という思いもしない回答でした。女性がレイプの被害者になり、それが初体験という人もいるでしょうが、少なくとも女性の場合は体の構造から本人が望んでいなくても「性的接触」は可能です。しかし、「男は興奮しなければ勃起もしないし、レイプは成立しないんじゃないの」と考えながら、「なるほど。あなたの場合はセックスはしたい、性的な欲求はあるけど相手を満足させる自信がなかったからむしろ積極的に性行為を求められた方が安心して勃起し、性行為に至れたのですね」と聞くと「その通り」とのことでした。
 男性が性的な興奮状態を維持するには様々な刺激が必要です。異性愛者で、かつ性的な情報が少なかった時代に育った私などは、それこそ想像力だけで十分でしたし、いつまでも大事にとっていたプレイボーイから切り抜いた同じ写真で飽きることはありませんでした。その私が生身のパートナーを持てばその人と上手くやれるかといったことを考えることなく、自分だけの世界に没頭していたといわざるを得ません。ところが今時の草食系男子はそうではないようです。

○『求む、男食系女子』
 草食系男子に対して男食系女子と書いたら「肉食系女子」じゃないのと指摘を受けました。確かにそう言われているんですよね。「男食系女子」というのであれば「女不喰系男子(女を喰わない男子)」と言わないといけないのかもしれません。言葉って難しい。しかし、今回の草食系男子との出会いを通して、あらためて男食系女子(もしかして男食女子?)がこの世を救うのだろうかと思ってしまいました。
 草食系男子の定義を論じても仕方がないように思いますが、Wikipediaに挙げられている草食系男子の特徴の中で一番気になることが「傷つけられたり、他人を傷つけることを嫌い繊細である」ということです。従来の性欲の解釈では男は本能的に性欲が強く、性欲を持て余す狼となる可能性があるという人もいました。しかし、今は男たちには性欲という本能があるにもかかわらず、それを表出できないほど多くのストレスを感じ、狼だった男たちがかっこいい狼であることを自分に課すがあまり、そのストレスに押しつぶされています。セックスが上手くできる自信がないからセックスをしない。でも実はしたいのが草食系男子のようです。
 ではどうすれば本能までも心の奥に押し込んでしまった男たちが自分の性欲とちゃんと向き合えるようになるのでしょうか。その答えはもしかしたら男食系女子の出現かもしれません。要は自信があるか否か、自信を持てるか否かだとすれば、一度でも「あなたでも大丈夫」というお墨付きを与えてあげる必要があります。そのお墨付きは決してなぐさめの「あなたは大丈夫」といった言葉ではなく、むしろ実体験を通した自信喪失の回復や、自信体験の繰り返しかもしれません。女性からの積極的なアプローチがあれば安心して自分の性欲と向き合えるようになるのが草食系男子なのかもしれません。

●『婚活の歴史に学ぶ』
 では、昔の男性たち(といっても特定の時期を想定しているわけではありませんが)には草食系男子がいなかったのでしょうか。婚前交渉(という言葉も死語になりましたが)がご法度だった時代に草食系男子がいたとしても、お見合いで結婚させてもらい、本能的には興味があるものの、それまで与えられたことのない餌を目の前にぶら下げられた結果、ちゃんとセックスができるようになっていたと思いませんか。最近、親が子供の婚活に一生懸命になっているという報道をよく目にしますが、もしかしたら昔から草食系男子、というか自ら積極的にパートナーを見つけることができない男子が多い日本のなかで、昔の見合いという制度は草食系男子にセックスをさせる、そして結果的には結婚、出産を狙った制度だったのかも。その意味でも今の時代の少子化対策は政府挙げての「婚活支援」が必要だということを草食系男子の出現が示していると言えるのかもしれません。さて次期衆議院選ではどの政党が「婚活支援」をマニフェストに入れるのでしょうか。ぜひそこに一票を投じたいと思います。