紳也特急 185号

~今月のテーマ『付加価値』~

○『できる人ができることを』
●『思い通りにならないのが人間?』
○『若者たちの老化現象』
●『サガミオリジナルもハードケースに』
○『反省はするけど後悔しない』
●『性教育が理解できない』
○『性教育で気づく』
●『他人の経験に学ぶから自分が見える』
○『男女で異なるストレスマネージメント』
●『講演で崩れるイメージ』
○『人間的に成長できる講演?』
●『耳から入った情報は残る』
○『犯罪予防に性教育を』
●『日常のコミュニケーションが大事』
○『元気高齢者は挨拶をする』
●『バランスが大事』
○『自分勝手に気づく講義?』
●『自分勝手に気づけない講義?』
○『広めたい中2病』
●『講演の検証』

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○『できる人ができることを』
 新年、あけましておめでとうございます。
 オフィスいわむろ(ヘルスプロモーション推進センター)を立ち上げて9ヵ月、将来設計をあまり深く考えずにフリーになりましたが、結果的にフリーという環境を楽んでいます。今年で60歳、還暦を迎えますが、家内をはじめ多くの方々の支えと関係性のおかげでここまで来ましたので、もう少しだけ世間に恩返しを心掛けたいと思います。
 組織の中にいた時は、「何のために」と考える前に、あたり前のことですが「組織のために」が求められました。しかし、「思春期」、「自死」、「HIV/AIDS」、「被災地」といった壮大なテーマのことを考えていると、「自分に何ができるか」のトライアルを繰り返すしかありませんでした。フリーになってみると、誰に言われるのではなく、日々、「岩室紳也は何がやりたいのか?」が問われ続けます。この「何がやりたい?」、「何のために?」の答えは、岩室紳也が関わっている一人ひとりが、一つひとつの地域が元気になるために、岩室紳也がいまできることを精一杯やることでした。
 最近よく研修会などで話をしている「できる人ができることを」は実は自分に言い聞かせている言葉でもあります。その「できる人ができることを」というのは必ずしも誰かが学んだことを提供するといったスタイルだけではありません。誰もが他者と接し、関係性の中で生きていますが、その相手に学び続けることが次の一手へのヒントになることがあります。保健師さんが健診をする時も、学校の先生が授業を行う時も、ただその仕事を無事こなすだけはなく、保健師さんがそこで出会った健診受診者に学んだり、受診者には健診以外の付加価値を持って帰ってもらったりできると一石二鳥にも三鳥にもなります。
 私の場合、講演の聞き手がイメージしていた内容に満足してもらうだけではなく、聞き手がイメージしていなかった内容への広がりを感じてもらい、満足感を高めてもらうように心がけています。一方で、自由記載の感想文にはいつも私自身が多くの学び、気づき、知見をもらっており、このメルマガでもたびたび紹介しています。講演は知識の切り売りと思っている人がいるようですが、それはとんでもない誤解です。私にとってはむしろ学習の場です。だからこそ先生たちが気に入った優秀な感想文だけを送ってもらうのではなく、たった一行だけの感想文でもちゃんと全部目を通しています。感想文の読破までを含めた私の講演活動が多くの学びにつながり、次なる講演活動の充実につながっています。
 どのような仕事、人、出会い、事象でも、それまで自分だけではなく、多くの人が気づかなかったことに気づく、新たな知見に出会う、学びの場になり得ます。私が今行っている研修や講演も、診療も、著述作業も、結局のところ、それらに私がどれだけ「付加価値」がつけられるか、そこから学べるかが問われ続けています。そこで今月のテーマを「付加価値」とし、年末にまとめて読ませてもらった中高大生の感想文と会話している岩室の学び方を紹介します。

『付加価値』

●『思い通りにならないのが人間?』
 人間はとても不思議で、自分も人間なのに人間についてわからないことがたくさんあります。人間の全てを解明して、人間が生きるべき道を、何の間違いもなく、すべて正しく生きることはほぼ不可能だと思うけれど、間違いだとわかっていることだけは絶対にしません。そして、正しいことを見つけて、実行していけるようにします。僕も、本能のままでなく生きる、人間だから、しっかりできると思います。できるはずです。
 一日の半分の半分の半分にも満たない時間の中で、これからある、とても長い年月の学習をさせてもらったことは、とてもすごいことで、とても良いことだと思いました。この世界には、わからないことや、危険なことがある分、よいことがたくさんあり、正しいこと、間違っていることの区別をしっかりできたら、きちんとした生活をおくることができます。(中3男子)

