紳也特急 42号

〜今月のテーマ『性教育バッシングを考える』〜

●『「仮性人」って知っていますか?』
○『性教育バッシングを考える』
●『過激な言葉が好きな人たち』
○『自分の感覚で言葉を取り違えてしまう人たち』
●『大人には感性(完成)段階に応じた情報伝達を』
○『相手に応じた言葉を使う』
●『事実・真実・錯覚』
○『(追伸)公務員を辞めるわけ』

◆CAIより今月のコラム
「ベッドの中での神経学  《ハネムーン麻痺》」

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●『「仮性人」って知っていますか?』
 次のようなやりとりがありました。
相談者:自分は仮性包茎をコンプレックスに思っています。銭湯などでも隠しはしませんが、ちょっと情けない思いです。どのくらい包茎かと申しますと、すっぽりです。勃起した際も簡単にむくことができますが、自然にはむけません。銭湯などでむけた状態のすることのできる『仮性人』がいますが、自分はむいても30秒も持たずそれもできません。先生は仮性包茎ということですが、このようなコンプレックスを持ってはいないのでしょうか。また、手術等を考えたことはありませんか。

岩室:私は仮性包茎についてコンプレックスをもったことはないですし、手術のことを考えたこともありません。どうして悩まなかったかもわかりませんが、悩んでいる人の気持ちもわかっていないんでしょうね。それにしても『仮性人』。誰が考えたか知りませんが何となく夢があっていい響きでだと思いませんか。
 ところで最近性教育に対するバッシングが激しさを増しています。私は一連の性教育バッシングは「性の健康」を害する最大の脅威だと思っています。日本人は「全か無か」を選びがちで、最悪の場合は性教育、エイズ教育が行われなくなる可能性が危惧されます。しかし、バッシングしている方を批判する前に、批判、バッシングされている方も少し反省しないといけないのかなと自分自身も反省しているところです。
 ということで今回は「性教育バッシングを考える」としました。

○『性教育バッシングを考える』

「結婚までセックスをしない」のも一つの選択肢
 先日、ある中学校で性やエイズについて中学1年生と2年生に話をしました。ちょうどインフルエンザが流行していたことと、当日かなり冷え込んでいたので、本来のターゲットである中学3年生は自宅学習に切り替えられていました。インフルエンザ対策はワクチンでの予防と早期受診による早期診断、早期治療というのが今や常識ですが、HIVに一番効くといわれている「教育ワクチン」はあまり重要ではないのかなと思ってしまいました。
 それはさておき、最近の性教育バッシングについていろんな反論はあるものの、私は何故か「一理ある」と感じていました。そこで私も自分なりに今までの講演会を振り返り、反省を元に工夫をして講演会を行ってみました。いつものようにセックスやコンドームということはもちろん説明しました。HIV感染予防、望まない妊娠を避けるには「ノーセックスかコンドーム」ということも言いました。しかし、もう一言、「結婚までお互いがセックスをしなければHIV感染も心配ないし、望まない妊娠もしないんだよ」と付け加えました。聞いている生徒はいつもと変わらない反応でしたが、講演会後の教頭先生のコメントは興味深かいものでした。「先生の話は以前にも聞かせていただきましたが、前はセックスとかコンドームということを強調されていましたが、今回は『結婚までセックスをしなければ病気にならない』という話がありよかったです」とおっしゃってくれました。確かに講演会の最中の教頭先生の表情は非常に固く、気に入らないんだろうな、でも養護の先生が呼んでしまったから仕方がないし、今日は校長がいないからあとで接待するのは自分だ。いやだな、と
いう感じがありありでした。しかし、終了後の雰囲気は全く違っていました。

