~今月のテーマ『犯罪予防も健康づくり』~
○『3月は卒業シーズン』
●『関西人「岩室紳也」』
○『弁護士にない「予防」という語彙』
●『事故?犯罪?』
○『予防ではなくRisk Reductionを』
●『人が人間になるために』
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○『3月は卒業シーズン』
年度末は学校で言えば卒業シーズン。お陰様で連日、複数校での講演をこなすと自分の講演の欠点が見え、少しずつ修正できます。自分勝手な思い込みかもしれませんが、生徒さんの感想も少しずつ変わってきました。
・まず、自分の考えをしっかり持って話すことが大切なんだなと思いました。「分からない」「知らない」をすぐに言ってはいけないんだなと思いました。人見知りのため、人と話すことは苦手ですが、いろいろな人とたくさん話したいなと思いました。
・三次元で女性との付き合いで嫌なことがあり、二次元に逃げました。二次元ではそんな嫌なことが一つもないので三次元に戻りたくありません。女性との付き合いに自身が持てなくなりました。お付き合いはしたいのですが自信がなく、何をすればよいか分からないです。友達からは二次元だとバカにされます。いまいち、二次元でなにがいけないのかよく分かりません。
・私はエイズとか生理とかあまり大切だと思っていなくて、保体のテストのために勉強してきていたし、高校でもそのつもりで勉強すると思っていたけど、今日のお話で、エイズについて色々な事を知れたし、生理も妊娠したら止まるとか、幼い頃母から聞いて半信半疑だったことは合っていて、覚えておいた方がよいと思いました。
・私は将来看護師になるのが夢なので、目の前で人が亡くなるのを見る機会が増えると思います。死に立ち会わなくてならない機会が増えるので、強くならなくてはと思いました。普段、考えることのないことを考えるきっかけをくださり、ありがとうございました。
・私は今回の健康教育で、ネットに書いてあることをすべて信じるのではなく、自分でたしかめていきたいと思います。
・友達と話すことで、いろいろな考えがあり、生活が変わるのだなと思いました。
・私は、表向きでは性に興味がないようにしているけど、裏では結構興味があって、一人でそういうことを知ったりしていました。それがとても怖いこと、トラウマになりうる行動だったのだと始めて知りました。高校に進学したら、そういうことを話す仲間(恥ずかしいけど)を作って恥ずかしがらずに言えるような関係にしたいと思っています。今日の講演も、周りには嫌だ、恥ずかしいと言い張っていましたけど、本心では楽しみにしていました。とても勉強になり楽しかったです。ありがとうございました。
・私は人間がどうして生き続けなくてはいけないのか理解できませんでした。どうせ亡くなるのに、在り続ける理由が分かりません。最初から人類なんてなければ、このような感情は生まれなかったのでしょうか。
・BL漫画やネットなどで間違った知識がまかり通っている昨今、コンドームについてのご指導は私のこころに深く、畏敬の念を抱かせました。薬物とエイズは切っても切れない関係にあります。私の知り合いでゲイである人がいます。その人は20歳そこそこで男性と肉体関係を持ち始めましたが、開発したての肛門なんぞ気持ち良いものではありません。ただ、彼はRUSHという危険ドラッグを服用し始めました。これを使うと(肛門)括約筋が緩み、たちまちアナルセックスが快感となるのです!やがて彼はHIVに感染しました。
このような感想の一つひとつが考えさせられるものでしたが、一方で講演の中で話題にしなければならないと思ったとんでもない犯罪も数多く繰り返された時期でもありました。また、ホンマでっかTVに出て感じたのが、弁護士さんには「予防」の発想がないということでした。そこで今月のテーマを「犯罪予防も健康づくり」としました。
『犯罪予防も健康づくり』
●『関西人「岩室紳也」』
最初に岩室先生を見た時は、なんかつまらなそうだと思っていましたが話し始めたら、話し方がとても面白くて聞き入ってしまいました。さんまさんの話をしていた時のさんまさんのセリフが喋り方まで似ていて面白かったです。(中3女子)
私は京都生まれで6歳まで兵庫県で育ちました。小学校の6年間はケニアで育ったと言っても、日本語でしゃべる相手は関西人の両親がメイン。帰国後中2の途中までは京都の中学校で自然と関西弁が身についていました。その後、高校を卒業するまで横浜だったので標準語(?)になったようですが、未だに関西弁は機会があるごとに出ます。ただ、ことあるごとに感じるのが「関西人脳」というのがあるのかなということです。大阪人のようなノリにはなれないのですが、「何でやねん?」という疑問符はいつも頭の中を駆け巡っているように思います。これって「関西人脳」なのでしょうか。
