紳也特急 246号

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全国で年間200回以上の講演、HIV/AIDSや泌尿器科の診療、HPからの相談を精力的に行う岩室紳也医師の思いを込めたメールニュース! 性やエイズ教育にとどまらない社会が直面する課題を専門家の立場から鋭く解説。
Shinya Express (毎月1日発行)
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~今月のテーマ『マスク経由で感染する(?)新型コロナウィルス』~

●『生徒の感想』
○『自分勝手に解釈』
●『感染経路を正確に知ろう』
○『空気感染』
●『飛沫感染』
○『接触感染』
●『コロナウィルス報道から読み解く感染予防』
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●生徒の感想
 自分自身、インターネットやテレビなどの情報を見て、それをすぐに正しいと思ってしまうところがあるので、様々な危険を避けるためにも、見ただけで情報を受け取るのではなく、他の誰かに聞いたり、話したりしてすぐにその情報が正しいと思わないようにしたいと思います。(中3女子)

 はじめは知っていることを言われるだけだと思ったけど、想像以上に学べたからよかった。(高1男子)

 今まで私は人に頼るということをあまりしてきませんでした。今はネットで検索すればいくらでも対処法は出てくるので、そういうものの力を借りて解決するか、自分で考えるか、それでも無理だったらあきらめるというような手段ばかり選んでいました。それが普通だと思っていたし、他人に悩みを打ち分けたところで、自分の弱みを見せびらかして、恥ずかしくなって相手にはただ迷惑なだけだろうと思っていました。
ですが今回岩室先生のお話の中で、誰かに迷惑をかけるのは悪いことではなく、話すだけでも癒されることを教えていただき、自分の中でため込んでしまうと、そのうち犯罪に手を出してしまったり、自殺してしまう人もいるというのも知りました。
私は幸いお互いに迷惑をかけあうことができる友達はいるので、せめてそういう人には勇気を出して相談するように心がけていきたいです。(高1女子)

 岩室先生のお話で最も印象に残っているのは「人は経験からしか学べない。経験してないことは他人ごと」というお言葉です。先生は私たちを「高校生」と一くくりにせず、多様性を認め、対等にお話をして下さいました。話の仕方も聞く側があきずに楽しめる方法でした。本当に貴重な経験になりました。ありがとうございました。(高1女子)

 若い世代はこれらの感想のように、彼らとちゃんと向き合い、分かりやすく、論理立てて話すと、こちらの思いをちゃんと受け止めてくれます。というか、ちゃんと受け止める力があります。ところが、どうも大人になると自分はおろか、周囲も気づかない認知障害が徐々に進行し、情報を断片的に、しかも自分に都合がいいようにしか受け取れないのではないでしょうか。いま、新型コロナウィルス騒動のため、巷からマスクが消えてしまった日本は異常としか言いようがありません。そこで今月のテーマを敢えて、大胆に「マスク経由で感染する(?)新型コロナウィルス」としました。

マスク経由で感染する(?)新型コロナウィルス

〇自分勝手に解釈
 いま、新型コロナウィルスで世間は大騒ぎで、このパニック騒動でマスクが売り切れています。テレビ、ラジオ、ネットでもいろんな情報が発信されています。NHKや、公衆衛生の専門家から見てまともな医者はちゃんと適切な情報を流しています。しかし、認知障害が進んでいる日本の大人たちは自分にとって都合がいい「マスク」という言葉だけを受け取っています。

 自分が新型コロナウィルスに感染しないために、自分がマスクを装着することが大事

と解釈するのですね。ところが、発信されている正確な情報は次のような内容です。

 あなたが咳、くしゃみなどの症状があれば、他の人に感染させないため、あなたがマスクを装着してください

と言っています。このような内容の動画はHPにもアップしていますが、YouTubeでも「マスクで広がるインフルエンザ」といった内容のものもアップする予定です。「えっ、どうして?」と思った方はしっかりこのメルマガを読んでください。そして、疑問、反論、意見はぜひ送ってください。

