紳也特急 149号

~今月のテーマ『教える難しさ』~

●『コンドームが「教材」になると』
○『最低ライン(60点)教育の課題』
●『「売春」と「援助交際」の違い』
○『レイプより怖いデートDV』
●『主語抜きで教えると』
○『彼氏は「レイプ」じゃない』
●『本人がよければいいのか?』

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●『コンドームが「教材」になると』
 ある高校で先生に「最近の高校生はコンドーム柄のネクタイを見てもそれが『コンドーム』だということに気が付かないんです」と話したら、「コンドームも『教材』の一つになったのでしょうか」と言われました。学校ではいろんなことを教え、どの教科もかなり実生活に役立つ内容になっているのだけれど、「教材」はあくまでも授業の中で教えてもらい、試験が終われば忘れてしまう、忘れてしまっていいことになっているとのことでした。もちろん、本当はそうではないはずですが。
 高石友也さんの「受験生ブルース」の「ひと夜ひと夜にひとみごろ(2の平方根=1.4142 1356)。富士山麓にオウム鳴く(5の平方根=2.2360679)。サインコサインなんになる」というのを思い出します。この歌を未だに覚えているのは何度も仲間で歌ったりしたからでしょうが、肝心の「サイン」「コサイン」について言えば「何でしたっけ」という悲しい有様です。それもそのはず。ここ何十年もサイン、コサインに無関係な生活をしてきましたのでさっぱりわからなくなりました。やはり実生活の中で、他人との関わりの中で確認し続けないと頭に、心に残らないようです。コンドームも友達同士でもっと触り、騒ぎ、そしてドキドキしながら買わないとだめですよね。
 言葉も同じでした。先日、高校生に「『援助交際』ではなく『売春』と言いましょう」と話したら「『ばいしゅん』って何ですか」と聞かれたので「売春」という字も教えたのですが知りませんでした。私が抱いている「売春」にまつわるイメージを伝えようとしたのですが、それも伝えきれませんでした。そこで今月のテーマは「教える難しさ」としました。

『教える難しさ』

○『最低ライン(60点)教育の課題』
 確かに保健体育の教科書のみならず、どの教科も、どの教科書も大人が勉強をしても大変役立つ内容になっています。しかし、生徒さんたちから見ると、授業で教わることは所詮試験対策のために覚えることであって、決して実生活で役立てようとか、役に立つと思って勉強していません。私自身の高校時代を振り返っても授業の中で学んだことはあくまでも試験をパスするためのものでした。ただ、大学入試では人より一点でも多くとらなければならないので教科書のみならず参考書等を駆使してそれなりに真剣に勉強をし、いまでも残っているものが少しはあります。
 しかし、大学に入って勉強や授業に対する考えが大きく変わったのを今さらながら思い出しました。医師国家試験のように6割正解すればいいという試験の場合、人はほどほどに勉強するものです。医学部での勉強は大変というものの、ほとんどの人が進級しますし、国家試験も受かります。大学が全入時代になった今、高校でほどほどの成績をとっていればそれなりの大学に推薦入学で入れるとなればやはりほどほどにしか勉強もしないので、自ずと記憶に残らない知識ばかりになっていって当たり前です。

●『「売春」と「援助交際」の違い』
 言葉は意味を知ってはじめて記憶に残るものですが、言葉を教えることが難しくなっています。援助交際、援交という言葉が使われるようになってかなりの時間が経ちました。しかし、私にとって「援助交際」という言葉は「売春」を「交際」の範疇に入れるとして当初から抵抗感が強く、今でも「『援交』ではなく『売春』と言おう」と言っています。一方で「売春」というのは売る側の責任のように受け止められるので「買春」と言おうと言い続けている方もいます。この考え方も一理あるなと思い、私も「買春」という言葉を使うこともあります。いずれにせよ「売春」や「買春」は女性が体を売り、それを男がお金で買う行為であり、私にはかなりドロドロした暗いイメージが付きまとう言葉です。(もちろん男が男を買うもあります)
 ところが高校生と援助交際の話をする中で、バイトより割はいいし、減るもんじゃないし、妊娠や性感染症といったトラブルをコンドームで予防するのであればいいんじゃないと本気で思っている子が少なくないようでした。「売春をする人間なんてそれこそやり逃げどころかあなたを殺すかもしれないんだよ」と言っても「まだそのような経験をしていない」と変な自信を持っています。
 さらにパートナーに処女性を求めないどころか、「処女は面倒」という風潮もある中、パートナーが過去に、誰と、どのような関係でセックスをしていようが関係ないというのです。だから「援助交際も売春もやっていることが同じならどっちの言葉を使ったっていいんじゃない」というのが若者たちの受け止め方で、ちゃんとオジサンに気を使ってメールには「売春」って書いてくるのです(苦笑)。

