紳也特急 132号

~今月のテーマ『包茎と包皮とHPV』~

●『生徒の感想』
○『包皮が引き起こす感染』
●『HIVを受け入れる包皮』
○『むいて、洗って、感染予防』
●『できることから始める予防』
○『HPVを増やす包皮』
●『コンドームで感染したHPV』
○『むきむき体操が香港に進出?』

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●『生徒の感想』
 7月の生徒向け講演ラッシュは実は自分自身のレベルアップにつながるハードな月間でした。そんな中でいただいた感想を紹介します。

■バーチャルと現実を分けて考えるようにという言葉がまるで自分に向かって言っているのかのような言葉で胸に突き刺さりました(高校3年女子)
■あ、18歳以下はAV見ちゃダメですよ(笑)(高3女子)
■とても印象の良い方だと思いました。将来のためになりました。もっと、先生のように勉強しようと思います。知識だけでなく、経験でも学ぼうと思います。先生のような方に出会えてよかったです。大げさかもしれませんが、先生から耳や、こころや、目が話せない位先生の話は心打たれました。(高校2年女子)
■一番印象に残ったのは岩室先生が最初に言っていたことです。「私が一番医者になってよかったことはなんでしょうか?」と何人かの生徒に質問をしていました。私はその何人かの人たちと同じく「いろいろな人々との出会いがある」だと思っていました。しかし先生の答えは「人の死の瞬間に立ち会えたこと」とおっしゃっていました。私はできるならば人に限らず「死」には立ち会いたくないものです。しかし、よくよく考えれば、「死」というその人の最後に立ち会えるということ、「命」の大切さを身近に考えることができるのかなと思いました。(高校2年女子)
■今日、岩室先生の話を聞いて、自分のことを考えてみました。私は今、彼氏がいるのですが、何回かSEXをしていても、「ゴムがない」という理由で、そのままゴムをつけずにSEXをしています。何回も嫌だということは言っているのですが、やっぱり嫌われたくないとゆうことが頭にあって、いつも本気で拒否しても流されてしまいます。先生が言ってた通り、愛の反対は無関心で、今の彼氏は私の気持ちには無関心で、私自身、性に対しての責任の重さを理解しきれなかったです。私の高校で、一番仲が良かった子は、昨年9月に妊娠してしまいました。そのことを誰より身近に居て、話を聞いて、その子がどんなに苦労や苦い思いをしたかを知っていて、私はどうなんだ、とやっと向き合えました。正直、次の生理が来るかどうか、とても心配です。AIDSや妊娠をしないためにも、彼ともう一度、よく話したいです。万が一、妊娠をしていたら私はまだどうすればいいか正直分からないです。できれば1か月くらい前に先生に会いたかったです。でも、今日、先生の話を彼氏も聞いているので、二人でよく話したいと思います。今日は本当にありがとうございました。(高校3年女子)
■私が一つ疑問なのは、例えば大好きな彼氏にフェラをしてくれと頼まれ、やったとして、精子が口に入り、それで妊娠はしてしまうのかが疑問です。自分も高校生でいろいろと体験する年頃になってきたので、正しい情報を頭に入れ今後の生活を過ごしていきたいです。(高校1年女子)

 フェラで妊娠するかが不安な子がいる一方で、妊娠に気が付かない女の子がいるというこの不思議。さらに不思議なことに、私が取り上げたいと思う感想がすべて女子生徒さんからのものだということです。男は性に、思春期に学べない? だから自殺も多い? そんなことを改めて実感しています。
 この講演ラッシュを通して、間違いなく私の講演の中に根付いたのが「包茎と包皮とHPV」でしたので、それをそのまま今月のテーマとしました。

