紳也特急 261号

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全国で年間200回以上の講演、HIV/AIDSや泌尿器科の診療、HPからの相談を精力的に行う岩室紳也医師の思いを込めたメールニュース!

性やエイズ教育にとどまらない社会が直面する課題を専門家の立場から鋭く解説。
Shinya Express (毎月1日発行)
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~今月のテーマ『一人対話のすすめ』~

●『生徒の感想』
○『独り言と一人対話の違い』
●『なぜ、???が浮かぶのか』
○『Why do you think so?』
●『風俗で広がる新型コロナウイルス』
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●『生徒の感想』
私は下ネタを言うのがダメなことだとずっと思っていました。なので皆の前では下ネタを言わない純粋な人でいようと思っていました。でも、男子も、女子も、それを知ってるのが普通で、言わない人の方がおかしいのかもと今日の講演を聞いて感じました。私はそっち系のことを知るのが怖いと思ってたり、知ったら嫌われちゃうから友達が話してきても聞くだけに今まではしてました。でも、たまには、そういう話をして悩みをなくすこともいいなと思いました。(中3女子)

私は、付き合っても、結婚はしたくない。そういう系の行為をするなら一生独身でいいと決めていました。でも、それははずかしいことではなく、あたり前のことなんだとなって少し安心しました。(中3女子)

先生が女子は生理のとき、出かけることや歩くことさえも嫌になると男子に教えてくれました。私も生理のとき、けっこうイライラしてしまって友達や家族にあたってしまうことがよくあります。でも、その理由を言うことは私にはできません。今日、先生が男子に伝えてくれて、そういう女子の事情をしってもらえてよかったなと思いました。ありがとうございました。(中3女子)

先生のお話の中で一番心に残ったのは「何か悩みがあったら、恥ずかしがらず誰かに相談することが大事」ということです。相談などをすることのできる相手は二人ぐらいいますが、そこでも「恥ずかしいな…」と思う部分もあります。でも、それを一人で悩んで悪くしたり、平気だと思って勘違いしてしまったりすると、恥ずかしい」よりもっと大変なことになってしまうこともわかりました。(中3女子)

おしゃべりによって、自分の気持ちをよくすることにもとても共感できました。学校生活の中でも、友人と実際に顔を見ながら話すことで、感情を共有できるのだと思います。友人に不満や悩みをいったら解決できることもあるし、気分が上がることもたくさんあります。今後も今日の“経験”を活かしていきたいと思います。(中3女子)

今回、感想を読ませてもらいながら、必ずしも話したことを正確に受け取ってもらえてない場合もありますが、紹介させてもらった感想が全部女子というところが興味深かったです。私の話を聞きながら、自分自身と、自分自身の思いと対話しているのかなと思いました。そこで今月のテーマを「一人対話のすすめ」としました。

『一人対話のすすめ』

○『独り言と一人対話の違い』
広辞苑で「対話」を検索すると、「向かい合って話すこと。相対して話すこと。二人の人がことばを交わすこと。会話。対談」とあります。「独り言」は「相手なしに、ひとりでものを言うこと。また、そのことば」とのこと。対話が成立するには誰か他の人が必要ということですが、皆さんもありますよね、自分の中で気がつけば一人で対話をしていることが。
人の流れを抑えることで感染拡大を抑え込むという発想で東京、京都、大阪、兵庫に緊急事態宣言が発出されました。確かに人と人が会わなければ感染は起こりません。一番確実な感染予防方法は、ずっと一人で閉じこもり、一切差し入れも受けない生活です。

一人で閉じこもり、一切差し入れも受けない。そんなの無理。
でも、確かにそう言われてみればそうだよね。
じゃ、感染しない方法を勉強して身に着ければいいんじゃない。
でもこれまでいろんなことをやってきたけど。
じゃ、感染している人はなんで感染したの。
密だった?
でも密でも背中合わせだったら感染しないでしょ。
だいたい「3密」には感染経路は含まれていないよね。
感染経路って何だっけ?

実は岩室紳也の頭の中でこのような一人対話が日々繰り返されているのですが、これは自分の思い、正解を聞き手に押し付けるのではなく、自分が何らかの提案をしたら、それに対してどのような反応があるのかをイメージするためです。

●『なぜ、???が浮かぶのか』
緊急事態宣言が発出された4月25日に宮城県から夜行バスで上京してきた若い二人の女性がテレビのインタビューに答えて「緊急事態宣言が出ているのは知りませんでした」と言っていたのが印象的でした。この記述を読まれた時、どのような言葉が皆さんの頭の中に浮かびましたか?

