紳也特急 209号

…………………………………………………………………………………………
■■■■■■■■■■■  紳也特急 vol,209 ■■■■■■■■■■

全国で年間200回以上の講演、HIV/AIDSや泌尿器科の診療、HPからの相談を
精力的に行う岩室紳也医師の思いを込めたメールニュース!

性やエイズ教育にとどまらない社会が直面する課題を
専門家の立場から鋭く解説。
Shinya Express (毎月1日発行)

…………………………………………………………………………………………

~今月のテーマ『経験していないことは他人ごと』~

●『生徒の感想』
○『人は経験に学ぶ』
●『LINEを経験』
○『「SNSルール」って意味があるの?』
●『トラブルが減るような経験を』

…………………………………………………………………………………………

●『生徒の感想』
今までの講演で、一番面白くて、一番笑いました!ありがとうございました!
保健講和2時間?絶対寝るだろう・・・と思っていたのに始まった瞬間にこれは寝てはいけない話だと悟ったのでおどろきました。コンドームをつけなきゃいけないことは知ってたけれど、包茎のこととか、コンドームの持ち運び方も大事で気を付けなければならないなんて、そんなの誰も教えてくれないだろうから。もしパートナーができたら必ず確認しようと思いました。これだけ話が残っているということはやっぱり耳からの情報が多いからですかね。こんなにまじめにこういう講演を聞いたことがなかったので聞けて良かったです。HPも見ます!
「人は経験からしか学べない」という言葉、とても印象に残りました。経験をするということを、これからいろんなことでしていって、たくさん活かしていくことをしたいと思いました。
自分が今日、先生から学べたこと。経験していないことはとても怖いことだと学びました。どこか一度、間違いを犯しただけで人生がくるってしまうかもしれないことを学べてよかったです。
病気で亡くなってしまう話は、今後何年関係がない人生だったとしても、いつか絶対必要になると思ったのでとても勉強になりました。

父が今、大変な状況にあるので、今日の話は、自分の中で響いてくるものがありました。

この感想を書いてくれた生徒さんのお父様が講演の1週間後に亡くなられたそうです。その時まで周りには話さず、部活も部長として元気に引っ張っていたようです。

最近の講演で必ず話す言葉が「人は経験に学ぶ 経験していないことは他人ごと」です。この言葉に何故か多くの生徒さんが反応してくれます。そこで今月のテーマを「経験していないことは他人ごと」としました。

『経験していないことは他人ごと』

○『人は経験に学ぶ』
最後に紹介した生徒さんの感想に学校の先生が付箋で生徒さんの状況を紹介してくださいました。それを読ませてもらいながら、生徒さんの前で話をしている時に、この生徒さんのようにまさしく講演を聞いている瞬間、保護者が亡くなろうとしている生徒さんが目の前にいるかもしれないという意識が私の中になかったということに気づかされました。こういう経験をさせてもらい、一つずつを講演の中に入れ込み続けているからこそ、年々伝える内容が少しずつですが聞き手に伝わるものにバージョンアップしているようです。

●『LINEを経験』
これまでFacebookやTwitterなどのSNSは使っていたのですが、LINEは必要性も感じることもなく手を付けていませんでした。しかし、今回ひょんなことから使うことになり、いま、6人の方と「友だち」になっています。携帯番号ではつながりませんが、講演を聞いた人がつながるためのIDは一応つくりました。岩室紳也が何者かを考えて検索してみてください(笑)。
LINEも経験しないとその問題点が見えてきませんね。LINEを導入するきっかけになった人が教えてくれたのが「既読」機能の便利さでした。確かにメールを送っても読んでもらえたのか、伝わったのかを確認する術がありません。ところが、LINEだと開いた瞬間に「見てくれた」ことが確認できます。そのため、「会議に遅れます」といった連絡には大変便利です。
一方で「見てくれた」は確認できますが、「理解してくれた」かどうかはもちろんのことわかりませんし、どのような思いで「見てくれた」かもわかりません。「まったく大事な会議なのに遅れるなんてとんでもない奴だ」と思われているかもわかりません。すなわち、いつも言っていることですが、「SNSは文字情報伝達ツールでしかない」ということを改めて確認させてもらいました。

○『「SNSルール」って意味があるの?』
ところが、最近、学校現場ではSNSのトラブルを解決するために、「SNSルールづくり」や「ネットの使い方教室」が流行っているようですが、そんなルールづくり、教室って意味があるのでしょうか。6項目のSNSルールというのがネットに出ていました。

