~今月のテーマ『草食系』~
○『今日からAIDS文化フォーラム in 横浜』
●『こんなメールが』
○『深刻化する草食系男子』
●『草食系を分類する』
○『自覚と予防を』
●『いい子になってしまう症候群』
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○『今日からAIDS文化フォーラム in 横浜』
今年で21回目を迎えるAIDS文化フォーラム in 横浜。毎年8月最初の金土日と決まっているため、今日から始まります。オープニングにはHIV/AIDS問題に初期のころから取り組んで来られたJaNP+の長谷川博史さん、産経新聞の宮田一雄さん、ねぎし内科診療所の根岸昌功先生の3名にご登壇いただき、歴史を振り返りつつ未来につなぐトークです。午後はアカデミー賞3部門受賞の「ダラス・バイヤーズクラブ」の上映や「インターネットが利用された性犯罪」、北山翔子さんと私で「予防啓発を振り返る」など盛りだくさんです。http://homepage2.nifty.com/iwamuro/abf2014.pdf
2日目には最近「危険ドラッグ」で引っ張りだこの松本俊彦先生に加え、何と「日本AV男優協会」というめったに会えない人たちが登場。さすがAIDS文化フォーラム in 横浜という感じですね。ただ、予定していた大島華奈さんはご家族の事情で急遽キャンセルに(残念)。
3日目は夜回り先生水谷修さん、デートDVと言えば岡山の上村茂人先生、産婦人科医として大活躍中の遠見才希子先生が話してくださいます。この豪華メンバーが一人ひとり、手弁当できてくださることに本当に感謝です。この暑い夏を皆様の元気と熱気で乗り越えたいと思っています。
その一方で、どうも最近元気がない若者、それも男子が増えていることが気になっています。10代の人工妊娠中絶も性感染症も減っている原因が「草食系男子」の増加というところでは多くの人の意見が一致していますが、で、「草食系」ってどうして増えるの? 予防するにはどうすればいいの? ということが真剣に議論されていないように思いませんか。
そこで今月のテーマをずばり「草食系」としました。
『草食系』
●『こんなメールが』
私は普通に女性が好きなのですが、あまりセックスをしたいとは思いません。もちろん自慰もしますし、好きな人もできて告白も二度したのですが、(二度とも違う女性です。どちらにも振られてしまいました。)セックスをしたいという思いはなく、普通に会話したり、手を繋ぐ程度の接触が出来れば幸せだなと思うだけでした。男性には全く興味もなく、ゲイというわけではないので、少しおかしいのかと考えているのですが、先生のご意見をお聴かせください。 このような質問が来たら皆さんはどう受け止めるでしょうか。私は何事も「自分だったら」とか「自分はどうして」と考えてしまいます。そもそも「自分はどうして女性に興味を持ってしまったのだろう?」と考えると、確かに本能的なものもあったとは思いますが、周りの男連中が女の子のことをいろいろ話したり、いつもは見ることが、目にすることができない女性の裸の写真をちらっと見せられたりといったことを通して興味、関心が高まっていったように思います。一方で、もし周りの男たちがそのような話をしてくれなかったら女性に対する性的な関心は育たなかったかもしれません。
○『深刻化する草食系男子』
紳也特急の119号(2009/7/5)で「草食系男子」を取り上げたのですが、事態が深刻化しています。「婚活の歴史に学ぶ」と半分冗談で書きましたが、今は「婚活」に取り組む自治体まで出ています。もっともそれらの自治体は人口減少対策や、地元で仕事をしている男性にお嫁さんが来ないことへの対策として打ち出していますが、個人的には今こそ、国を挙げて婚活に取り組むべきだと思っています。しかし、こう書きながら、昔の男たちと違って、今は仮に結婚までいっても、他人と暮らすことで生じるストレスに耐え兼ねて、すぐ別れてしまうのではないかと心配しています。草食化は単に異性に積極的になれないだけではなく、もっと根本的な所に問題が内在している場合も少なくありません。
●『草食系を分類する』
実は「(男子の)草食系」といってもいろんなタイプがあるようです。当然のことながらそのタイプによって対応や予防方法が異なりますので、私なりに分類してみました。ただし、ここで言う草食系には当然のことながら同性愛、ゲイ、トランスジェンダー、性同一性障害などは含まず、基本的にストレート、異性愛の方が草食系となっている場合を言います。また、ここで挙げている分類は岩室個人が考えていることで、医学界での共通理解はもとより、きちんと議論さえされていません。
1. 真性草食系
