紳也特急 167号

~今月のテーマ『タフじゃないから切れる』~

●『「イマドキ男子をタフに育てる本」の書評』
○『命の大切さ』
●『講演中によぎった思い』
○『暴力、束縛は病気と思え』
●『治療か予防か』
○『雄(オス)とは』
●『雌(メス)とは』
○『振られたらどうする』
●『逃げるしかない』

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●『「イマドキ男子をタフに育てる本」の書評』
 久しぶりに出した本「イマドキ男子…」にボチボチ引き合いがあるようです。いろんな形で取り上げていただいていますが、次のような書評をいただきました。
 「亭主関白」などの言葉とともに、かつて家庭や社会にあった父親的な性格が失われた代わりに「草食系男子」なる言葉が生まれた現代。著者は、そんな“イマドキ男子”の時代に、プレッシャーやストレスに強い男子を育てるための性教育を提唱しています。肝はコミュニケーション。手でマスターベーションする、包茎をむく…、男性自身の体を大切にすることが、全ては他者(異性)への気配りにつながっているのです。
 胸をつかれるのは、HIV・エイズなどについて多くの大人が「自分にはあり得ないこと」と他人事で捉えてしまうのに対し、子どもたちは自分にもあり得ることとして受け止められるという指摘。他者の経験を受け入れて学ぶ性教育で、亭主関白とも草食系とも別の、本書が描く「タフ」な姿に男子が成長するのでしょうか。
 インターネットの世界で完結する「二次元の恋」に喝を入れつつも、意思の疎通や気づきの促しに携帯・スマホが便利であることを説くなど、実情に即した視点から記述。男子の悩みに答えるQ&A つき。
 書評に感謝しながら、久しぶりに耳にした、今や絶滅危惧種にもなった「亭主関白」という言葉について頭を回転させていました。よくよく考えてみれば「亭主関白」もタフじゃない男の見栄、虚栄心から生まれた男の生き方(?)だったのでしょうか。そんな書評を読ませていただいた後に、別れられない男子が別れようとした彼女を刺し殺す事件がありました。亭主関白は許せても、人殺しは許せませんし、何としても予防しなければなりません。そこで今月のテーマを「タフじゃないから切れる」としました。

『タフじゃないから切れる』

○『命の大切さ』
 高校生の感想に「命の大切さについて改めてわかりました。自分の命を大切にすることで他の人の命を大切にすることができることを知りました。」というのがありました。いつも言っていることですが、私の講演では一切「命を大切に」という言葉は使いません。しかし、私の周りで亡くなった患者さんや友人の話をする中で、私自身の悔しさ、無念さを言葉にしていると、思いが伝わるようです。
 こんな感想もいただきました。
 「今までこういった講演は何回か聴きに行ったことがありますが、下の部分はダイレクトにいわずオブラートに包んでいう人が多かったのに対し、岩室先生の講演は最初から最後までダイレクトで、少し聴くのが辛いなと思うときもありましたが、すごく真っ直ぐ頭の中にはいってきたし、気をつけなければ命をおとしてしまうような本当に恐ろしいこともあるんだなと恐怖感も抱きました。正直、将来、今日の講演で岩室先生がお話になったことを自分が気をつけられるか自信がありません。でも、「あのとき自分が勇気を出していれば…」と後悔する方が嫌です。なので、その時は勇気をふりしぼれるような自分になれるように今度の生活の中でも意識していこうと思います。」
 生徒さんの感想を読むのは、「どう伝わったのか」を知るためでもありますが、もう一つは若者たちがどのようなことで悩み、彼らのニーズがどこにあるのかを知るためです。そして、若者たちをタフにしたいのであれば、性と同様にストレートな言葉で伝えなければならないと改めて実感させられました。

●『講演中によぎった思い』
 耳から入った情報が一番伝わるので中学校や高校ではマイク一本で話します。しかし、大学で講義する時は、聴き手である大学生自身が将来他人に話す機会があることを想定し、スライドを使ってしゃべるようにしています。もちろんそのスライドは公開し、彼らが活用できるようにしています。そのため、話す内容は事前に時間配分を含めてほぼ決まってしまうのですが、学生さんたちの反応や様子を見ながらアドリブで伝えることを増やすことがあります。
 ある大学で性の講義をしている時に、イマドキ男子がストレスに弱いからストーカーになったり、時には彼女やその家族を殺してしまったりするという事件を思い浮かべながら、具体的なスライドにはしていなかったものの、その話を少し入れ込むか否かを迷っていました。結果的に話の流れの中に少し組み込んだものの、そのような被害に遭った時に具体的にどうすべきかは触れずじまいでした。その数日後の6月20日に起こった事件「「がんばり屋」女子大生刺殺、重なるように男性」の記事を見てびっくり。何とその講義を聞いていた女子学生が殺されたのでした。