『包茎と包皮とHPV』

○『包皮が引き起こす感染』
 エイズ対策で、男性50万人を包皮切除へ ボツワナ(2009年05月08日 21:08) http://www.afpbb.com/article/life-culture/health/2600253/4123262
 【5月8日 AFP】世界で最もHIV感染率の高い国の1つ、ボツワナの保健省は7日、エイズの感染拡大防止策として、男性約50万人に包皮切除を行うと発表した。保健省によると、計画は、包皮切除を行った男性ではHIVに感染する確率が2倍から3倍低くなるとの一連の研究結果を受けたもの。向こう5年間で、施術可能年齢以上の全男性の約80%にあたる46万人に対し、施術を行いたいとしている。 政府は現在、テレビやラジオで、男性にクリニックでの安全な包皮切除を促すコマーシャルを流している。ボツワナではかつてエイズ感染が急速に拡大し、2003年に抗レトロウイルス薬が登場するまで約200万人が命を落とした。国連合同エイズ計画(UNAIDS)の2005年の報告によると、15歳から24歳までの妊婦におけるHIV感染率は2001年以来、35-37%で推移している。25歳以上の妊婦における感染率は、前回調査の2003年では43%となっている。
 少し古い記事ですが、最近、このことで取材も受けたので、あらためて包茎や包皮に関連するウイルスについて考えてみました。

●『HIVを受け入れる包皮』
 HIV/AIDSが話題になり始めたころから、HIV感染の予防方法として割礼、包皮を切除することを推奨する研究者たちがいました。1994年に横浜で開催された国際エイズ会議でもカナダの学者さんがそのような発表をし、私が包皮内を清潔に保てばいいのではといったのですが、残念ながら質問の意図が伝わらなかったのを鮮明に覚えています。
 確かにアフリカで割礼をした人たちと、割礼をしなかった人でHIVの感染率に有意な差がある、すなわち割礼を受けた人の方がHIVに感染しにくいという事実があります。WHOといった信頼できる期間が出している報告書(http://whqlibdoc.who.int/publications/2007/9789241596169_eng.pdf)にもそのように記載されています。丁寧に読むと私が後段で記載するようなことを決して否定はしていません。ただ、実証されていないことも事実です。

○『むいて、洗って、感染予防』
 包茎は亀頭部が包皮に覆われた状態です。アフリカ人の包茎と日本人の包茎は見た目にも、形態的にも同じものです。しかし、同じようにいわゆるむけるペニス、すなわち仮性包茎の状態であったとしても、むいて洗っている日本人と、むいて洗う習慣がないアフリカ人では包皮の状態が異なります。むいて洗う習慣がないと、包皮内がただれ、炎症が起き、様々な白血球が集まり、HIVに感染しやすい状態になります。それに対して、同じ仮性包茎でも、普段から入浴時に、「むいて、洗って、また戻す」を繰り返している人の包皮内の皮膚は炎症もなく、日々の刺激によってHIVが付着しても取り込まれることもなく、感染しにくい状態になっています。
 さらに、包皮内にHIVが入ったとしても、入浴時に洗うことで、HIVが物理的に包皮内から除去され、感染を予防できます。すなわち、包皮をどう扱うか、包皮をどう扱っているかで、HIVに感染する確率が大きく変わってきます。

●『できることから始める予防』
 HIVを受け入れやすい状態になった包皮がなくなればHIV感染がなくなるのは自明の理です。確かにアフリカではそもそも感染症とは何か、HIV/AIDSとは何か、HIV感染を予防するにはどうすればいいかを理解してもらうことも難しい上に、そもそもコンドームが入手できません。そのような地域では包皮を切除するという選択肢も考えられます。しかし、私にはどうしてもこの発想はいきなり最後の手段を持ち出しているように思えてなりません。
 皆さんは交通事故を減らすために車をなくすという方法を選択しますか。車社会から脱却できないから、ぶつかりそうになったら止まる車が開発中です。夜中に車道を歩く人を映し出す装置がついている車がすでに売られています。今度、車を買い換えるなら、居眠り運転をしていても車線からはみ出すのを防止してくれる装置が付いている車種にしたいと思っています。「まずは自分ができることから始める予防」というのが私のリスク回避、性感染症予防の基本姿勢です。
 アフリカでは入浴する習慣を定着させる以前の問題として、水の確保が大変です。そんな中で、ペニスを「むいて、洗って、また戻す」というのは非現実的な選択肢と言われるかもしれません。しかし、欧米の発想が「包皮が引き起こすHIV感染を包皮切除で予防」というのであれば、「包皮の扱い方(むいて、洗って)で、HIV感染予防」というのを日本的な健康教育として輸出するというのはいかがでしょうか。風呂がなくても、それこそ自分の手に唾をつけて、「むいて、洗って、また戻す」とか、「一日一回、むいて天日干し」といった包皮内清潔方法を伝えるだけでHIV感染がかなり予防できるはずです。

