紳也特急 157号

~今月のテーマ『包茎手術はなぜなくならない』~

●『泌尿器科医だったことを実感』
○『悩みもクレームも源は同じ?』
●『経験に勝る説得力なし』
○『岩室もクレーマー?』
●『被害者をどう救うか』
○『余計なことをしてはいけない時代』
●『学習指導要領と包茎』
○『どうせ手術するなら腕前が大事?』
●『知ってどうする?』

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●『泌尿器科医だったことを実感』
 思春期の若者たちを診る泌尿器科医が絶対に見逃してはならない、しかも緊急に対応しなければならない疾患に久しぶりに遭遇し、自分が泌尿器科医だったことを改めて実感させてもらいました。
 週一回の外来の最中に「開業医の先生から『小学生の男の子が朝から睾丸(精巣)が痛いと言っているので診て欲しい』と連絡が入っていますが受けていいですか」とのこと。精巣捻転症(精索捻転症)が疑われるので「すぐに来るように言ってください。そして来たら最優先で診ます」と指示。まもなく受診した男の子は朝の4時(ほとんどの子が何時何分と言えるぐらい発症の時間をはっきり記憶しています)に急に痛くなったとのこと。熱もなく(感染症が否定されます)、陰嚢内の精巣も少し腫れて痛がっているので精巣捻転症と診断。
 精巣は陰嚢内で上下に動くことはあっても、精巣自体が陰嚢内で回転することはありません。しかし、精巣が大きく成長する思春期に精巣が陰嚢内で180度~720度回転することがあります。回転が起こった結果、精巣から血液を運び出す静脈が締め付けられ、精巣にちゃんと新鮮な血液が流れないうっ血した状態になってしまいます。そのまま放置しておくと数時間で精巣がだめになってしまいます。緊急手術をと診断したものの手術ができるのが早くても3~4時間後。転院となればもっと待たされるので、外来で応急処置をすることを決断。回転しているだけなので、その回転を戻せばいいので、陰嚢内で精巣を180度ずつ回転させてみたところ、360度回転したところですっと痛みが引き、捻転が解除されました。もちろんそのままにしておけば再発する可能性があるので、その日のうちに手術をし、患側の精巣の血流が良好なことを確認し、両方の精巣を固定し無事終了。
 泌尿器科医は精巣捻転についてはちゃんと勉強をするのに、なぜか包茎には無関心。確かに精巣捻転を見逃すとその精巣がだめになってしまいます。実際、両側の精巣を失った人もいます。でも包茎も結構深刻な悩みになりますし、手術を受けた人も多くのトラウマを抱え続けることになります。そこで今月のテーマを、「包茎手術はなぜなくならない」としました。

『包茎手術はなぜなくならない』

○『悩みもクレームも源は同じ?』
 相変わらずHPからいろんな相談が寄せられます。真摯に答えているつもりですが、HPに書かれている内容についての相談が後を絶たず「ちゃんとHPを読んでから相談してください」と返すケースが増えています。なんとなく「安易に聞くなよ」という思いがあったのですが、次のような相談を受け、HPに私なりの答えが書かれていても納得できない人が多いことを実感させられました。
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重度の真性包茎の場合でも、手術をしなくても治療可能なのでしょうか。勃起時に亀頭がまったく出ず、包皮口が2~3ミリぐらいしかない場合も実際にあるようです。そういう場合でも治った例がありますか。
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 HPを丁寧に見ていただければピンホールでも手術不要となっているのに、この方が納得する説明が見た範囲のHP上にはなかったようです。これは包茎の話だけではなく、最近世の中に増えている様々な相談やクレームにも相通じることです。自分がイメージしていた答えや考え方をすべて満足させるものでなければ納得できず、そこにある情報を理解する前に次なる疑問や憤りが出て、次なる答えや対応が欲しくなる。でも最後は自分で調べるしかないと思うのですが・・・・・

●『経験に勝る説得力なし』
 私も包茎やペニスの状況にはアンテナを張っているつもりでしたが、この方の観察、情報収集はすごいものがありました。
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10歳前後から18歳前後の少年たちの包皮切除手術ずみの陰茎を見たことがあります。手術をしなくても真性包茎が治るのに、親に自分の陰茎を不本意な状態にされた、でももう元どおりにはならない、と手術を受けた子どもが思い悩む恐れがあると思うのですが、先生はどうお考えでしょうか。私自身、大学生のときに手術をしましたが、今は手術までしなくてもよかったのに、と後悔しています。特に未成年の場合、親の考えで包茎の手術をされるわけで、心に傷を受ける心配があると思います。
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 私は手術をやめろと繰り返し言っているのに、と思いつつ、HPだけを見てもわからないのですね。「あなたの意見に賛成です」と言わないと賛成なのか反対なのかがわからない。ご自身が証明されているように、「情報」を正しく伝えるのは本当に難しいです。ただ、こうやってこの方のご経験を紹介することで、私が「手術は不要」といっただけでは伝わらない多くのことが伝わるんです。経験談のご提供に感謝です。

○『岩室もクレーマー?』
 医者も現代を生きる人たちで、何の疑いもなく包茎は手術すべしと思っている医者が少なくありません。小児科医の中には何の疑いもなく「泌尿器科に行きなさい」と責任を放棄し、「小さい時から包皮をむくなんてとんでもない」と現実を知ろうともしない対応をしています。ま、「前立腺がん検診(PSA検診)の問題を論理的に指摘しても議論に応じていただけない先生たち」と、「納得できる答え以外は受け入れられない多くのクレーマー」とどこか同じではないかと思えてなりません。でもその人たちから見れば私がわけわからないことを言うクレーマー?

