紳也特急 183号

~今月のテーマ『マスク病』~

○『HIV感染不安が増えている?』
●『エボラ出血熱の脅威』
○『マスクが大好き日本人』
●『「マスク病」とは』
○『人の反応が怖い』
●『表情を見られたくない』

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○『HIV感染不安が増えている?』 ホームページからいろんな相談が来ますが、最近HIV感染不安の相談が増えているように感じています。エボラ出血熱のこともあって感染不安症が広がっているのでしょうか。

■病院を受信した際に採血をしました。その直後に備付の自動血圧計を使用したのですが、同じように採血直後に測定をした方がいたのでしょう腕を通す部分の布に血液が付いて乾燥していました。私の腕には採血後の傷が有りました。採血後の絆創膏の様なものは張っていましたが防水ではないようですし。服の袖は下ろしていましたが。その様な場合HIVが血圧計についていた血液に存在していれば感染の可能性はあるのでしょうか。

■子どもをつくる時だけゴムを付けないでやったとしてもエイズに感染したりするのですか?

■異性間性的接触によるHIV感染は風俗での感染が多いのですか?

■私には今付き合ってる彼がいます。 私は彼と付き合う前、たくさんの人とSEXを興味本位でしてしまいました。もちろん、コンドームは基本付けていたけど、 コンドームが入らない人もいて、その人とはコンドーム無しでしてしまいました。それもあって、先生のお話を聞いてる時、エイズだったらどうしよう、彼に移してしまったらどうしよう。今度検査に行こうと思いました!

■手マンでもエイズになることはありますか?

■自分だけで使ってるオナホでエイズってなりますか?使った後は水で洗い流してタオルで拭いてます。

■大学で出会った女性と付き合うことになり一度だけセックスしました。その後、体にだるさを感じるようになりました。自分は先生の講義を高校時代に受けていたのでコンドームのつけ方も練習しましたし、行為の際にも表裏の確認など十分気を付けました。自分に経験はなく彼女には男性経験があり、体のだるさだけでもエイズなのでは?と不安でしょうがないです。

 私の講演を聞いてという人だけではないので、それなりにいろんな方が、いろんなところで繰り返し啓発されていうのだとうれしいのですが。たけしのTVタックルでも「いきなりエイズ」が取り上げられたり、これからもエボラ出血熱のことが繰り返し話題になったりするのでしょうが、ぜひとも感染症の正しい理解と適切な対応が広がることを期待したいものです。と言いながら、季節のせいなのかマスクをする人が増えてきました。でもインフルエンザ予防の第一選択はマスクじゃないのですが・・・。そこで今月のテーマをちょっとひっかけた形の「マスク病」としました。

『マスク病』

●『エボラ出血熱の脅威』
 いま、エボラ出血熱が世界中の脅威となり、日本に上陸するのも時間の問題と考えられています。1981年にアメリカで確認されたHIV/AIDSも当初は感染経路に関する情報が混乱し、様々なパニック現象が繰り返されました。感染症に対する正しい知識が浸透していないエボラ出血熱についても「日本上陸」となると大混乱になることは容易に想像できます。ニューヨークではエボラウイルスに感染していた人が利用した施設はちゃんと消毒されたということで市民が「問題はないし、施設を応援したい」と積極的に使っている映像が流れていましたが日本ではそのようにはならないでしょうね。例えば「○○市で第一号のエボラ患者」という報道があると、おそらくその市の観光客は激減し「○○市民に外出禁止令を出せ」という話になるのではないでしょうか。
 確かにエボラウイルスは感染力も強く、血液だけではなく汗を含めた体液との接触で感染することから、医療関係者の中でも改めて感染予防の勉強会を開催しているところが少なくありません。その中で見えてくるのが、基本的な感染予防対策である手洗い一つをとっても結構ないがしろのされている実情です。
 http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA03096_01
 とりあえず医療関係者も、一般の人も特に手を介した接触感染予防のための「正しい」手洗いの仕方の再確認をしたいものです。