1, 相手が傷つくか迷ったら書きこまないようにしよう!
→そもそも迷う子は書き込みません。迷わない子、自己中の子を育てるのが自己完結型SNSです。迷う子を育てるために、もっといろんな人との会話というコミュニケーションで多様な他人の意識構造を知る環境整備が求められています。

2, お金・個人情報に関する利用規約は必ず読もう!同意ボタンは印鑑だ!
→大人も、少なくとも私は読みません。大人も読まないことを子どもに求めないようにしたいものです。そもそも法律や規則、規約というのは何が悪いかを明確にするために作られていますが、法律があっても、決まりがあっても違反する人もいれば、意識もせず、結果的に守っている人がいます。問題を起こさない人たちはそもそも一定の人間関係の中で育ち、他者の経験に学んでいます。

3, 利用時間は各家庭で決めて、寝る前のSNSの時間を違うことに使おう!
→SNS以外にすることがないからSNSに没頭しているのです。他人のせいにしながら、友達がLINEしてくるからと言い訳をしながら、結局のところは自己満足のためのSNSになっています。SNSが文字情報伝達ツールでしかない人と、SNSが居場所になっている人の違いがなぜ起こるのでしょうか。確かに「既読」になると文字情報伝達ツールとしか思っていない人は「読んでもらえてよかった」と思いますが、SNSに居場所機能を求めている人は、相手のレスポンス、反応がないと「既読スルー」と思ってしまってもおかしくないですよね。

4, 載せてほしくないときは、相手に伝える勇気を持とう!
→そのようなコミュニケーションが取れないからトラブルになるのです。失敗したくない病、傷つきたくない病にさせておきながら、そもそも勇気を奪っておきながらこのようなきれいごとを並べるというのはイマドキの若者の実情をわかっていない、生の若者たちとの触れ合いを経験していないとしか思えません。

5, SNSでのトラブルは、自分で抱えこまず、信頼できる人に相談しよう!
→相談できるコミュ力があれば最初からトラブルになりません。自分で抱え込むのがSNSという環境です。Twitter、Facebook、LINEの違いはそれぞれを使ってみると、経験してみるとわかります。Twitterの場合、自分が何かツィートすると、岩室紳也の場合はフォロワーの1,728人が見てくれていると錯覚することもできます。Facebookの場合は「いいね」の数だけ確実に見てくれていますし、それ以外の人にも伝わっている可能性があります。LINEの場合は「既読」になった人は一応見てくれていますが、Twitterやそれこそ2チャンネルのように大勢に伝わるわけではありません。その分、「仲間意識」、「居場所意識」が強くなり、思わぬトラブルも発生します。自分で抱え込まない人はSNSを伝える手段にしていますが、自分で抱え込んでいる人はSNSで一見他人とつながっていると錯覚するのですが、実際には孤立している、相談できない、自分の弱みを見せられない人ではないでしょうか。

6, 直接会ったことのない人には必要以上に関わらないようにしよう!
→こんなことを言うから、日常の挨拶もできない子が増えるのです。SNSでつながっている人が怖いと思える人は、リアルな対人関係の中で怖い思いをしているのではないでしょうか。傷ついたことがない人はSNSの中でのつながりに疑問を持たない、持てない人たちです。だから逆に傷つくと逆切れして、とんでもないトラブルが発生します。

●『トラブルが減るような経験を』
政治家の仕事は法律づくりなのでその意味を否定するつもりはありませんが、根底のところを、社会に蔓延するリスクを絶たなければトラブルの根絶や未然防止はできません。SNSのルールづくりも単なる「正解提供」、「大人のアリバイづくり」になっていないかの検証が必要です。イマドキの社会は誰かの、他人の責任を前面に出して、その人を責めて自分の責任がなかったことにする怖い社会です。よく「ネットの時代になり見えないところでいじめが起きるようになった」と発言する人がいますが、「見えない」のではなく、「見ていない」だけです。繰り返しになりますが、SNSは所詮文字情報伝達ツールでしかないということを「見ていない」だけです。大人こそもっと若者たちとつながる経験を重ね、SNSでトラブルになる人とならない人の違いを、実感をもって経験してもらいたいものです。トラブルにならない人は、多くの人と接する経験を通して、何が大事か、何がトラブルを起こすかを経験していると思いませんか。トラブルが減るような経験を多くの若者たちができる環境を作り続けたいものです。
こんなことを考えていたら新年になりました。
本年もよろしくお願いします。
2017年1月1日