紳也特急 212号

~今月のテーマ『二者択一』~

●『聞く耳を持てない』
○『不登校の原因』
●『人は話すことによって癒される』
○『不登校の予防』
●『男女の違い』
○『勘違い男』
●『道徳は「教科」に、「経験」に学ぶ?』

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 今日の岩室先生の講演会を聞くまで、性なんてどうでもいいと思っていました。そのような情報は自分には無縁だと思っていたし、知っていたって成績は上がらないし、ほぼ無視していました。別に一人で生きていたっていいし、それがある種自分の美学のようになっていました。でも今日で変わりました。相手のことを考えればそれも大切で、それは自分のためでもあることに気づかされました。性に関する情報の必要性をひしひしと感じました。本当に先生はすごい方だなと思いました。このような時間を提供していただいてありがとうございました。』(中3男子)

 私が今回の講演会で1番心に響いたことは、友達の大切さです。やはり何かあったら友達に話すのが1番スッキリするし、気持ちの整理ができると思うので、何でも話せる相談できる友達を作っておくことが大切なんだなと思いました。(男子)

 命の大切さを改めて考えられる時間でした。お葬式は家族だけでやらないよう聞いてみます。僕はコミュニケーション能力が低いので、1人でも多く話せるよう努力します。孤独にならないよう気をつけます。(中3男子)

 私は目の前でおじいちゃんに死なれていて、そのことを思い出し、今まで目をそむけてきたことに目をむけることができました。(中3男子)

 私が一番驚いたのはストレス解消法です。私は音楽を聞いたり、テレビを見たりと1人で解消することが一番いいと思っていました。これからはどんな小さなことでも友だちに話せるようにしたいと思います。(中3女子)

 付き合うときはマックにいく!相手を見極めることが大事。したくないことははっきりNO!と言う。「わからない」は禁句。コンドームは相手を想う気持ちを表す。沢山のこと学べました。(中3女子)

 LINEやTwitterはしょせん電子機器だから人の感情を読み取ることはできないということを学びました。便利だと思う一面もあるのですが、それ以上にトラブルに巻き込まれるのが怖いです。今日聞いた話で改めて、自分のメール等の扱いでは、相手に対して気を付けようと思いました。(中3女子)

 今日のお話で特に印象に残ったことが2つあります。1つ目は、目から入った情報は分かったようで分かっていないということです。なので、想像力を育むためにも耳から入る情報が大切だと思いました。2つ目は、自立は依存先を増やすということで、頼れる人(依存先)がいて、人は生きていけると分かったので、信頼できる友人や失敗を話せる友人が必要だと感じました。生きていくために大事なことを学ぶことができました。(中3女子)

 私は最近、好きだった女性アイドルの子が亡くなってしまい、すごく悲しいし、突然のことだったのでまだ受け止められていません。最初に人は経験がないと成長できない、というお話を聞いて死は近いうちに来るかもしれないし、もしかしたら今日なのかもしれない、ということにすごく納得させられました。他人ごとのように思うのではなく、自分のことと思い、一日一日を大切に生きていこうと思います。(中3女子)

 年度末は中学生向けの講演オンパレードです。一人ひとりの生徒さんの感想を読むと、自分自身の講演の視点が年々変化していることに気づかされています。「性」や「エイズ」を題材に話しているものの、結局のところ一番言いたいのは「友だちと、誰かともっと話し、そのコミュニケーションの中から生きる力、困難を乗り越えていく力を育てて欲しい」ということです。性の話題で盛り上がれば、コンドームを使う、使わない、使いたくない、使わないといけない、といったいろんな視点に気づくとともに、使わない仲間がいろんなトラブルに巻き込まれていることを教えてもらえます。
 一方でこうやっていろんな意見を書く子もいる一方で、「聞きたくない」、「ウザイ」としか感想用紙に書かず(書けず)、あるいは最初から「聞かない」ことを決めつけている子たちもいます。自分の意に沿わない内容に対して「拒否」という、「全か無か」、すなわち「好きか嫌いか」という選択肢しか持たない子どもたちの今後に対する不安を感じたことを学校の先生に送ったところ、

 確かに、「好きか嫌いか」で行動している生徒が多いですね。
 あの「先生が嫌いだから」や「あの子がいるから」クラスに入れない子が複数います。

とのことでした。全か無か。好きか嫌いか。成功か失敗か。同じか違うか。善か悪か。友人・仲間か他人か。勝者か敗者か。白か黒か。〇か×か。すなわち「こっち」か「あっち」かの二者択一しかない世の中のおかしさについて考えるため、今月のテーマを「二者択一」にしました。

『二者択一』

●『聞く耳を持てない』
 尊敬している人が仕事を辞めると聞きました。もったいないと思いつつ、また次のことにチャレンジされるのかなと思っていたら、どうも組織内での軋轢とか。提案したことが、気が付けば相談なしにひっくり返されていたりといったことが続き、このままでは身も心も持たないと思ってのこととか。先日も有名な大企業の社長が退任する理由がその人の「コミュニケーション不足」と報道されているのを聞き、いずこも同じかと思いました。子どもたち、若者たちだけではなく大人でも「聞く耳を持てない」人たちが増え、その人たちが結構管理職になっていると多くの人が実感しているのではないでしょうか。