●感染経路を正確に知ろう
 中学校の教科書にも病原体がどのような経路で人から人、動物から人に移るかを正確に知る必要があることが書かれています。しかし、残念ながらHIV/AIDSでもそうですが、日本では医者でさえも正確に理解している人が少ないのが現状です。今回の新型コロナウィルス問題で感染経路として理解しておきたいのが、空気感染、飛沫感染、接触感染の3つです。

〇空気感染
 「空気感染」というのは字のごとく空気中に病原体が浮遊している状態にあり続け、その病原体を吸い込むことで同じ空間にいる人が感染します。ウィルスはもちろんのこと、細菌も目に見えないので素人的にはインフルエンザも、結核も、新型コロナウィルスも全部同じ感染経路に思えてしまうでしょうが、ここの整理と理解がすごく重要です。この「空気感染」は正確には「飛沫核感染」といい、飛沫の核が感染するという意味です。空気感染する代表的な感染症は結核、水痘(水ぼうそう)、麻疹(はしか)です。例えば咳で肺から結核菌を排菌している人がいた場合、同じ空間にいるだけで周囲の人に感染させる可能性があるため、隔離した上での治療ということが行われます。
 では、医療者は排菌している結核患者さんを診察する際にどのような注意をするのでしょうか。一番重要かつ簡単な予防法は風上に立つことです。結核菌は風下に運ばれるため感染することを予防することができます。患者さんを搬送する場合、車の後部座席に座っていただき、窓を開け、前から後ろに空気の流れをつくることで運転手の感染予防効果が高まります。一般的なマスクだと結核菌は素通りしてしまうので、結核菌を通さないN95というタイプのマスクが使われます。ただ、このマスクは顔に密着させなければ効果がなく、密着させると装着している人が呼吸することが難しいほどで、装着できるのはせいぜい20分程度です。

●飛沫感染
 「飛沫感染」は字のごとく飛沫(しぶき)で感染が起こります。先の空気(飛沫核)感染と字の違いが重要です。「沫」とは泡(あわ)を指し、広辞苑には「液体が空気を含んで、まるくふくれたもの。気泡。あぶく」とあります。誰かのくしゃみを浴びたことはありますか。あるいは自分自身のくしゃみを感じたことはありますか。水分が飛び散りますよね。すなわち、飛沫感染とは病原体に水分が付着した状態で飛び出したあわによる感染です。もちろん1メートル以内の近距離にいる人のくしゃみを浴びれば感染する可能性があります。逆に言うと2メートル以上離れていれば、飛沫は飛んでこないで途中で落ちてしまうので感染は起こりません。これが空気感染、飛沫核感染との大きな違いです。
 空気中を浮遊しない飛沫はどうなるでしょうか。重力により、落下し、周囲の家具、ドアノブ、蛇口等々に付着します。咳エチケットということが言われていますが、一番の基本は自分の手で、特に手のひらで咳やくしゃみを受け止めないことです。手のひらで咳を受け止めると手のひらに飛沫、病原体をつけることになります。飛沫感染は実は接触感染とのセットで考える必要があります。自然に落下した病原体だけではなく、手のひらに着いた病原体は手が触れたすべての場所に広がってしまうのです。ぜひ肘で咳を受け止めてください。
 一般的なマスクが有効なのは、既に感染し、かつ咳やくしゃみと言った病原体を体外に出すことにつながる症状がある人は、マスクを着用することで飛沫が周囲に飛び散らないようにするのです。でも、一番良いのは外出をしないことです。

〇接触感染
 「接触感染」は字のごとく接触で感染が起こることです。皆さんが出かけるところには当然のことながら既に病原体がまき散らかされている可能性があります。病原体にあることに気づかずに、というか気づかないのが普通ですが、病原体が付着した場所を触ってしまい、その手を自分がしているマスクに当てたとします。飛沫付きの病原体がマスクに付着します。呼吸で飛沫が乾燥すると病原体がマスクを素通りして吸い込まれます。予防のためにしているつもりのマスクが実は感染源になってしまうのです。

