紳也特急 177号

~今月のテーマ『包茎被害拡大警報』~

○『講演の感想』
●『泌尿器科診療の手引き』
○『「予防」は「経験」の結果?』
●『包茎手術で回る経済?』
○『二極化する「包茎」』
●『悩める人を育てよう』
○『ネットは考えることを放棄する温床』
●『改めて「むきむき体操のすすめ」』

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○講演の感想
 今まで50人くらいの男とエッチやったんですけど、病院行ったほうがいいですか?岩室さんの聞いて怖いと思いました!(高2女子)

 私は中1で初めて性行為をして、今までに3人の男の人としてきました。コンドームを着ける時もあれば、つけずにやっていることもありました。今生理がきているのでにんしんの可能性はないですが、今日の講演でエイズやウイルスのかんせんについて初めて知り、とてもこわくなりました。性についての知識が足りないにも関わらずやっていたことを反省したいです。(高1女子)

 相変わらず講演をするとこのような相談が来ますが、相談者と何度もメールをする中で感じるのが「予防」の難しさです。当然中学校でもそれなりの授業があったはずですが、全く他人事で「考えたこともない」という高校生も少なくありません。これは中学校の保健の授業がどうこうというより、もしかしたら「予防」という言葉は幻想なのかなとさえ思っています。
 こう書きながら神戸で開催された日本泌尿器科学会総会に出席し、いろんな先生たちと話していると、岩室紳也が訴え続けてきた「包茎の手術をやめてむきむき体操を広めよう」というのがほとんど知られていないばかりか、最近の若者たちが「包茎」という言葉も知らず、むいたことがない男子が増えていることを泌尿器科の先生たちが知らないことを気付かされました。それもそのはずです。「包茎」という言葉も知らないぐらいですから悩むこともなく、当然のことながら泌尿器科医にもかからないのです。
 悩まないならいいだろうと思うでしょうが、実は無知から来る様々な問題、病気、そして気が付けば不必要な手術などなど、それこそ包茎の知識を与えられていない故の被害が急速に拡大中です。そこで今月のテーマを「包茎被害拡大警報」としました。

『包茎被害拡大警報』

●『泌尿器科診療の手引き』
 この原稿を書き始めた時に「必携 泌尿器科診療の手引き」(医学図書出版株式会社)が届きました。そこで「包茎」について書かれていることを見て愕然としました。何よりびっくりなのが「包茎」というテーマが「小児泌尿器科」の中に位置づけられているだけだったことでした。そしてその章の結論が「乳幼児の真性包茎は合併症が無い限り、治療の必要はない」でした。
 残念ながら病院で患者さんが来るのを待っている先生たちは「治療」という概念しか持たず、「予防」という発想がありません。「まるでコンドームなしでセックスをしている中高生と同じ」というと怒られるでしょうが、本当にそう思います。
 この手引きには「包茎の合併症状」として「排尿障害」、「亀頭包皮炎」、「尿路感染症」、「閉塞性乾燥性亀頭炎(BXO)」、「嵌頓包茎」を挙げ、さらに「包茎手術を受けた新生児、6か月以下の乳児は手術を受けていない乳児よりも尿路感染症にかかる頻度が低い」とまで言っています。それなら、どうして「尿路感染予防」のためにおちんちんはむけるようにしましょうという発想にならないのでしょうか。

○『「予防」は「経験」の結果?』
 コンドームについてももちろん最初のセックスから使える人もいて、その人たちはコンドームを使わないことで起こるデメリットを予測できています。なぜそのように先を読むことが出来ているのでしょうか。おそらく、そのことでなくても、どこかで失敗を経験し、失敗を回避するために先を読むことを学習する機会をもらっていたのだと思います。私も「セックスをするならコンドーム」と教わった経験はなかったのですが、使うのが当たり前というのは最初から刷り込まれていました。
 しかし、コンドームを使えない人は自分自身がつらい思いをして初めて「次はコンドームで望まない妊娠や性感染症を予防しよう」と思えるようです。残念ながら「包茎の合併症」を自ら経験していない医師たちは「予防」という概念が生まれません。その上、思春期になって「包茎」という言葉も知らない故のトラブルや、不必要な包茎の手術を受けている人たちのことは全く知らないので、そのようなトラブルがあることも想像だにできないようです。

