紳也特急 200号

~今月のテーマ『人と人の間で生きる』~

○『200号記念パーティー報告』
●『分人』
○『「個人」だからの犯罪』
●『「個人」だからストーカーになる』
○『「分人」を増やして楽になる』
●『「個人」だから低い自己肯定感』

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○『200号記念パーティー報告』
 3月27日(日)に紳也特急が今月号で200号になるのを記念してパーティーが開催されました。発起人はこのメルマガの言い出しっぺの渡部享宏さんと中学生の時に私とパトの講演を聞いた蒔野絵里子さんでした。悪のり(?)で「生前葬」と言うことで、献花、献杯で始まりました。その時の写真はFacebook( https://www.facebook.com/iwamuro )で公開されていますので興味がある方はご覧ください。
 集まってくださった方は本当に多様でした。初対面の一読者の方はわざわざ群馬から来てくださいました。まさしくこのメルマガがつないでくれたご縁でした。築地本願寺のイベントからつながった親子も。1990年の公衆衛生学会で「(住民主体の)保健計画策定マニュアル」を発表して袋叩きになった私を助けてくださった上に、「エイズ対策」という本でも執筆の機会をくださった稲垣智一先生。1993年から横浜で大学生が中心となってHIV/AIDSの普及啓発を進めていたSAYネットワークの坪井勇蔵さんや斉藤肇さん。再生回数600万件のYouTubeのコンドームの達人講座を誕生させてくれた渡部享宏さんと只見町議会議員選挙(初当選)で来られなかった目黒道人さん。若い彼らとの出会いがなければHIV/AIDSの世界にここまでどっぷりつかっていなかったでしょう。「土足で教育現場に乗り込むな」と学校現場の実情を教え続けてくださった元校長の安藤晴敏先生。「愛の反対は無関心」を教えてくれた原田久先生。若者とのメールのやり取りに学ぶ大切さを教えてくれたのが蒔野絵里子さん。長年、高校生に話す場を提供し続けてくださった先生とそのお友達の今年の研修会の参加者の方も。AIDS文化フォーラム in 横浜や京都を一緒に盛り上げてくださっている皆様に加え、いつも応援してくれている壮ちゃん。栃木県小山市からお花を送ってくださり会場を華やかにしてくださった健康都市おやま推進サポーターの会と小山市職員の皆様。その花を見て岩室が地元の小山市で健康づくりに携わっていたことを初めて知った医学生も。新しい健康づくりグッズとして台頭しているTENGAの中野さん。本当に多くの方に来ていただきました。
 生前葬で改めて気づかされたのが、「人間」って人と人の間にいるから成長もし、人の道を外れずに生きていられるんだなということでした。そこで200号のテーマを「人と人の間で生きる」としました。

『人と人の間で生きる』

●『分人』
 浦安市でよくご一緒させていただいている千葉大学の政治学者の先生が、平野啓一郎さんが書いた「私とは何か」という本に書かれている「分人」という考え方が面白いと紹介してくださいました。個人とはindividual、すなわち分ける(divide)ことができない、分解できない存在と考えられていますが、実は個人とはいろんな側面をもった分人の集合体だという考え方です。
 確かに200号記念パーティーに出てくださった方だけではなく、本当にいろんな方々とのつながりがあるからこそ今の岩室紳也が存在しています。改めて「生前葬」で、「死」を意識しつつ、これまでの「生」を振り返らせてもらうと、岩室紳也はいろんな人とつながった結果の「分人」の集合体だということが実感できました。すなわち、「分人」というのは自分と他者の関係性を表す単位であり、どれだけ多くの「分人」を自分の中に作ることができるかで、活動の幅も、深さも、生き方も変わってくることに気づかされました。

○『「個人」だからの犯罪』
 女子中学生を2年間監禁していた事件を皆さんはどう受け止めたでしょうか。私が最初に思ったのが、友達はおろか、家族も出入りしない生活だからできた犯罪だということです。しかし、その点についての突っ込んだ報道は皆無(?)のように思います。もちろん大学で人と触れ合い、それなりの友達もいたでしょう。そして今は友達の部屋に出入りする関係性はほとんどないのが当たり前なのかもしれませんが、それを「当たり前」としてしまうことが犯罪の温床になっている可能性も考えた方がいいようです。「アダルトビデオは5人で見ろ」という私のメッセージはもしかしたら犯罪予防のメッセージなのかもしれません。