○『レイプより怖いデートDV』
 こんな相談がありました。ある学校で「デートDVに注意!!」と教えた後で生徒さんから「デート中に彼氏に無理やりやられてしまったんだけど、これってDVじゃないですよね」と聞かれたとか。
 最近よく「デートDV」という言葉を耳にしますし、講演の中で取り上げて欲しいと言われることもありますが、どうも教える側、問題提起をする側と実際にデートDVに遭っている人の間に大きな隔たりがありそうです。他人がみると「それってデートDVじゃない」と思えることでも、本人は付き合うってこんなものかと思っている場合も少なくありません。「それってデートDVじゃない」というサイトもあります( http://www.1818-dv.org/ )が、当事者はこんなサイトを見るまでもなくその状況を(他の人のようにパートナーができた幸せな自分がいることに満足して、いろんな不満や不安はなかったことにして)受け入れているようです。
 個人的にはデートDVという視点で取り上げるのではなく、人と人が付き合うと無意識のうちに相手を傷つけることがあることを仲間とのいろんなやり取りの中で学習していくしかないことを伝えることの方が大事だと思っています。DVかどうかは何より、本人がされていることがいやかどうかが最大のポイントです。ところが今回の相談者は「無理やりやられた」ことよりも、授業で取り上げられた、やってはいけない「デートDV」という状況に自分が遭遇しなかったという保証が欲しいのです。自分自身の感情をここまで抑えていたら、カップルだったら「無理やりやられること」は「あり得ること」と受け入れる女性は後を絶たず、デートDVは増える一方なのでしょうね。

●『主語抜きで教えると』
 「売春」を「援助交際」と置き換えることで、「体を売っている自分」という存在を「交際している二人」にぼかすことができます。一方で今の「デートDV予防教育」では「あなたが注意しないとあなたが被害にあいますよ」と教えます。すなわち、これまでの授業でほとんど主役にならなかった一人ひとりがいきなり「あなたが」と主役という立場で注目されることになります。もちろん保健体育の授業も、教科書も、これまでの性教育も「あなたがトラブルに巻き込まれないために」という視点でされてきたはずですが、どこか他人事でした。すなわち、病気は教えても、トラブルを教えても決して本人が主役になることはありませんでした。セックスにしても大勢している中の一人でしかありませんでした。しかし、「あなたがされたことは『デートDV』だよ」と言われてしまうと永遠に「デートDVされた私」が残り、そのプレッシャーに押しつぶされてしまいます。これは主役になったことがない人にとってはすごく怖いことなのでしょうね。

○『彼氏は「レイプ」じゃない』
 最近FacebookやTwitterをよく使うのですが、「デート中に彼氏に無理やりやられてしまったんだけど、・・・」に「デートDV」ではなく「レイプ」でしょ。犯罪じゃないの???」と書き込んだら興味深いことを教えてもらいました。
 強姦って、被害者にまったく過失がないのにも関わらず被害を訴えにくい犯罪ですが、周りの認識や反応も影響するとのことでした。今どきの若者の「強姦」や「レイプ」の概念は、ビデオやドラマで作られる暴力的なものだそうです。高校生の間では、「彼氏にされたのってそれはレイプじゃないでしょ(笑)」っていう認識が大半とのこと。自分がちょっと好きだった先輩に告白したらその場でやられちゃった(思いがけず=同意していない)、というのはレイプだとは認識していないそうです。処女性に対するこだわりが少ないとなおさらでしょうね。
 となるとつい先日新聞沙汰にもなった柔道選手による事件がありましたが、犯人側が「知り合いにされたのってそれはレイプじゃないでしょ」と思っていたとしたら今後もお同じような犯罪が増えるのでしょうか。どうすればこの犯罪の未然防止ができるのでしょうか。

●『本人がよければいいのか?』
 「本人が気にしていないのであれば『売春』も『レイプ』もOKなのか」という議論をした時、「本人の意識の問題」だけではなく、「社会規範、社会のルール」の問題だという結論に達しました。しかし、社会の規範も変われば、ルールの解釈も人それぞれです。今日も「電車の中で平気で携帯でしゃべる」、「人にぶつかってもごめんも言わない」、他者の存在を一切気にしない、気にかけられない人たちが増えているのを目の当たりにしています。「彼氏ならレイプじゃない」という社会の風潮が一般化する一方で、少なくともそう思っていない人たちも相当数いるわけですからこれからいろんな問題が噴出するのでしょうか。
 で、どうする。そのような人には多くの人との関わりの中で、経験の中で学んでいただくしかないのでしょうね。そのような仕組みづくりが横浜市から始まります。「乞うご期待」。

http://www.city.yokohama.jp/me/kodomo/ikusei/kyougikai/file/chirasi.pdf

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