 →確かに人間って不思議です。中学生の時から「正しく生きることはほぼ不可能」という悟りの境地はすごい。ぜひいつまでも「人間」について考え続けてください。私も考え続けます。

○『若者たちの老化現象』
 私はオタクまではいきませんが、普通の人よりかは二次元が好きです。三次元は、二次元よりもかっこよくないので、あまり現実を見ないようにしていきました。確かに最近は恋愛をすることに対して、めんどくさいと感じるようになってきていました。しかし、そういう風になってしまうと、将来ひとりになってしまうので、これからは三次元に戻れるようにしていきたいです。(中3女子)
 男性がだんだん草食系になってきていて、恋愛をめんどくさいと考える人が多いようですが、私は女ですが彼氏がいなくて、恋愛をするのがめんどくさいなと思っています。それがなぜか自分で考えてみたのですが、失恋することが怖いというのもあると思いますが、一番は自信がないからだと思います。自分に自信がないので、男性に好意を示しても、私みたいな人に好かれても・・・・など、いろいろ考えてしまい、好きになることすら怖くなり、小学生以来、本当に好きな人ができていません。先生がおっしゃっていたように、私の世代は直接コミュニケーションをとることが少なく、異性と直接話すことが怖いなあと感じてしますということも一つの原因かもしれません。(大学生女子)

 →恋愛を「めんどくさい」と感じるというのは若者たちの(こころの)老化現象ととらえられます。高齢者の介護予防教室ならぬ、若者たちのこころの老化予防教室予算をぜひ確保したいものです。で、どのような対策をすればいいか。その一つが岩室紳也に講演をさせることです。これからは「めんどくさい」という言葉を入れるようにしたいと思いました。

●『サガミオリジナルもハードケースに』
 サガミオリジナルはプラスチックのケースに入っていますが、それもハードケースに入れた方がいいんですか?(中3男子)

 →なかなか鋭い質問です。サガミオリジナルのプラスチックのケースは一見丈夫です。しかし、財布に入れて持ち歩いたりすると、フタがはがれたり、フタに穴が開いたりすることがあります。サガミオリジナルも無印良品で売られている名刺入れのようなハードケースに入れて持ち歩きましょうね。

○『反省はするけど後悔しない』
 正直に言うと、私はセックスを求められている時が一番他人から求められているように感じていました。傍らに居てくれるだけでいいと言われるよりも、君とセックスしたいと言われる方が必要とされているような気がしてうれしいとすら感じていました。私のような人がおそらく中絶をしているのだろうと思うと改めて考えさせられました。私は寂しさを消すためだけに行っているつもりの行動でも、取り返しのつかないことになるということも改めて痛感させられました。

 →経験しているからこそ気づく、気づけるんですよね。反省はしても、これまでを後悔しないよう、これからも恋愛に臆病にならないように伝える工夫をし続けなければと思いました。

●『性教育が理解できない』
 用語解説をして欲しかった(高校生男子)

 →「包茎」という言葉さえも知らない高校生が増えているのであなたのような生徒さんがいることを考えて話さないといけませんね。「寝た子を起こそう健やかに」を実現するためには、講演も大事だけど、仲間ともっと話してほしいものです。だって、同じ学校の感想で「一番衝撃的だったのは、今まで信じていたテクノブレイクが嘘ということだった。」というも寄せられています。格差社会を感じます。

○『性教育で気づく』
 岩室先生がコンドームを取り出したとき、ぎょっとしました。なんだかそういうものや話題は気持ち悪い、興味がない、まだ自分には必要ないし大丈夫。いままではそう思っていたし、そう思っている自分は正しくて純潔だと信じていました。しかし、この講演を聞いて、私はただ二次性徴からの逃避をしていただけなのだと気づきました。そういうことに興味を持つことは間違っていないのに、勝手に不純だ!と決めつけて蔑んでいたみたいです。私だっていずれは結婚して子供も欲しいと思っているのに、肝心なことについては目をつむり、いつか私のことを理解してくれる人が現れるのだと根拠のない夢を見ていました。純情ぶっていた自分に気づき、しっかり自分の身を守りつつも性と向き合えるような人間になりたいです。(大学生女子)

 →そもそも「蔑む」という字が書けるのがすごい!二次性徴逃避で結局のところトラブルになる。でもそのことに気づくと予防、というか自分で自分の道を切り開けるんですよね。寝た子を起こそう健やかに!