肉体的には男子として育っているものの、性欲がまったく女性に向かない人もいます。しかも以下に紹介している他の分類が否定され、特定の原因がない場合を「真性」としました。
2. ホルモン異常等身体要因型草食系
ホルモン異常を含めて、何らかの身体的要因、病因がある人。ただし、現時点では原因不明の場合もあるでしょう。
3. 情報・刺激不足草食系
性情報が全くと言っていいほど入らず、そもそも性的関心が育たない人。2次性徴が訪れていても、周囲からの情報、コミュニケーションによる刺激がなく性欲が育たないタイプ。
4. 洗脳・依存型草食系(2次元にはまって依存症のように抜け出せない)
本来的には草食系ではないにもかかわらず、2次元のゲームやアニメ、さらには性描写にどっぷりはまり、結果的にリアル、本物の女性、人対人のセックスの必要性を感じない人。
5. 失敗回避型草食系(失恋不安症)
何事にも失敗を恐れるタイプで、失敗、失恋して辛い思いをするぐらいなら最初からそのようなアタックをしない人。アダルトビデオ、ネット、二次元など強烈な性情報が入り、同じようなセックスをする自信がないためリアルな、人対人のセックスに自信が持てない人。
6. 臆病草食系(消極的な性格)
失敗回避型と相通じるところもありますが、何事に対しても積極性がなく、特に失敗を恐れているわけでもないが、敢えて自分の本能に任せて性行動を行うことをしない人。
7. トラウマ型草食系(性被害、家族関係の経験に基づく)
過去に他人や家族(父母、兄姉弟妹)、親戚から性被害を受けたことがトラウマとなり、性的接触を拒否するようになった人。性被害は同性からの場合もあり得る。
8. 人間関係拒否型草食系(人間関係、特に女性拒否症的な)
性的なことだけではなく、そもそも人間関係を拒否する人。トラウマ的な背景がある場合も含まれるが、明確なトラウマがないものの人間関係を拒否している場合も。
敢えてこのような分類をするのは、実際に「草食系」という話をした際に様々な相談が寄せられるのですが、結果的に「草食系」に見えても、その背景は様々だからです。一例を紹介すると、「クラスの席替えで女の子の隣になったことを本気で嘆いたりしていますが、どうすればいいでしょうか」と息子の草食化を心配しているお母さん。「女の子」に興味がないだけなら「拒否」や「嘆き」にならないでしょうし、横に「男の子」がいて欲しいと性的に感じているのであればむしろ「草食系」というより「同性愛」と捉えるべきです。もしリアルな女性に対する拒否的な感情があるのであれば、トラウマ型、あるいは人間関係拒否型と考えることもできます。
○『自覚と予防を』
草食系対策に限ったことではないですが、私が悩みや困りごとへの対応で常々重視しているのが「自覚」と「予防」です。草食系であってもそれがご本人の選択であれば周りがどうこう言う問題ではありません。最近は少子化の問題もあって「早く結婚を!」という社会的プレッシャーが高まっています。そのことと草食化の問題がほぼ同時期に出てきているため、この「自覚」ということがあいまいになり、本人の思いとは別に周囲が「草食系」とラベリングしている状況が生まれています。
一方で私の分類の中で真性や身体要因的なタイプを除く情報・刺激不足型、洗脳・依存型、失敗回避型、臆病、トラウマ型、人間関係拒否型の人たちはそうなってしまう前に、社会全体でこのようなタイプの未然防止を考える、行動に結び付けるべきだと考えています。
では草食系を「予防」するために何ができるのでしょうか。答えは簡単ではありませんが、世の中の動きを俯瞰し、リスクや困難に立ち向かう力が弱くなった要因を一つずつ確認し、ご本人が何を「自覚」する必要があるのか、何を「自覚」すれば変われるのかを丁寧に分析する必要があります。
●『いい子になってしまう症候群』
メルマガ176号に書かせていただいた「カーリング子育て」の結果生まれる子どもたちに今流行っているのが「いい子になってしまう症候群」だそうです。最近知った言葉ですが、ここに草食系になる、ストレスに弱い、リスクを避ける若者たちが大量発生する原因がないでしょうか。ある議論の中で「キャリア教育が若者たちを追いつめている」という指摘もありました。今の若者たちは
「幸福度が大事」→みんな「幸せ」と答える
「友達がリスク」→表面的な友達ばかり
「ハイリスク者というのを隠したい」→いい子でいようとする
「透明人間になろうとする」→目立たない存在になる
「所属がない」→関係性も居場所もない
「答えを求める」→正解ばかり追い求める
「解決方法があると思う」→悩まず、解決方法ばかり追い求める
「相談できない」→ハイリスクに見られたくない
このような若者たちが恋愛→交際→セックスという大きなハードルを乗り越えられるでしょうか。答えは自ずと見えてきます。「草食系」と大騒ぎする前に、いい子づくりをやめましょう。子どもたちのためにも。