紳也特急 45号

〜今月のテーマ『エイズ報道の難しさ』〜

●『NHKスペシャルへの反響に感謝』
○『エイズ報道の難しさ』
●『佐藤美奈子さんとの出会い』
○『言葉へのこだわり』
●『医療費の問題』
○『取材映像が使われない?』
●『若者の声を大切にしたい』
○『武内陶子さんの突っ込みもカット』
●『岩室が言いたかったこと』

◆CAIより今月のコラム
「void」

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●『NHKスペシャルへの反響に感謝』
 「もっと色んな人が、色んな意見を繰り返し言ってほしい」。この言葉はどんな問題に対しても大切な意識ですね。心にすっと入ってきました。すごく大切だけど、時に拒否したり、忘れがちなこと。
 助役が反対して成人式のエイズキャンペーンができない、そんな「大人」の危機感の無さを浮き彫りにしてくれて嬉しい。
 性の解放が進みすぎて基礎教育が崩れている日本の場合は先進国では特異のケースではないのでしょうか?出演している若者以外のレベルが低い若者にどうやって教えてあげられるのかなあ・・・!?と思いました。貴方達の努力が実ること、このような番組がもっと馬鹿げた番組に取って変ること祈る次第です。 有難う!! 頑張って!!
 エイズが僕たちの日常に根源的な問いかけをしている、ということが強く実感されました。
 出演していた若者達の不安と食い入るようなまなざしが印象的でした。
 番組に参加していた10代20代の若者も真剣な姿勢が感じられてよかったです。
 会場の若者がもっと真実を知りたいと言っていましたね、大人が隠しているのはおかしいと。でも、自分で知ろうとすれば、かなりの情報が得られる時代ちょっと言い訳がましいというか、自分の体や、自分の健康管理にもっと積極的になってほしいと、思いました。でも、もっと小さい時から、そんな当たり前のことが自然にできるような、環境を整えてあげることが私たち大人がすべきことなのでしょうね。
 性教育の不足をもっと言って欲しかったし、PTAの馬鹿なお父さんに腹もたちました。
 HIVに実際感染されている方の真摯な語り口にも感動しました。彼女の話された「選ぶのは自分。どんな方法を選ぶか学ぼうとすればいくらでも情報は手に入る。教えてくれなかったからと他人のせいにしないで自分で考えてほしい。」という言葉は強く印象に残りました。
 番組そのものが丁寧につくられている印象をうけました。

 多くの方から番組への感想をいただきました。その一部を紹介させていただくことで皆様の評価の一端が見えればと思いました。確かに久しぶりにエイズ予防をメインテーマにした大きな番組でしたが視聴者、特にHIVに関係している人がみんな満足したとは思えません。そこで今月のテーマは「エイズ報道の難しさ」とし、岩室がみた番組づくりの舞台裏を考えてみました。

○『エイズ報道の難しさ』
 4月26日にNHKスペシャル「エイズ 感染爆発をどう防ぐのか」が放映されました。本当に久しぶりの長時間のエイズ関連番組でした。私もその一部に噛んだ関係上その顛末の一部と、「エイズ報道」の難しさを考えたいと思います。
 この番組をつくった記者やディレクターの方々は本当に根気強く、丁寧に取材を重ねていました。確か昨年の夏頃に始めて連絡が入り、雑談しながら2時間近くエイズの問題を話しました。「NHKスペシャルの枠で番組を作りたいと考えている」と言われたように記憶していますが、その時は取材を受けている私の方が「こんなに関心が低い時代に本当に作れるの」というのが率直な感想でした。
 しかし、テーマを若者の感染拡大防止におき、HIVに感染している女性として初めて佐藤美奈子さんの出演を得てゴールデンタイムに1時間15分枠の番組を持ってきたことは取材者の執念、エイズに対する強い思いを感じました。