○『弁護士にない「予防」という語彙』
最近、弁護士の方がマスコミに登場する機会が増え、もちろん政治の世界にも大勢算入されています。このことの意味をあまり真剣に考えてこなかったのですが、先日ホンマでっかTVで弁護士の方と話をして感じたのが、弁護士の方の表現(発想?)には「白か黒か」しかなく、「黒にならないために」という予防の発想がないことでした。確かに弁護士という仕事は白か黒かをはっきりさせることで、時には黒を白にしてしまうこともあるでしょうが、黒、すなわち犯罪者が犯罪者にならないために活動する仕事ではありません。
一方で医者は病気になってしまった人を治す医者(臨床医)が多いのですが、病気にならないための予防を考え実践する医者(私のような公衆衛生医)も少なくありません。また、臨床医の中にも病気を予防する重要性は理解されています。
先日のホンマでっかTVで「家に泊まりに来た娘の友達を盗撮した父親」という「とんでもない男」を紹介している弁護士さんの話は、結局のところ「離婚」という結果を、「当たり前だよね」と出演者の共感を得ていました。それに対して、私が紹介した「コンドームを知らない男子高校生」という話題に対して、さんまさんが「そんなのウソや」と突っ込んできたので、「さんまさんはどうやって知ったのですか?」と切り込んだところ、「兄貴が(袋入りのコンドームを)ガーッと広げて教えてくれたんや」と言ってきたので、「そのように教えてくれる兄貴や年上のお兄さんたちがいない、性的な話をしない現代の男子は知らなくてもおかしくないでしょ」と返しました。すなわち「コンドーム」の存在を知ることができる環境整備こそが「コンドームを知らない男子高校生」を予防することにつながることを訴えようとしていました。
●『事故?犯罪?』
ドイツの飛行機が故意に墜落させられたとされる事件は「事故」ではなく「犯罪」と捉えられています。これからますます多くの事実が明らかになり、副操縦士の責任やコックピットの安全確保と事故予防という観点での議論が繰り返されるでしょう。また、今回の事故に限らず、多くの人から見えれば理不尽な理由で相手の命を奪ったり、一家心中や今回の事件のように自らの命をも絶ったりする事件が後を絶ちません。
自殺予防の原因調査を続けている団体の報告書を見ると、うつ病、精神疾患、生活苦、家族間の不破、失業、身体疾患、仕事の悩みなど、「共通の自殺の危機経路」が示されています。では同じような苦しみを持っている人が全員自殺するかといえばもちろん「No」です。苦しいから自殺してしまう人と、苦しくても自殺せずにいられる人の違いは何かを考えることが大事です。
○『予防ではなくRisk Reductionを』
3月14日~18日に仙台を中心に開催された「国連防災世界会議」を覚えておられるでしょうか。この会議の英語表記は「UN World Conference on DisasterRisk Reduction」でした。「防災」と「Disaster Risk Reduction」の違いは
「白か黒か」を考える日本人の発想と、「リスク軽減」という視点に立つ人たちとの違いではないでしょうか。
何メートルの津波が来たから、次の津波からの被害を予防するための嵩上げをしようという発想でハード面での整備が急がれている日本での復興は経済力が弱い開発途上国では参考になりません。そもそも日本のような仮設住宅さえも建てられないところが多い中、災害は起こるものとして、で、対処できる、対処しておかなければならないリスクは何か(例えば「女性」や「障害」)を明らかにし、災害時にどこにでもあるそのリスクが障壁とならないようにするにはどうすればいいかを考え、共有する場が今回の世界会議が目指していたことでした。
●『人が人間になるために』
精神科医の春日武彦先生が、こころを病むということは「その人のものごとの優先順位・価値観が、周囲の人の常識や思慮分別から大きくかけ離れてしまうこと」だと説明されています。そして、こころを病まないためには挫折や失敗を経験した時に「誰かに学んだ客観性、経験、情報、志、余裕、想像力などがあればそのストレスを乗り越えることができる」と教えてくださっています。
この「誰かに学ぶ」ということは関係性が希薄化している現代社会では難しく、結果的にこころが病んだ人が増えています。「関係性の希薄化」という社会に蔓延しているリスクへの対処を考えなければ、こころを病み、結果的に犯罪という状況を生んでしまう人はこれからも増え続けることでしょう。だからこそ「犯罪予防も健康づくりから」という発想を多くの人が持ち、「人」が人と人との間に一定のルールを守りつつ生きている「人間」になれる環境をどう作っていくかを考え続けたいものです。でも、「孤立」や「個」の方が楽だと思っていませんか。難しいですね。