○『HPVを増やす包皮』
 HIV感染が包皮の扱い方で予防できると同じように、子宮頸がんの原因であるHPV感染も包皮の扱い方で予防できるはずです。「岩室先生はHPVワクチンをどう思いますか」という取材が結構あります。「できることから始める予防」という基本線からすると、本人ができること、保護者ができること、社会ができることを分けて考えています。
 中高生ができる最も効果がある選択は「ノーセックス」。保護者が確実にできるHPV感染予防対策は「ワクチン接種」のお金を出すことです。では、HPVを女性にうつす側となる男性ができることは何でしょうか。
 HPVは包皮内で増殖するため、男性の陰茎がんは包皮をむくことができない真性包茎の人の病気です。仮性包茎やむけちんが陰茎がんにならないのは、HPVを洗い流すことができるからです。同様の理屈で、包皮内をいつもごしごし洗って清潔にしていれば、女性にHPVを渡すリスクが少なくなります。包皮はHPVを増やす場所ですが、扱い方でパートナーにうつす可能性が減少します。ごしごし洗おう、おちんちん。

●『コンドームで感染したHPV』
 コンドームがHPV感染予防にどの程度有効かという議論があります。今のところ「コンドームはHPV感染予防には有効ではない」ということになっていますが、本当にそうでしょうか。単純に考えてもコンドームで亀頭部や包皮内板のHPVを覆ってしまえば、ある程度は感染予防になるはずです。
 しかし、私の患者さんで、コンドームでHPVに感染した人がいました。直腸内の尖圭コンジローマです。この「直腸内」というのがみそです。一対一の関係性でも、自分自身の肛門周囲の皮膚にHPVが存在すれば、パートナーにそのHPVを肛門内に挿入され、尖圭コンジローマを発症した可能性はあります。しかし、直腸内だけにコンジローマができていることと、彼が「絶対コンドームをつけていました」と言っていること。さらにHIVにも、肝炎ウイルスにも感染していなかったこと。これらを合わせて考えるとコンドームに付着した別の人のHPVが直腸内に挿入されたと考えられました。
 彼はハッテン場という複数の人とセックスをする場に行っていたと言います。HIVや性感染症予防のためコンドームの装着だけは相手に必ず求めていたそうです。しかし、パートナーとなった人がコンドームを装着したまま、別の誰かのHPVをコンドームに付着させた後に彼との肛門性交に至れば、コンドームの先端に付着したHPVが直腸内に挿入されても不思議ではありません。
 でも、言えませんよね。「中学生、高校生のみなさん。コンドームで防げないのが、複数の人とのアナルセックスで感染するHPVですよ。それも受けが危ないですよ」とは・・・・・。予防教育は難しい・・・・・。

○『むきむき体操が香港に進出?』
 以前、ベビモ(Baby-Mo)という雑誌で包茎のことを取り上げてもらったのですが、そのベビモが香港に進出することになり、私の記事がそのまま中国訳になりました。漢字で書いてあるとはいえ、本当にチンブンカンプンですね。中国語が読める方は、私のHPのトップからリンクしてありますのでぜひご覧になってください。
 たかが包茎、されど包茎。全世界が真剣に包皮と向き合う時代になってきたようです。おちんちん先生の責任は重大です。

追伸
 8月6日(金)~8日(日)まで第17回AIDS文化フォーラム in 横浜が始まります。皆様のご来場をお待ちしています。

http://www.yokohamaymca.org/AIDS/