●『包茎手術で回る経済?』
 美容外科などで年間どれぐらいの手術が行われているかについて正確なデータはありません。しかし、インターネットで調べると包茎の手術は年間1万件以上と宣伝しているクリニックもあり、少なく見積もっても毎年5~6万人が手術を受けていると思われます。20歳の男子人口が約60万人とすると、10人に1人が手術を受けていることになります。「そんなに患者がいて儲かるの」と思うでしょうが、それを裏付けるデータがありました。「包茎手術」「医師募集」で検索してみると年収「2000万~4000万円」というのもあり、私自身、道を誤ったのかなとふと思ってしまうほどです(笑)。もちろん経済という観点から見ると、儲かった先生たちがお金を使い、地域経済が活性化されるのはいいことでしょうし、何より手術をした本人が納得しているのであれば問題はないのかもしれません。

○『二極化する「包茎」』
 25年以上前に性教育を始めた時は、思春期男子の最大の悩みはペニスのことでした。「包茎が恥ずかしい」や「おちんちんが小さい」と悩んでいた男子に「かぶれば包茎、むければOK」とか「持ち物より持ち主が大事」と話すと安堵の表情を浮かべていたものでした。しかし、時代は変わり、「包茎」の話をしても、イマドキの男子は「ほーけーって何?」という反応が多くなっています。そうなのです。「包茎」という言葉を「知っている人」と「知らない人」が二極化しています。人間の二極化はいろんなところで進んでいますが、「包茎は合併症がない限り治療は不要」という医者と「合併症の予防のためにむきむき体操を」と主張している医者がいる状況も同じ二極化と言えそうです。二極化という現象が生まれるのは双方が結局のところ交流したり、議論したり、理解し合おうという状況が生まれなかった結果です。

●『悩める人を育てよう』
 皆さんはどのような悩みを抱えていますか。お金がない。モテない。仕事が、勉強が思うようにいかない。被災地の方であれば復興が進まない。このような「悩み」、「ストレス」は他の誰かの状態と比べるから生まれます。しかし、他人のペニスを見たことがない、「包茎はモテない」という情報が入っていない人は悩みません。「包茎」という言葉を知ったり、他人の持ち物と自分の持ち物を比べたりして初めて悩みが生まれ、それを解決しようと人は動き出します。
 昔はどうやって包茎の情報が若者たちに入ったのかと言えば、彼らがアクセスしていたマンガ週刊誌などでした。「彼女は包茎がきらいだ」という美容外科の広告が目に入ると当然のことのように悩みが生まれます。広告が本当なのかを友達と話していてもらちが明かないので思春期電話相談などにかけて聞いたり、私の講演を聞いたりして安心していました。もちろん広告に騙されて手術をしていた人も少なくはなかったと思います。
 しかし、本や週刊誌も売れない今の社会では悩みを作り出す情報に出会えず、「包茎」も知らずに大人になっている人が少なくありません。「包茎」という情報に接しなければ悩むこともなく、さらにセックスをしなければ亀頭部がむけることも経験することなく、ある日陰茎がんになって泌尿器科で手術を受けるという人も生まれることでしょう。こうなると美容外科業界にもっと頑張って包茎を知らしめてもらわないといけないのかもしれません。

○『ネットは考えることを放棄する温床』
 人間は悩んでいる時は「答え」を探し求めます。皆さんもそうだと思いますが、わからないことがあったらイマドキはすぐネットで答えを検索します。運よく「包茎」という言葉に接することが出来たとしても、友達とその情報を共有することなく、自分一人で、ネットで解決しようとします。実際「包茎」をGoogleで検索してみてください。800万件ヒットします。その中から岩室紳也のサイトにたどり着く人はどれだけいるのでしょうか。
 この原稿を書くに当たって改めてGoogleで「包茎」を検索したところ「包茎Q&A ? Nifty」( http://homepage2.nifty.com/iwamuro/QAhoukei.html )がトップ10の中に入っていました。これを丁寧に読んでもらえると手術は不要ということが理解できるはずです。しかし、残念ながら手術を勧める他のサイトに圧倒され、美容外科の宣伝を鵜呑みにして何十万円かけて手術をしている人が後を絶ちません。もちろん高校生だとお金がないので親に相談する場合もありますが、親も誰にも聞けずお金を用意しているようです。実際に保護者向けの講演で「実は・・・」と告白されたことが多々あります。

●『改めて「むきむき体操のすすめ」』
 不要な子どもの包茎手術を減らしたいという思いで始めたむきむき体操ですが、確かに小児期の包茎手術は激減しました。しかし、これからは「包茎」ということをもう少し若者たちの関心事、共通語にしなければなりません。そのためにも保護者には「むきむき体操」を普及させ、若者たちには「コンドームの正しい装着法」から「包茎」を意識してもらう啓発活動が求められているようです。ぜひ皆様にもご協力をいただければと思います。

 かぶれば包茎、むければOK。

 この言葉をもっと普及させましょう。