●『他人の経験に学ぶから自分が見える』
 今までわかったような気でいて全然わかっていなかったことや、漠然と不安に思っていたことが改めて明らかになり、自分や自分の行動についてよく考え直すきっかけになりました。

 →そうなのです。私の話には事例をよく登場させます。そうすることで、自分という事例を見直せるようです。でもこれは私自身、他の人にこうやって学んでいることから気づかされました。

○『男女で異なるストレスマネージメント』
 自分も「ふられたときどうやってストレスを解消するか?」という問いに対して、いろいろ考えたけど、女の先生が答えるまで、友達に話してストレスを解消するという考えがまったく浮かばなかった。やっぱり岩室先生がいうように男の人は自分自身でストレスを抱え込んでしまうので、知識とか何よりも友人間、家族間でのコミュニケーションが大事。仲の良い、何でも話し合えるような友達をどんどん作っていきたい。(高校生男子)

 →性教育といえば避妊や性感染症予防と考えられがちですが、失恋→ストーカーとならないよう、ストレスマネージメントの要素を入れたところに反応してくれてありがとう。コミュニケーションの大切さも具体的にイメージしてもらえたのがよかったです。

●『講演で崩れるイメージ』
 「性」とは自分の中ではもっと高潔なものでした。今回の講演は、(よい意味で)そのイメージを壊してくれました。(高校生男子)

 →どこで、どう「高潔なもの」になったのか知りませんが、オナニーをしている自分を思い浮かべればとても「高潔なもの」とは思えないはずですよね。もっともオナニーの経験がない高校生も増えています。英語教育の充実の前に、中学校での男子オナニー教育の必修化を!!!

○『人間的に成長できる講演?』
 この講演は知識的に、そして人間的にも成長できた素晴らしい講演でした。ありがとうございました。(高校生男子)

 →「どこが?」と聞きたいところですが、とにかく自分が成長したと思えたのであれば、それはそれでよかったのでしょうね。でも気になるな・・・・・

●『耳から入った情報は残る』
 私が中学生か高校生の時、岩室先生が私の学校で講演をしてくださいました。マイク一本でした。今でも覚えています。その時の友達と会うと話題になります。あのときコンドームの達人、来たよねって。学校の先生たち、よくやろうと思ったよねって。そんな話をします。(大学生女子)

 →「よくやろうと思ったよねって」と思うなら、先生たちに「どうしてコンドームの達人を」と聞けばいいのに。でも答えは「大学生になっても覚えている印象的な話だから」ではないですか?

○『犯罪予防に性教育を』
 先生は視覚からの情報は頭に残らないからといってパワーポイントを使わなかったが、それで良かったし、逆に頭に残ったと思う。印象に残ったことは、男はやりたい、やりたいと思っていても、女はそうでないということ。男子高にいるからかどうかしらないがそういう知識はなかったので驚いた。他にも僕の知らないことがたくさんあったので、先生の話を聞いていなかったらと思うとぞっとする。(高校生男子)

 →とりあえず今のあなたに入った情報も、友達とのコミュニケーションの中で話題にし続けなければすぐに記憶の彼方に消えてしまうことでしょう。ぜひ仲間でもっと性の話をしましょう。あなたと同じような感想「女性は男性と比較して、パートナーに対して性的接触よりもコミュニケーションを求めているといったことは衝撃的でした。」をくれた生徒がいましたよ。「どうして俺たちは勘違いしていたんだろう」という話し合いができるといいですね。

●『日常のコミュニケーションが大事』
 講演の内容を聞き、知識に基づく臨機応変な行動とコミュニケーション力が大切だとわかった。人づきあいが苦手な(嫌いな)自分には関係ないことだと思っていたが、実際にそのような場面に臨むことになってしまう可能性もわずかながらあるので、そのときになったらこの講演でのお話を生かそうと思った。(高校生男子)

