紳也特急 248号

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全国で年間200回以上の講演、HIV/AIDSや泌尿器科の診療、HPからの相談を精力的に行う岩室紳也医師の思いを込めたメールニュース! 性やエイズ教育にとどまらない社会が直面する課題を専門家の立場から鋭く解説。
Shinya Express (毎月1日発行)
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~今月のテーマ『新型コロナウィルスはどう終息するか』~

●『感染症と付き合ってきたからこそ』
○『感染経路の思い込みのリセットを』
●『「環境の中の総ウィルス量」という考え方』
○『感染した人が出すウィルス量』
●『集団免疫とは』
○『隔離政策の意味と弊害』
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●感染症と付き合ってきたからこそ
 新型コロナウィルスのおかげで、日本には本当に多くの「感染症の専門家」がいたのだと知りました(笑)。と同時に、そんなに感染症に詳しいのなら、どうしてこの人たちはHIV/AIDSが広がった時に診療に当たってくれなかったのか、今でも診療拒否をしているのだろうかと思いました。先日お会いした開業医の方も新型コロナウィルスについて熱く語っておられましたが、HIV/AIDSの話になると「あれは大変な病気ですよね」と、完全に逃げ腰でした。
 AIDS文化フォーラム in 横浜が始まった27年前、感染症の専門家でもない、一泌尿器科医の私がHIV/AIDSを診ざるを得ない状況でした。正直なところ、治療薬もない、接しているだけで感染するかもしれない、と考えながらも、「医師免許」をいただいている限り診療するのは当たり前という立場で、でも自分自身が感染しないために何ができるかを考え続けていました。だからこそ「感染症」ということをいろんな角度から考え続けることができました。
 いまの世の中はまるで30年近く前のエイズパニックのような状況です。ただ、当時と違うことは、志村けんさんが亡くなられたように、新型コロナウィルスを身近な問題と受け止めてくれている人が多いことです。新型コロナウィルスはいずれ終息します。なぜかと言うと、今感染されている方の多くは治癒されているからです。
 そこで今月のテーマを「新型コロナウィルスはどう終息するか」とし、終息に向かうということはどういうことか、そのためには何が必要か、一人ひとりができることは何かを考えてみました。

新型コロナウィルスはどう終息するか

○感染経路の思い込みのリセットを
 様々な報道が誤解を生み、空気中に浮遊しているウィルスで感染すると思っている人が大勢います。しかし、満員電車での通勤を余儀なくされている首都圏のサラリーマンの中で感染爆発は起きていません。この事実こそが新型コロナウィルスの空気感染やエアロゾル感染を否定しています。もちろん医療機関での人工呼吸器等の使用時は別問題です。主な感染経路は、感染している人から飛び出した飛沫が落下、付着したところを触る接触感染です。ところが「感染経路がわからない人が増えている」と言った報道があると「やっぱり空気感染!!!」となっていないでしょうか。
 残念ながら亡くなってしまった志村けんさんを引き合いに、「3密」が危険。人に近づくな、人と近距離でしゃべるな、換気をしろと言われていますが、「3密」の状況での感染拡大も接触感染で十分説明ができます。
 「濃厚接触者」という言葉も誤解を与えていて、一緒にいた人の中に感染源となった人がいるような錯覚を与えています。しかし、感染源は実は「前の日にその人たちと同じ空間を利用した人」かもしれません。だからこそ「感染経路がわからない」ということになります。では、何に着目し、事態の終息を目指せばいいのでしょうか。