●コロナウィルス報道から読み解く感染予防
1.インフルエンザとの違い
 新型コロナウィルスの感染者数が10,000人を超え、死者が259人という報道は「怖い」というイメージを植え付けています。しかし、2019年1月に、日本で、インフルエンザで亡くなった方は1,685人です。インフルエンザにはワクチンがあり、症状を抑える薬があってもこれだけの方が亡くなっています。中国の報道からも免疫力が衰えている高齢者や持病がある方が多いというのはある意味インフルエンザと同じ状況です。

2.事実から紐解く感染経路
 日本でバスの運転手さんとバスガイドさんが感染したという事実は次のように考えるべきです。もちろん空気感染の可能性は否定できません。だとすると、このバスに乗っていた他の乗客の中での感染状況をぜひとも中国に確認し、公表してもらいたいです。
 「ほとんどの客が感染していた」となれば、今のバスは密閉性が高いので空気感染が強く疑われ、しかも感染力がすごく強いということになります。
 飛沫感染だとすると、ガイドさんがマスクをしないで接していたとすると、近くの乗客が感染し、バスの後方の座席の乗客は感染していないという結果になっているはずです。
 乗務員は感染していたが、バスの客はあまり感染していなかったということになるとどうでしょうか。乗務員の方の行動様式が感染につながったと考えられます。報道によれば、最初に感染した運転手の方は関西と関東を往復する際に、行きはマスクをせず、帰りはマスクをしていたということです。空気感染が否定されれば、やはりマスクが接触感染のリスクになったとして考えられます。
 バスガイドさんは運転手さんからの感染とされていますが、運転手さんがマスクをされていたということであれば、やはり接触感染が疑われます。バス内の清掃をする際に、ウィルスを手からマスクに付けた可能性も考えられます。
 過去のコロナウィルス感染が飛沫感染と言われているので、今回もインフルエンザ同様の感染経路と考えていいのではないでしょうか。

3.全員が発症しない
 武漢から帰ってこられた日本人の方の中に無症状にもかかわらず新型コロナウィルスに感染している人が確認されています。これはインフルエンザも同じですが、感染しても発症しない人がいる可能性を示唆しています。この方々がその後どのような経過をたどるかをぜひ公表してもらいたいのですが、感染しても自分の免疫力で抑えられる人がいるウィルスということになります。

4.治療法
現時点で新型コロナウィルスを体内から駆逐できる確実な抗ウィルス剤が存在しない以上、また、免疫力で発症しない人がいる可能性を考えれば、日頃から体力をつけておくことしか治療法はないと言えます。もちろん、様々な合併症も考えられますので、症状が出た時は感染症の専門機関にかかることが大事ですが、ただの風邪の人が、免疫力が落ちた状態で、必要がないマスクをいじりながら、実際に新型コロナウィルスの患者が実はウィルスを病院内にばらまいているところに行くと・・・・・。自分でよく考えてください。

5.で、どうする?
 新型コロナウィルスについて現時点で確定的なことはもちろん言えません。
 空気感染なら「同じ空気を共有しない」という対策しかないのです。バス等の密閉環境で働く方は少なくとも「症状がある方はこのご時世ですので、この空間を共有することをご遠慮いただければ幸いです」としたいものです。タクシーの方はほんの少しだけ前と後ろの窓を開け、空気の流れを作ってください。
 飛沫感染、接触感染対策を取るのであれば、とにかくいろんなところを触ってしまう手を顔に近づけないことです。マスクを装着するなんて言語道断です。この原稿を読んだにもかかわらず子どもにマスクをつけさせている保護者の読解力を疑います。もっともそのような人でも読みたくなる、理解できるような原稿が書けない岩室の表現力も未熟と反省です(苦笑)。