「なぜ、この二人は知らなかったの?」
それとも
「バカじゃない、あんなに報道しているのに」
ですか。

私はこの報道を視聴しながら、

この女の子たちは新聞も読まないし、ネットニュースも見ないよね。
でも、そのことを多くの大人たちは知らない。
だいたい若者対策と言えばSNSにアップすれば自動的に見てくれると勘違いしている大人が多い。
自分でSNSをやればわかりそうなものだけどやったことがない人がそう考えても仕方がない。
緊急事態宣言の認知率を調べればいいけどその発想もない。
こんなにいいことをやっているので知っていて当たり前と思っている。
だってNHKが放送しているんだから当然知っているよね。
で、NHKのニュースに視聴率ってどれぐらいだったっけ?
大人でさえも10人に1人見るくらいでしょ。

3度目の緊急事態宣言が発出されましたが、「これまでより強力な」と言いつつ、アルコールを悪者にしていますが、ニュース番組でも、ワイドショーでも「緊急事態宣言でアルコールを禁止することの根拠は何ですか?」という突っ込みがほとんどないばかりか、コンビニの前で路上飲みをしている映像が流れる。突っ込んだとしても「飲食店で酔っ払ってマスクを外してうつす事例が多い」と誰かが発言すると、「感染者の半数が感染経路不明となっているのに、今の発言は本当ですか」と突っ込むことはしません。岩室紳也の頭の中では次のような対話が延々と続きます。

確かに酔っぱらうと感染予防という意識が弱くなるのはわかる。
でも、そもそも感染経路についてわかっているのかな。
飛沫感染なら人と人の間にアクリル板があれば大丈夫。
行きつけの飲み屋さんは隣の客との間にアクリル板があるから安心。
じゃ、飛沫が料理に落下した料理を食べるところを注意すればいい。
いやいや、接触(媒介物)感染のことを知らない人が多い。
そもそもこの言葉自体が難しい。
じゃ、どう伝えれば伝わるのか。

他の人が言っていることを否定するのではなく、自分の中で一度噛みしめ、疑問に思ったことを質問するためには、ある程度訓練が必要なのかなと改めて思っています。と同時に、なぜ、自分の頭の中で???が、一人対話が浮かぶのかを考えていました。

○『Why do you think so?』
小学校の6年間を過ごしたケニアのHospital Hill Schoolの先生たちのおかげだと思います。いつも“Shinya. why do you think so?”と突っ込まれていました。で、“Because・・・・”と返事をしていたように記憶しています。ケニアでは「正解を覚える」のではなく、「何故」や「根拠」を考えるように繰り返し教え込まれていました。
前号で「「わかりあう」ではなく「わかちあう」」を書かせていただきました。いま、「世の中は多様性を認めよう」をスローガンに偏見や差別の解消を訴え続けていますが、そのような活動を、啓発を、教育をしなければならないのは人間にはそもそも多様性、というか、他者との違いを認められない何かがあるからです。では、岩室紳也はどうかというと、小学校に入った時は学校で唯一の東アジア人で超マイノリティーでした。一方でなぜか黒人の女の子に対して恋愛感情を持ちませんでした。でも担任の白人の女の先生は黒人男性と結婚してハーフの子どもを出産しました。どの事実も、そこに事実として存在す
るだけで、理解することでも、わかりあうことでもありませんでした。ただ、わかちあうことでした。
Whyへの答えがないことも多々あります。だからこそ、答えがないことを受け入れるためにも、答えがないことについて対話を、自分の中で、そしていろんな人と続けることが求められているのでしょうか。

Why do you think so?
わかりませんが、どうもそう考えた方が今の自分の中でスッキリします。
変なの。
でもこれが今の自分が考えられる限界です。
それならそれでいいんじゃない。
そうですね。

●『風俗で広がる新型コロナウイルス』
ある児童相談所の職員の方から、新型コロナウイルスが風俗産業に従事している人の間で広がっているように感じるのですが岩室先生はどう思いますか、と聞かれました。

新型コロナウイルスはACE2受容体から取り込まれる。
このACE2受容体はいろんな臓器に分布している。
膀胱、前立腺に分布しているということは尿道粘膜や亀頭部、外陰部にも。
唾液のみならず、いろんな体液にもウイルスは存在する。
風俗産業では「キス」という行為を行わない場合が少なくない。
でも、フェラやクンニで体液、唾液の交換が起こって感染しても不思議で
はない。
もちろん狭い空間、換気も悪いということで飛沫やエアロゾル感染もあるし。
専門家には「エビデンスは?」と一蹴されること間違いなし。
大体、保健所が「風俗の利用は?」と聞いても言うはずなし。
そもそも「キスで感染」ということが言えない日本で「風俗で感染」はとて
も言えない。

ということは・・・・・・と続く一人対話。