○『暴力、束縛は病気と思え』
 さらにびっくりしたのが、二人は高校時代から付き合っていたのですが、私は彼らが卒業した高校でも講演をしていました。彼らの学年ではありませんでしたが、同じような事件が起こらないためにどのようなメッセージを届ければいいのかを突きつけられた思いでした。
 若い時代の恋愛は気が付けばどちらかが冷めてしまい、別れてしまうことはよくあります。そして降りかかってくる別れのストレス。振られた方は仕方がないことだとあきらめるしかないので、手助けになればと思い「岩室紳也は何度振られたことか。両手両足の指じゃ数えきれないぞ」と潔くあきらめることの大切さを訴え続けています。
 昔であれば男子の周りには「付き合い」に発展しない片思いが蔓延していました。あいつも、こいつも、そしてオレも彼女なしというストレスにさらされ続けていたので、振られて独り者になっても片思いグループという居場所に戻るだけのことでした。そこに戻っても一度は彼女を作れた、ある意味英雄でした。しかし、いまは「彼氏」「彼女」がいないことの方が不自然になっています。さらに次の「彼女」ができるかどうか不安になったタフではない男たちはどう行動するでしょうか。ストーカーとなって、恫喝、暴力、束縛で何とか引き留めようとやっきになりますが、そうなればますます女の子の気持ちは離れていきます。それでも追っかけ続ける男子はその時点でこころが病んでいる、すなわち「その人のものごとの優先順位が周囲の人たちの常識や思慮分別から大きくかけ離れている」と思わなければならないようです。

●『治療か予防か』
 犯した犯罪は絶対に許されませんが、このような事件を起こす人が後を絶たないどころか、これからますます増える中、タフではない、すぐ短絡的な、衝動的な行動に走ってしまうこころが病んだ人をどう治療すればいいのでしょうか。
 病気の治療と言えばその専門家は医者で、こころの病の専門家は精神科医ということになりますが、精神科の先生が治せるとは思えません。このような人たちが事件を起こさないようにと平成25年6月26日に「改正ストーカー規制法」と「改正ドメスティック・バイオレンス法」が成立しましたが、この法律の運用で犠牲者は少しは減るでしょうが、その人たちの治療にはつながるとは思えません。すなわち、早期発見、早期治療という病気の2次予防の効果が限定的だということは多くの方が各方面で経験していることです。
 そもそもどうしてこのような事件を起こすのはほとんど男たちなのでしょうか。本能的な、生まれ持った「性(さが)」によるのかもしれません。

○『雄(オス)とは』
 群れない習性があり、関係性に学べず、一人で罪を犯す。
 欲望(性欲・顕示欲・独占欲、等々)の塊(かたまり)で名刺と役割がないと人前に出られない。
 「プライド」の生き物で、人に言われても変われず、おだてられないといじける。

●『雌(メス)とは』
 群れる習性があり、周りに合わせ、関係性に学び、癒される。
 欲望(食欲・愛情欲・物欲、等々)がオスと異なり、日常の中に幸せと役割を見つける。
 「プライド」より「本能」と「あきらめ」の生き物で、「まあいいか」と現実を受け入れ続ける。

○『振られたらどうする』
 中高生に講演をしている方はぜひ、「失恋したら、振られたらどうしますか」と学生に聞いてください。実際に聞いてみると、男子は「寝る」、「忘れる」といった自己解決型の答えが多いのに対して、女子は「友達に話す」といった相談解決型が多くかえってきます。振られたというストレスを自分だけで解決できるものではありません。誰かに話し、「オレも振られた」とか「次はどっちが先に彼女ができるか競争しようぜ」といった仲間がいればそのストレスを乗り越える余裕が生まれます。しかし、仲間がいない男子はストレスから逃げようと、彼女を束縛し続けることでしょう。
 罪を犯した人たちがその直前にツイッターなどに書き込んでいる内容を見ると、結局のところ誰かに聞いて欲しい、相談に乗って欲しいと思っているのでしょうが、自分から正面切って言うのは恥ずかしかったり、プライドが許さなかったりするようです。

●『逃げるしかない』
 女性が「まあいいか」と現実を受け入れ続けた結果、男子がますます別れてくれない状況になるという悪循環になる前に別れたいものです。そして悪循環になったとしても結局は逃げるしかありません。しかし、「逃げてもいいんだよ」とか、「逃げるしかないんだよ」とか、「とにかく警察に相談しよう」というメッセージが届いていないと、いつまでもずるずると関係が続いてしまいます。
 いつ逃げる。今でしょ。