●『過激な言葉が好きな人たち』
 氾濫する性情報とよく言いますが、性教育バッシングをしている人こそ過激な言葉、性描写が好きなのではないでしょうか。
 平成14年12月16日の産経新聞教育面に「米で禁欲教育広がるー3分の1の高校が実施 10代に純潔回帰の風潮」
http://www.sankei.co.jp/databox/kyoiku/etc/021216-1etc.html
「日本はコンドーム奨励ー“性交の自由”主張の教師集団もー」
http://www.sankei.co.jp/databox/kyoiku/etc/021216-2etc.html
と出ました。
 「禁欲」、「純潔」、「コンドーム奨励」、「性交の自由」と並べただけで何だかぞわぞわしませんか。こんな言葉が並ぶだけで私は赤面してしまいます。
 週刊新潮2003年1月23日号p146-147の記事では「女性器にまで触らせるー小学校の「過激すぎる性教育」ー」、「そこがクリトリス」という見出しの横に遠山文部大臣の写真。
 「女性器・・・触らせる」、「そこがクリトリス」これもまたぞわぞわしませんか。だいたい、週刊誌の紙面に「クリトリス」という言葉を載せるなんて、よっぽど載せたい人なんでしょうね。私だったら載せたくないです。

○『自分の感覚で言葉を取り違えてしまう人たち』
 「保健室」(農文協)という雑誌の2003年2月号に薬物問題に一生懸命取り組んでいる友人の水谷修氏の講演会の原稿が載りました。その中で次のように記載されています。
 『もう一つ性教育で困ったもんだなと思うことは、イワオシンヤ(岩尾真也)って有名だから皆さんもご存知だと思いますが、彼の性教育で、これにも僕は問題を感じる。彼の性教育というのは、チャンピオン君という木でつくった男性性器の模型を出して、コンドームのつけ方を必死で教えるわけです。でも、純潔教育とそういった対処法としてのコンドームの使い方という二通りの性教育の前に大事な教育が抜けていると思いませんか。』
 水谷修氏はAIDS文化フォーラム in 横浜にも毎年出てくれており、この記事の内容は彼の講演を編集者が本人のチェックを受けずに記事にしたようです。私の名前が間違えられているというのは私が知られていない証拠を突きつけられたようなもんです(笑)が、チャンピオン君の名誉毀損で訴えたい気分ですね。記事の内容を講演者の校正を受けないで掲載する方も問題ですが、そんなことより、同じ内容の講演会を聞いても受け止め方は人それぞれなのだということをこの記事は教えてくれています。

●『大人には感性(完成)段階に応じた情報伝達を』
 性教育を進める際のキーワードとして子ども達に「発達段階に応じた性教育」をするのではなく、子ども達には「発達段階に応じた理解」をする能力があることを信じましょうということを繰り返し言ってきました。正確かつ科学的な情報であれば、子ども達は必ずその子なりの発達段階に応じた理解をするだろうと。しかし、自分を含めて大人に関して言えばほとんどの人は柔軟な思考をするほど脳細胞が余っておらず(笑)、自分の感性、価値観を変えることがいかに難しいかは歳をとるとわかります。大人には発達段階はなく、既に感性は完成しているのでそれに合わせた情報伝達を心がけないといけないようです。

○『相手に応じた言葉を使う』
 人間は人の話を聞いているようで、一つのセンテンスの中でせいぜいキーワードを一つか二つしか心に留められないようです。子ども達に約1時間の話をする際に一つでも私が話した事例のことが印象に残ったり、「コンドーム」、「チャンピオン君」、「エイズ」、「セックス」という言葉が一つでも二つでも記憶の片隅に残ってくれればいいと思っています。これは大人にも当てはまることですが、大人の記憶に残る言葉は子どもより少なくなります。人によっては「セックス」、「コンドーム」、といった言葉の洪水の中に入ると頭の中が混乱してしまうことでしょう。そのような時に「結婚までお互いがセックスをしなければ・・・・」という言葉を、その人が納得できる選択肢を提示することで話の内容を適切に理解していただけるように思います。