●「環境の中の総ウィルス量」という考え方
 新型コロナウィルスに感染しないために個人が感染予防に気を付けることが基本です。東京都も「接待を伴う飲食店などで感染した可能性があるので、当面行かないよう呼びかけ」と報道しています。しかし、終息を見据えた対応を考えるためには、「個人」ではなく「集団」としてどのような状態を目指すべきかという視点が重要です。
 人が暮らしている環境、空間に目を向け、そこに存在するウィルスの量をイメージしてください。無数のウィルスがあちらこちらに付着している場合と、ここに少し、あちらに少し、と少量のウィルスが、限られた環境にしかない場合では感染リスクが大きく異なります。すなわち、人が暮らす環境に、空間に存在するウィルスの総量が少なければ少ないほど接触感染のリスクは下がります。渋谷のスクランブル交差点を渡っていると必ずと言っていいほど他人に触れますが、田舎の田んぼ道だと、人と会うことの方が少ないです。感染拡大を終息に向かわせるために、どうやって環境の中に存在するウィルスの絶対量を減らせばいいのでしょうか。
 
○感染した人が出すウィルス量
 新型コロナウィルスに感染した人がたどる5つのパターンと、その際に排出されるウィルス量( )です。症状が少なければ排出するウィルス量は少なく、重症化すればするほど排出するウィルス量は多くなります。
 
 1 感染 → 発症 (中)→ 重症化(多)→ 死亡
 2 感染 → 発症 (中)→ 重症化(多)→ 治癒 → 免疫獲得
 3 感染 → 発症 (中)→ 治癒 → 免疫獲得
 4 感染 → 無症状(少)→ 免疫獲得
 5 感染 → 無症状(無)→ 免疫獲得
 
 シンプルに考えれば、免疫獲得を獲得している人はウィルスに暴露されても感染しませんので発症も、重症化もしません。免疫がなければもらうウィルス量が少ないほど軽症で済み、多いほど重症化するリスクが高まると考えられます(もちろんご本人の免疫力や基礎体力、持病、喫煙歴等々も影響しますが)。ちなみに、私は幼児期の予防接種の際、注射器の使いまわしが行われていた世代のため、B型肝炎ウィルスに感染しました。ただ、幸いなことに暴露されたウィルス量が少なかったからか、抗体はできたのですが、いわゆるB型肝炎ウィルスの持続感染者にならずに済んでいます。
 すなわち、感染する際に体内の取り入れるウィルス量を減らすことで感染した人が軽症で済み、その人が環境中に排出するウィルス量を減らすことになります。だから、手洗い等で体内に取り込むウィルス量を減らすことがその人からの感染拡大を減らすことにもつながります。

●集団免疫とは
 新型コロナウィルスには今のところワクチンはありません。しかし、これまでにウィルスに感染し、治癒された方はその時点でワクチンを打ったと同じ免疫を獲得した状態になっています。
 例えば誰も免疫を持っていない10人が、ウィルスがあちらこちらに付着している環境(例えば、飲食やカラオケをした店のドアノブ、机、椅子、トイレのドアノブ、等々)を利用したとします。10人全員が手洗いに無頓着だと多くの人が感染して発症することでしょう。しかし、手洗いをとりあえずする人は発症を免れ無症状感染に、手洗いを丁寧にする人は免疫獲得だけにとどまる可能性があります。すなわち、手洗いを丁寧にする人を増やしておけば、感染暴露が続いたとしても、結果として重症者は減り、免疫を獲得する人が増え、集団自体が免疫を獲得していくことになります。

○隔離政策の意味と弊害
 いま、諸外国ではロックダウン、日本では首都圏封鎖と言ったことが言われています。人と人の交流を遮断する意味は唯一「感染する人を減らす」ことです。もちろん爆発的な患者増が起これば医療機関はパンクし、人工呼吸器やECMO(人工心肺)が不足し、助かるべき人も助けられない可能性が高まるので、ロックダウン自体は医療の確保といった目的が明確であれば大事な選択肢です。しかし、ロックダウンの弊害もあります。集団免疫の観点から考えると、集団免疫を獲得するまでの時間を先延ばしにすることになり、結果として感染拡大の終息時期が先送りになります。
 このように、何を優先事項として考え、何を目指すのかを明確にすれば、終息への歩みを着実に進められるのではないでしょうか。しかし、トピックスに飛びつくような対応を繰り返している限り、結果として終息への歩みを遅らせてしまいます。着実にできることは何か。私は丁寧に、食事の直前の手洗いを励行したいと思います。