●『被害者をどう救うか』
 自分はいろいろやっているつもりでも、結局のところいろんなデマの犠牲者になってしまう方々から見ると私の活動はあまり意味がなかったのかなと思います。
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私は先生の姿勢に敬服しております。ところが現状としては残念なことに、真性包茎の人の不安をあおるような広告が雑誌にもネット上にあふれています。中には法外な治療費を払わされたり、劣悪な手術をされたりして泣いている被害者もいるのではないかと思います。厚生労働省や消費者庁といった役所は法的規制を設けるなどして、そのような現状を改善しようとしているのでしょうか。
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 私なりに情報発信をしたことが功を奏して小児の手術は激減しましたが、力不足のため、残念ながらまだそれ以上の人たちの手術を激減させるには至っていません。結局は被害者の方々が動かないとだめだと思います。

○『余計なことをしてはいけない時代』
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何年か前にある生徒に陰茎の包皮をむいたほうがいいよ、とアドバイスしたところ、それを知った親が管理職に苦情を言いに来校し、私は管理職、さらに教育委員会に指導を受け、私のしたことは本来の教育から逸脱していると非難されました。その生徒のためになると思ってそうしたつもりだったのですが、生徒はそう受け取らなかったようです。
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 私と同じような思いをされていることに敬意と感謝を申し上げたいですね。無関心な医者の「放っておけばいい」という結果がこのようなメルマガになっていることをぜひ知ってもらいたいですね。

●『学習指導要領と包茎』
 学習指導要領を知らない、読んだことがない学校の先生が多くないでしょうか。さらに他科の教科書を読んだことがない先生が圧倒的です。
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性教育として包茎のことをきちんと教えるべきだと思うのですが、学習指導要領にはそのような指針が示されているのでしょうか。私自身不勉強でわからないので、教えていただけるとありがたいです。
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 医者の間で議論にさえなっていない「包茎」を教科書で取り上げるのは無理です。さらにただ「むきましょう」だと嵌頓包茎になる可能性があり、そのリスクを冒してまで文部科学省は包茎を取り上げるはずがありません。意気込みはありがたいのですが、それより問題なのが学習指導要領のことです。学習指導要領はネットにも出ています。教師なのにそれさえ見ようとはしないけど、安易に答えは欲しい。ちょっと違うと思いませんか。

○『どうせ手術するなら腕前が大事?』
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日帰り入浴施設でたまに包茎手術ずみの陰茎を見かけます。14歳前後の子の陰茎は、縮んでいる状態であるにもかかわらず、手術で縫い合わせた痕があらわに、痛々しく感じられました。16歳前後の子は陰茎の冠状溝の裏側あたりから2~3センチほど、ひも状に皮が垂れていました。その子の陰茎には環状の痕ではなく(たしか)Y字のような痕がついていました。
私の陰茎は、縮んでいるときは縫い合わせた痕が皮のしわに隠れているので、手術をしたことがわかりにくいほうだと思います。それに対して、その子たちの陰茎は手術したことがわかりやすいですし、醜いと思います。修学旅行や部活動の合宿などで入浴したときに仲間からからかわれたり、他人の陰茎と比べてコンプレックスを抱いたりして、心に傷を受ける恐れがあると思います。また後者の少年の場合は、ひも状に皮がぶらさがっている状態が気になって、再び手術をしてもらうことになるかもしれません。手術をしたことがわかりやすいかどうかは、施術者の腕によるものなのでしょうか。
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 包茎の手術にはいろんな方法があり、子供たちには背面切開術という方法を取る先生もいます。この方法だとご指摘のような明らかに正常とは異なる形態になりますが、そのことを気にしない医者が多いですね。気にしていればもう少し岩室がやっているように包皮翻転指導をすると思うのですが。腕前ではなく、不要な手術の結果です。

●『知ってどうする?』
 最後に次のような質問が寄せられました
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(1) 成年に対して行われる包茎手術の件数は1年間にどのくらいなのか。それは包茎手術全体の件数の中でどのくらいの割合を占めるのか。
 →わかりません
(2) 成年の男性のうち、包茎手術を受ける男性はどのくらいの割合を占めるのか。
 →わかりません
(3) 成年に対して行われる包茎手術の年齢別の割合はどうなっているのか。
 →わかりません
(4) 成年で包茎手術を受けた男性は、どのような経緯で手術に至ったのか。手術を決めるときに本人はどう考え、親はどう考えたのか。
 →誰かに言われたか、何らかの情報を鵜呑みにしただけです。
(5) 包茎手術を受けた未成年の男性の場合で、後遺症を訴えるなど身体的な損害を受けた事例にはどのようなものがあるか。またアイデンティティ・クライシスに陥るなど精神的な損害を受けた事例にはどのようなものがあるか。
 →いろいろあるでしょうが、包茎の手術が問題なのか、包茎の手術をしなければ何事もなかったのかはわかりません。
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 これらの数字を知って、内容を知ってどうしようとしているのでしょうね。今回のやり取りで思ったのが、「正解」や「完璧」を求めることも大事ですが、「妥協」や「受容」も大事だということです。そのためにもお互いの経験を共有したいですね。そもそも、「かぶれば包茎、むければOK」ですから。