●『事実・真実・錯覚』
 一方で「結婚までお互いがセックスをしなければ・・・・」と言うことを言い始めてから、実はこの言葉が性感染症予防、望まない妊娠の解消のキーワードになるような錯覚に陥っています。確かに「結婚までお互いがセックスをしなければ・・・・」というのは事実なのですが真実ではないようです。岩室自身、この言葉が示している事実の蚊帳の外でした。だからこそ今まで自分に関係のなかった事実を語ることの後ろめたさを感じ、若者にとって真実とは何かを考えていた私はこの言葉が言えませんでした。しかし、多様な生き方を、多様な考え方を認めようと言い続けている私が自分の生き方しか語っていないと反省しました。性教育に対して消極的になっている人の気持ちも汲んで、「結婚までお互いがセックスをしなければ・・・・」というのをこれからは選択肢の一つとして言わないといけないのかなと思っています。みなさん、どう思われますか。

○『(追伸)公務員を辞めるわけ』
 私も4月から民間人。最近、どうして公務員辞めるの、何か不満が、これからどうするの、などなどいろんなことを聞かれます。公務員の22年間は大いに楽しませてもらいました。辞めなければならないような不満はありません。本当にいい上司、仲間にめぐり合えて幸せでした。転職にはそれほど強い決意のようなものはないのですが、敢えて言うならば、もう少し地域保健の現場で社会貢献をしたいと思ったということでしょうか。エイズ診療も続けたい。包茎クリニックも続けたい。しかし、県立厚木病院は厚木市立病院になる。講演会ももっとやらないと。じゃ、民間ならどっちもやれる? そんなことさえも考えていなかった時に「地域医療振興協会」という自治医大の卒業生が中心になっている社団法人が公益事業として何ができるかという相談を受け、じゃ私がやりましょう、ヘルスプロモーション研究所を立ち上げましょうということになりました。本当に飲んだ勢いという感じでした。公衆衛生分野では超有名人の大分県日田玖珠保健所の藤内修二先生も一緒です。これからは研修会や講演もどんどんやります。仕事をください。よろしくお願いします。

◆CAIより今月のコラム

「ベッドの中での神経学  《ハネムーン麻痺》」

 世の中大変多くのカップルがいます。いろいろな形態で色んな愛情を育んでおります。そんな中でちょっと気をつけて頂きたいことがあります。

 特に「彼女の頭が腕にないとしっくり来ない!」とかいう日本男児や「私彼の腕枕じゃなきゃ眠れないの〜vv」とかいうラブリーちゃん。気をつけてください。

 腕枕の位置を。

 腕枕というと皆様上腕のほうに頭を乗せます。胸に近い力こぶができるところですね。漫画でもドラマでもだいたい腕枕というとそこに頭を乗せます。しかしそこの腕の外側にはとう骨神経という神経が走っています。ドラマみたいな位置で頭を乗せるととう骨神経を圧迫してしまいやすいのです。

 そうするとすぐに腕がしびれてきます。とくに親指に向かっての痛みや痺れがおきてきます。そしてそれが分からなくなるころに頭をどけるとまあ不思議。

 その腕の手首がダランと垂れ下がってしまうのです。

 これを下垂手といいましてとう骨神経麻痺の症状です。別名ハネムーン麻痺といったり土曜の夜麻痺とかいったりします。(最近は週休二日制だから金曜の夜麻痺だーなんてもいったり)
 理由としては上記のとおり腕枕をしたまま眠った、お酒を飲んだ後などうっかり自分の腕を枕にしてしまって眠ってしまった、外傷でなどが主。

 圧迫時間が短くまだ神経細胞が死んでなければ時間がたてば元に戻ります。しかし圧迫時間が長く神経細胞が死んでしまうと一生元には直りません。

 こうならないためにも
(1)腕枕ではなく胸か手首に近いほうに頭をおいてもらう。
(2)しびれてきたらすぐ言ってどけてもらう。
(3)腕の下に何もおかない。特にまくらなど。
 以上を注意してください。
 もしもなってしまったらある程度時間を置いて(2時間から3時間)も全然動かない、改善が見えない場合はお医者さんに行って下さい。行き先は外科です。

 お互いのすこしの注意で妊娠もSTDもハネムーン麻痺も防げるのは同じ。ちょっとの知識でお互いもっと楽しくもっともっと仲良くなりましょう!!!

                           T.K