紳也特急 187号

~今月のテーマ『反省』~

○『ホンマでっか!?!』
●『AIDS文化フォーラム in 佐賀に感謝』
○『HIVに感染した人たちの高齢化問題』
●『施設が受け入れてくださった経緯』
○『振り出しに』
●『Face to faceの大切さ』
○『IECを再確認したい』

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○『ホンマでっか!?!』
 2月18日(水曜日)にフジテレビ系列で放送された「ホンマでっか!?TV」に岩室紳也が出たそうです。テーマは「とんでもない男」で、岩室紳也は思春期男子評論家という紹介でした。
 「見たよ」という方もいらっしゃるかもしれませんが、私、岩室紳也は見ていませんでした。というのも放送日は9月25日と知らされていたからです。「2月25日に出ます」とお知らせし、楽しみにして下さっていた方々には本当に申し訳なく思います。「何でそうなるの」と思うでしょうが、台本にも書かれていた日にちが諸事情で変わったのを、出演者に知らせるのを忘れたそうです。(ホンマでっか!?)
 私が話したテーマが「コンドームを知らない男子高校生がいる」でしたが、「コンドーム」という言葉は子どもたちも観ているので「避妊具」でお願いしますとのこと。中学校の教科書にも記載されている言葉が放送禁止!?(ホンマでっか!?)
 出演時に顔にいろいろと塗られるのですが、NHKだと、それを落としてから「お疲れさまでした」と返されるのですが、それもなく、そのまま帰りました。ま、車だったのでいいのですが。(ホンマでっか!?)
 ま、長く生きているといろいろと経験させてもらえます。でも、人の文句を言う前に自分の行動を反省しなさいと思わされたことがあったので、今月のテーマは「反省」としました。

『反省』

●『AIDS文化フォーラム in 佐賀に感謝』
 第1回のAIDS文化フォーラム in 佐賀も無事終わりました。佐賀で準備に当たってくださった皆さんに感謝です。本当にいろんな出会いと気づきをいただきました。医者である私は「医療」は手段であり、大事なことは「病気を治す」ことだけではなく、「その人なりに幸せな人生が生きられるようにこの手段(医療)を使うこと」と話しています。佐賀では宗教も手段として、一人ひとりが生きてきた物語を受け止め、寄り添い、その方がどうすれば幸せになれるのか、どうすれば自分の幸せに、生き方に気づくことができるのかを支え続けておられる方のお話を伺うことができました。医療でもEvidence Based Medicineに対してNarrative Based Medicineという考え方が出てきていますが、2者択一ではなく、いろんな視点が必要だと改めて実感しました。
 また、私は自ら「コンドームの達人」と言っていますが、「二枚でどうだ!」という曲を知らなかったことを佐賀の医師たちが組んだバンドが教えてくれました(私のFacebookにアップしてあります)。もちろん、「二枚はダメだ!」と返しておきました。本当にいろんな方がいろんな活動をされているんだなと改めて感じました。

○『HIVに感染した人たちの高齢化問題』
 佐賀でも紹介したのですが、HIV/AIDSは新たなフェーズに入ったと実感しています。予防啓発の重要性は言うまでもないことですが、実は医療の進歩に伴って患者さんが長生きされるので、あたり前のように高齢者の様々な問題がでてきます。例えば、認知症になり、家族のこともわからなくなり、徘徊してしまうといったことが起こります。ここで誤解がないようにしていただきたいのですが、HIVに感染しているから認知症になるというのではなく、人間であればだれでも認知症になり得るだけのことです。政府の広報でも「85歳以上の4人に1人が認知症」と脅しています。
 問題は、認知症になって、自宅で生活することが困難な状態になった時、多くの人は施設で生活することを余儀なくされますが、「入所の順番待ち」で入れないならともかく、HIVに感染している人はそもそも「入所お断り」といった状況になるケースが増えています。しかし、お陰様で、私の患者さんで認知症になられた方は、いま、施設で生活され、ご家族も徘徊や様々なトラブルの心配から解放されています。