●『「個人」だからストーカーになる』
 皆さんは何回失恋しましたか。実は失恋の繰り返しは自分の中に「〇〇に振られた自分」、「△△に振られた自分」、「◇◇に振られた自分」といういくつもの分人を作るプロセスです。その都度、悔しい思いをしますが、現実を受け入れつつ、次はどうすればいいかを考え、成長することができます。すなわち「分人」というのは必ずしも恋人、友達、家族等といった、自分と気が合う人たちとの関係性だけではなく、時には失恋相手、喧嘩相手、騙された相手といった自分にとって好ましくない人との関係性も含まれています。
 しかし、自分中心の、自分が楽な「個人」という単位での関係性を構築することだけを考えていると、疎ましい人は遠ざける一方で、振られたにも関わらず思いを断ち切れない人に対してはストーカーになってしまってもおかしくありません。それこそ「お前、諦めろ」と言ってくれる友人がつくれる「分人」が自分の中にいればストーカーにならずに済むのでしょうが、諦められない「個人」だけだと犯罪者になってしまいます。

○『「分人」を増やして楽になる』
 私の講演後に大学生からこんな感想をもらいました。
 あまりにも自分のことで、頭の中が真っ白になった。昔は居場所が欲しくてほしくてたまらなかった。周りを気にしすぎて友達関係を築くのが辛かった。自分を少しでも否定されるとどうしようもないほど嫌だった。プライドが高すぎた。人に見られるのも嫌だった。人と目を合わせるのも嫌だった。でも最近思い切って一人で海外へ1週間ほど旅行をした。そこで色々だまされたり、色々な方に親切にしてもらったりして、なんか自分が傷ついたり、周囲を気にしすぎたりすることを自然と意識しなくなっていった。それからは前よりは生きるのが楽になった。前までは、よく自分の心が病んでいる、頭がおかしいから、なぜもっと普通に人と関われないんだと自分にイラついてた。でも今は少しだけ楽になった。自分で物事を決断して生きて行くのはとても楽しかった。これからは頑張って、挫折、失敗をしたいと思う。恐れずに生きて行きたい。人といっぱい話して、たくさんの人に相談できる人間になりたい。そして「あいさつ」のできる男になる!!また同じような考えになりかけても、今日の言葉を思い出すと思います。今日はいい日になりました。ありがとうございました。
 いろんな経験、いろんな人との関係性を通して自分の中のバカな、ドジな、騙されやすい「分人」と出会うことで楽になったのでしょうね。

●『「個人」だから低い自己肯定感』
 最近、自己肯定感が低い若者が多いと多くの大人たちが言います。そう言われても、では岩室紳也は自己肯定感が高いかと言われるとよくわかりませんし、そもそも自己肯定感ってどうやれば高められるかがわかりませんでした。そんなことを考えていた時に、気持ちが辛くなっている人とこんなやり取りがありました。
 私は今まで、親や、大学の先生に助言され、ある程度選択肢のある中で、いい方を選び、生きてきました。私の人生の中で、誰かに選択肢を与えてもらうことが当たり前になってしまっていました。また、人が示した選択肢以外の選択をすることで、嫌われてしまうのではないか?と不安になっていました。でも、よく考えると、いいとこ取りをして、自分で決めることから逃げていたのかもしれません。自分は、本当にずるいなーと、感じました。
 先の大学生の感想からも「自分で決断する」ということは、生きる力を育むために不可欠なことでした。しかし、自分で決断すると、時には別の道を勧めてくれている人の思いを否定すること、すなわち自分の中に「分人」をつくることにつながります。誰からも愛される、嫌われない「個人」を作り上げようとする社会が、ストレスに強い「分人」の集合体づくりではなく、逆に自分で決めることから逃げる「個人」を、弱い「個人」を生産しているようです。他人との関係性で生じるストレスに強い、タフな人をつくるためには、その人の中に多く経験を通して多くの「分人」が育つ環境づくりが求められているようです。犯罪予防も、ストレス対策も分人づくりから。
そんなことを実感させていただいた200号記念パーティーでした。