○『マスクが大好き日本人』
 これからインフルエンザの季節になり、手洗いの重要性が増すはずですが、手洗いよりもマスクの方が効果的と思っている人が街中にあふれることでしょう。マスクの正しい使い方についてはメルマガ117号「マスクとコンドーム」に書いていますのでそちらを参照してください。ただ、私自身もマスクをしている人について誤解していた、というかマスクをする理由が変わってきたことに気づかされています。これまでマスクをしている人を見ると、「感染予防について間違った知識でマスクをしている人」という見方や、「マスクが大好きな日本人」の一人としてしか見ていませんでした。しかし、最近はそれ以外の視点、すなわち「マスク病」と思われる人が増えていることに気づかされています。

●『「マスク病」とは』
 敢えて「マスク病」と言いますが、別名「マスク依存症」とも言えるこの病気に気づかされたのが学校で行っている講演の時でした。性教育、性に関する講演を生徒向けに行うときは、真剣に聞いてもらいたい場面もあれば、笑いがある場面も必要です。長年しゃべってくると「このネタは必ず笑いがとれる」というものが出てきます。しかし、最近、そこで笑わない、笑えない、笑いたくない人たちが増えていることに気づいていました。
 最近の学校の名簿の多くは男女混合名簿であり、男子が笑える内容が必ずしも女子にとって面白いわけではありません。以前は横に女子がいてもあまり気にせず「ワハハ」と笑っていたのが、最近は異性を気にして笑わない人が増えていると感じていました。そのため、学校によっては、岩室の講演の際には男女別に並べ、以前より盛り上がるようになったところも少なくありません。
 しかし、どのような並び方になっても笑わない、笑えない人がいて、しかもそのような人たちがなぜかマスクをしていました。風邪をひき、他人に移したくないという思いからマスクをして学校に来ているのではなく、他人に自分の表情を見られたくないという思いからマスクをするようになった人が増えていました。ただ、自分の勝手な思いだけで決めつけてはと複数の学校の先生たちにお話しすると、先生たちも同じような思いで生徒さんを見ているようです。

○『人の反応が怖い』
 講演でマイクを聴衆に向けると、それなりに答えてくれる人と「わかりません」と返す人がいます。「わかりません」と返す人たちの反応の速さは特筆もので、考えた結果の「わかりません」ではなく、答える気がない、反応、反射としての「わかりません」です。「わかりません」は失敗につながらず、学ぶチャンスを放棄しているようなものだから「学校では使用禁止用語としてください」と先生方にお願いします。
 しかし、マスクをしている生徒さんにマイクを向けると、往々にして言葉を発することなく、隣を見たり、黙り込んでしまいます。とにかく、自分がその空間に存在していることを他人に知られたくないといわんばかりの反応となる場合があります。まるで「透明人間」になろうとしているかのようです。

●『表情を見られたくない』
 「目は口程に物を言う」と言いますが、マスクをしている人の「目」を見ていると、マスクしていない人以上に目が語りかけてきます。自分の表情を読み取らないで欲しい、自分に関心を持たないで欲しい、マイクを向けないで欲しい、自分の心の中に踏み込まないで欲しいと言っているようです。その理由、わかりますか。
 人が他人のことが気になるのは、その他人の言動、すなわち言葉と動き、行動、表情が目に留まった時です。そして当然のこととしてその人に対して何らかの反応をします。これがいわゆるコミュニケーションということになります。そして一番基本的なコミュニケーションが会話です。会話というは言葉と表情で行うものですが、そもそも人と会話するという経験が少ない若者たちは表情のやり取りをすることを拒否しても何ら不思議ではありません。メールやLINEで文字のやり取りはしても、自らの表情を人前で出す経験が少ないためそのことが苦手になっていたり、文字のやり取りの結果、けんか、誤解、いじめなどを経験したりしていると、相手とのコミュニケーションをとらないことが、そもそも自分が存在しなければトラブルは防止できると考えてしまい、マスクをすることになるようです。
 コミュニケーションがきちんと成立していると誤解もいじめも減るのでしょうが、誤解もいじめもある意味コミュニケーションの一つの形と言えます。しかし、そもそもコミュニケーションが苦手な人は、マスクをすることで「私は皆さんとコミュニケーションをとりたくありません」と言っているのです。でも、その人たちをそのままにしていいのでしょうか。「コミュ障」という言葉がありますが、病的であれば「マスク病」ととらえ、治療や予防を考えたいと思いませんか。私はこれからも機会があれば若い人たちに積極的に語りかけ続け、発語を促し続けたいと思っています。
 目指そう、「マスク病」の根絶を!