 →「そのような場面になったら」というのはすべてのことで言い古されていますよね。予習をしておかなければいざというときに役に立ちませんよ。

○『元気高齢者は挨拶をする』
 私を含め、若い人たちはあまり挨拶をしなかったり、スマホやパソコンを使い、直接話す機会が減っている。そのため、極端にいえば、相手の口調などで感情を読み取ったり、そもそも直接会話をすることが苦手な人もいる。その一方で、団地に住んでいるのだがエレベーターに乗っていると、途中で一緒になったおじいさんやおばあさんに「今日は寒いね」とか、「学校に行くの」とか突然話しかけられることがある。これは若者だと絶対にありえないし、できないことである。そういう話をふってくるお年寄りはみんな元気そうで、そうゆうコミュニケーションを通して自分の生活を豊かにしているのかなーと思った。(大学生女子)

 →元気な高齢者はコミュ障じゃないことに学びましょう。

●『バランスが大事』
 私は普段から人と話すのが好きで、逆にLINEなどが煩わしくなり、アンインストールしようか悩んでいました。ですが、今日の話を聞いて、私はLINEでのつながりをすべてなかったことにしようとしていたことに気づき、それもまたよくないことだとわかりました。(大学生女子)

 →今の時代を生きる若者がLINEを全くやらなければ、仲間と連絡を取ることさえもできなくなります。何事もバランスが大事。

○『自分勝手に気づく講義?』
 今日の授業を聞いて、自分は本当に周りが見えていないと痛感しました。普段から周りは見えている方だと思い込んできましたが、その考えはもうやめようと思いました。人とのつながりをもっと大切にして、自分勝手を減らしていこうと思いました。(大学生女子)

 →確かに、コミュニケーションというのは「自分勝手」では成立しません。ただ、「自分勝手」という言葉に反応するとは思っていなかったのでびっくりでした。

●『自分勝手に気づけない講義?』
 私も「恋は最大のストレス」だと思います。実は、今は隣の女の子に片思いです。しかし、彼女はただ私のことを友達と認識して、告白しても無駄でした。毎日、ずっと悩んで、苦しくてたまらない状態です。男のプライドにかけて相談できないし、一人で悩んでいます。どうすれば彼女のことを忘れられますか。(大学生男子)

 →忘れられないでしょう。でも時間が解決してくれます。男のプライドがカウンセラーに相談することを邪魔し、自分勝手だということに気づけないのです。これも男女の違い?

○『広めたい中2病』
 「想像力が足りない」まさにこの言葉に尽きると思いました。想像力と言えば中2病といわれるアレですね(笑)。中2病って基本無害だったし、大切なものだったんだなと思いました。(大学生男子)

→中2病を知らなかったのでWikipediaで調べると
 ラジオ番組『伊集院光のUP’S 深夜の馬鹿力』が初出とされる。1999年1月11日放送の同番組内でパーソナリティの伊集院光が「自分が未だ中二病に罹患している」と発言。伊集院本人が指標として挙げた例は「『因数分解が何の役に立つのか?』『大人は汚い』と言い出す」「本当の親友を探そうとする」など。
 「オタク文化研究会」著『オタク用語の基礎知識』の当該項目では、典型的な「症例」として以下6点が紹介されている。

1.洋楽を聴き始める。
2.旨くもないコーヒーを飲み始める。
3.売れたバンドを「売れる前から知っている」とムキになる。
4.やればできると思っている。
5.母親に対して激昂して「プライバシーを尊重してくれ」などと言い出す。
6.社会の勉強をある程度して、歴史に詳しくなると「アメリカって汚いよな」と急に言い出す。

 でもこれって正常な成長の証ですよね。逆に想像力が低下しているのは「中2病」に罹患しないから?中2病流行大作戦を展開しましょう。

●『講演の検証』
 昔ひきこもりがちだったので、今日の授業でいくつか共感できることありました。的を得ていておどろきました。(大学生 男子)

 →私の話は基本的にいろんな事例に学び、その方に教わった言葉を使い、何が問題か、何をどうすればいいかを考え、表現し続けてきた、永遠に未完成な事例集です。こうやって「的を得ている」と評価していただけると、これでよかったのだと検証できますし、これからも積み上げ続けたいと思いました。感謝です。

 これからも一人ひとりが考えてくれる題材を提供し続けたいと思いました。
 本年もよろしくお願いします。