●『施設が受け入れてくださった経緯』
 もちろん、施設での受け入れがすべて順調だったわけではありません。認知症が進むにしたがって、ケアマネージャーさんと相談しながら要介護認定を受け、施設入所が必要となっても、門前払いされたり、現場の施設がOKでも経営母体の本部がダメ出しをしたりという繰り返しでした。ところがある施設に相談したところデイサービスの利用に始まり、最終的には老人ホームでの受け入れもしていただけました。
 実はこの施設の施設長は以前、別の施設でHIVに感染され、在宅療養されていた私の患者さんの受け入れをしてくださっていました。その時も、今回も、職員向けにきちんとHIV/AIDSの現状と、その患者さんの状況に応じた話をして欲しいと依頼を受け、全職員向けの研修会を開催させていただきました。もちろん、受け入れ側の方で何らかのトラブルや相談事があれば直接岩室の方に連絡をいただける体制もつくりました。その施設だけではなく、訪問看護、入浴サービスの方々にご出席いただき、合同の研修会もさせていただき、地域のあらゆる資源を活用したチームでその患者さんを支えるんだ」という機運が生まれていたことを改めて思い出しました。
 そのような背景があっただけではなく、あらためて今回も研修会で発表していただき、気づかされたのが、その施設を運営している法人の理念が職員に浸透していたことでした。
 →「あなたがいてくれてよかったと思える街づくり」
 →「HIVである」=入所を断る理由にはならない
 この言葉は多くの医療関係者に聞かせるだけではなく、きちんと勉強してもらいたいと改めて思いました。みなさんはこのような姿勢で仕事をされていますか(笑)。

○『振り出しに』
 施設に患者さんを受け入れていただいた後、実はその方の認知症の症状が悪化し、集団生活に困難をきたす状況になりました。そうなると、認知症患者さんの治療経験が豊富な精神病院等で薬での症状のコントロールをする必要があるのですが、これまた「はいどうぞ」とはいきませんでした。そこで幸い私自身が保健所時代にお世話になっていたある病院の理事長先生に相談したところ、院長先生にお会いすることができました。院長先生は私の思いをご理解いただき、職員への研修会を開催することができました。ただ、病院という大きな組織なので、一度にすべての職員の方に研修に出席していただけるわけではありません。そこで、院長先生が「講演をビデオに撮らせてもらって、全職員に聞いてもらうようにします」と言ってくださいました。本当にありがたいことで、そのようにお願いし、結果的に受け入れてくださることになりました。
 ところが患者さんが無事退院し老人ホームに戻られた後に、このようなケースの受け入れに関する研修会を開催したところ、精神病院での患者さんの受け入れが振り出しに戻ったという事実を知ることとなりました。

●『Face to faceの大切さ』
 HIV/AIDSに限らず、感染症について一番誤解や偏見が多いのが医療関係者だと考えています。未だに多くの医者がHIV/AIDSの診療を拒否し続けています。なぜそうなるかというと、今の医学、看護学教育は科学的な教育が徹底され過ぎているため、「人」、「人生」、「生活」といった視点が弱くなり、「万が一」ばかりを気にして、「その人」、「その人の人生」への配慮ができなくなっています。もちろんそういうと「私の人生はどうなるの」と反論を受けるわけですが、リスクがほぼゼロ、あるいはゼロでも「No」というのが実態です。
 「福祉施設で受け入れられたのにどうして医療機関ではだめなのか」と思っていた私でしたが、研修会を開催し、自分自身の落ち度を大いに反省させられました。今回の老人ホームでの受け入れの前のケースでも、私はケアマネージャーさんはもちろんのこと、訪問看護ステーション、入浴サービスのところに直接、そして何度もお邪魔していました。今回のケースでも老人ホーム入所後、12月31日に直接お邪魔していた、と施設の方に指摘されました。「お医者さんが病院に来てくれるんだ」という安心感が生まれたようです。私としては、ただ、いろんな不安もありながら、「大丈夫」とご自身に言い聞かせながら対応してくださっている中で、陣中見舞ではないですが、こころからのお礼の気持ちでお邪魔していただけでした。
 しかし、よく考えてみると、精神科病院には研修会の時だけお邪魔し、それ以外はお任せという状況で、私の顔を直接見たことがない職員の方の方が多ければ、「関わりたくない」という思いの方が増えるのは当たり前のことだと改めて気づかされました。反省です。

○『IECを再確認したい』
 IECが大事。すなわちInformation(情報)をどんなに正確にEducation(教育)しても知識が増えるだけで、Communication、それもface to faceのコミュニケーションがなければ、せっかくの情報や知識も生きる力になり得ないと言い続けています。その自分自身が、一番大事なコミュニケーションをおろそかにしていました。来年度は少し仕事量を減らし、ちゃんといろんな人とコミュニケーションがとれる環境を作りたいと思いました。改めて「反省」です。