○『不登校の原因』
 「不登校、引きこもりの原因がこれ」と決めつけるのもまた二者択一の発想になってしまうと怒られてしまうでしょうが、少なくとも不登校になるには、社会的に引きこもってしまうにはそれなりの理由があるはずです。もちろん不登校も引きこもりも生き方の一つと言ってしまえばそれまでですが、多くの場合は社会的な活動を行いたい、社会に出たい、仲間を作りたいと思っているから問題になります。
 「あの『先生が嫌いだから』や『あの子がいるから』クラスに入れない子が複数います」という言葉はすごく重く、核心を突いていると思いました。この思いは実は子どもだけの問題ではなく、保護者や周りの大人の問題でもあります。クラスに入れない子の言い分を聞いていると、そこには先生やあの子による「いじめ」の存在が明らかになることでしょう。そして社会は「いじめをなくそう」という「犯人探し、一見正解、二者択一、でも何の解決にもつながらない、根本原因に手を付けない対策」に奔走します。

●『人は話すことによって癒される』
 2016年の自殺者数が21,764人と22,000人を下回り、ピーク時の34,427人と比べ、年間12,000人以上減少したことは喜ばしいことです。年齢階級別に見ると、介護保険が始まった頃から年配者の自殺が減る一方で、若い世代の自殺は東日本大震災の2011年まで増え続けました。それ以降はすべての年代で減少し続けていることに学ぶ必要があります。
 介護保険法が施行された結果、介護や一人暮らしで孤立していた人たちのところにヘルパーさんをはじめ、いろんな人が関わるようになった結果、日常の中でしゃべる相手が増えた人たちは話すことによって癒されたのです。「人は話すことによって癒される」はカール・ロジャーズという臨床心理学者の言葉だと緩和ケアの専門医の岩手県立大船渡病院の村上雅彦先生に教えていただきました。
 2011年の東日本大震災で若い世代を含め多くの日本人が「命」について考えた結果、2011年以降はすべての年代で自殺が減り続けていますが、東日本大震災の記憶が風化したら若い世代の自殺は増えるのでしょうか。

○『不登校の予防』
 不登校も後追い対策ではなく、どうすれば不登校は予防できるのか考えたいものです。問題が起きてから対処するいわゆる2次予防で成功した事例をほとんどありません。「人は経験にしか学べない」という言葉の裏には「人は経験していないこと」、すなわち2次予防、ハイリスクアプローチで成功した事例がないからこそ、できるはずだという錯覚を消し去ることができないようです。
 私も嫌いな人が大勢います。実名を挙げると様々な支障が出るので敢えて挙げませんが、学校にお邪魔して先生方と話していると「すごい人」と思う人も大勢いる一方で、「生徒がかわいそう」と思ってしまう人もいます。ただ、その人の全てがだめかというとそうではなく、そもそもブラック企業のような教員生活に耐え、生徒に対してその人なりに真摯に向き合っていることは尊敬に値します。このように思えるようになるには、結局のところ、人と話すことで「いろいろあるのが人間社会」ということを学び続けてきたからです。

●『男女の違い』
 おはなしを聞いている中で一番驚いたことは、女子と男子で考えていることが本当に違うということです。今までは、冗談で言っているのかと思っていたけど、本当に変ということを知りおどろきました。同じ人間なのになんで違うのかなとも思いました。テレビに出ているイケメンの人もそうなのかと思うともっとふしぎです。人間は本当にふしぎです。今日の岩室先生の話をきいてたくさんの“ふしぎ”がありました。今日は本当にありがとうございました。(中3女子)
 中3になるまで男女の違いに気づかない社会なのですね。危ない、危ない。その男子が「嫌い」になって不登校にならずに済んでよかったですね。

○『勘違い男』
 岩室先生の話はとても面白くて、ずっと聞いていたくなりました。私にあてはまることが多く、それが自分の悩み事でもあったので岩室先生の言葉ですっきりしました。私の昔のパートナーも勘違い男でただの身体目当てでした。そのことを周りの人に話せず頭の中でごちゃごちゃしていましたが、先生が「そんな男はけりとばしたほうがいい」とおっしゃった瞬間、自分の中のごちゃごちゃが少しへった気がしました。自分の気持ちをわかってくれる人がいると感じ、とてもうれしかったです。ありがとうございました。(中3女子)
 話せばすっきりするけど、そのような環境がなかなか得られない時代、社会です。自分の気持ちを、思いを共有できる人がいるからこそ引きこもらずに、社会に出られる、出たくなるのです。

●『道徳は「教科」に、「経験」に学ぶ?』
 文部科学省は「生きる力」を育てることが重要だとかかげ、そのことには大賛成です。健康づくりでもIEC、すなわちInformation(情報)をどんなにEducation(教育)しても増えるのはKnowledge(知識)だけ。この知識を活かすには他者とのCommunicationが不可欠だということは常識です。文部科学大臣が「教科書を活用して『考え、議論する』質の高い授業が展開されることを期待したい」とするコメントを発表しましたが、テストで100点取った生徒さんが誰かをイジメたら道徳の次のテストは0点になるのでしょうか。人は経験にしか学べないという教えをどう道徳の授業に盛り込めるかが問われているようです。
 やっぱり大事なのが「はまってけらいん かだってけらいん」ですね。