●『佐藤美奈子さんとの出会い』
 実は今回の番組でカミングアウトされた佐藤美奈子さんはML上では何度もお 話やメールを拝見していましたが、実際にご本人に会ったのは昨年の11月10日、山口大学医学部のイベントでご一緒したのがきっかけでした。その後メールでのやり取りや講演を依頼したりする中で今回の番組に顔を出す佐藤さんの並々ならぬ決意に圧倒されました。
 私の場合はマスコミの取材を受けた時に、結果的に思った内容にならなくてもそれは自分の表現力が足らなかったということであきらめられますが、佐藤さんのように自らの感染を番組の中でカミングアウトすることは想像を絶するリスクと覚悟があってはじめてできることです。そこをNHK側も理解し、映像、内容をどのようにまとめるのかで佐藤さんと何度も打ち合わせをしたようです。全体構成を固めるときも私も入れていただき佐藤さんと番組担当者の間で丁寧に問題点を洗い出しました。ぎりぎりまでビデオチェックを行い、細かな点までチェックが繰り返されました。(それでも不満はいろいろとありますが…)

○『言葉へのこだわり』
 タイトルは当初「エイズ感染爆発をどう防ぐのか」というようになっていました。「エイズ感染」というのはあり得ない、エイズウイルス感染、もしくはHIV感染をどう防ぐかという当然のような指摘をしたら、よく見ていただくと「エイズ」と「感染爆発」の間にはスペースがきちんとあるんですね。実際に番組のHPなどで見るタイトルではきちんとスペースが開いていました。
 感染経路が正確に理解されていないから「普通のセックス」、「夫婦間のセックスで感染する」ということが繰り返されるということを伝えたいと思う一方で、電話相談や検査の場面で「思い当たる行為は」、「危険な行為からどれくらいたっていますか」という質問がありました。これはある程度問題意識があって実際に相談や検査にアクセスしている方に対して投げかけている質問で問題はないのですが、まったくの素人の視聴者が聞くと「危険な行為って何だろう」と思ってしまわないかという議論もありました。事実は事実としても、今回の目的である感染拡大防止に向けた情報提供という視点をぼかすことなく、言葉選び、言葉チェックの作業が繰り返されました。

●『医療費の問題』
 医療費の負担が大変、月額20万円もかかるという当事者の方の声が紹介されました。実際には一回は立て替えるのですが高額療養費制度を使えば6〜7万円の自己負担額以上のものは返ってきます。また、母子感染でエイズを発症したというお子さんのところでは、住んでいる地域によっては乳幼児の医療費が免除されるところも多いのですが、これらのことはHIV/AIDSだけの問題ではないということで敢えて詳細なコメントなしで紹介しています。しかし、実際にあるMLではさっそくこの点にチェックが入っていました。

○『取材映像が使われない?』
 今回の取材では様々な映像、特に佐藤美奈子さんについては各地で活動されている場面が多数収録されました。厚木保健所での講演、CAIのイベントでのトーク、佐藤さん自身の歌のライブ、とどれも佐藤さんが積極的に活動されているところが収録されたのですが全体のバランス、そしてスタジオで生出演の迫力の前では取材映像は迫力がないため(と岩室は勝手に思っていますが)か紹介されませんでした。
 CAIは若者向け啓発イベントを行っているのをPRする一大チャンスだったのですが、やはり取材テープはお蔵入りとなったようです。NHKが今後も番組をつくり続けるということですのでそこでの復活を期待しています。

●『若者の声を大切にしたい』
 ・好きでもない人とエッチした
 ・処女だと恥ずかしい
 ・自分はしたことがない
 ・普通って何ですか
 若者を交えたやりとりの部分は実際にはあまり放送されませんでした。しかし、4時間の収録の最中に意見が出るわ、出るわ、で武内陶子アナウンサーは目を白黒させていました。実際、収録を終わった時点では番組の中で紹介されたぼかしと音声を変調した若者の取材ビデオなんて必要ないというくらいに多様な、率直な、露骨な?意見が出ていました。しかし、発言者一人一人のプライバシーや人権(?)を考えると放送できないものも多かったのか、残念ながら模範解答だけが放送されたように思います。

○『武内陶子さんの突っ込みもカット』
 私が登場した場面で武内さんは私のコンドーム柄のネクタイについて突っ込んでくれ、少しだけやりとりがありました。しかし、遠くからの映像だと柄が見えない(私が猫好きだと知っている方は立っている猫の柄と思ったようです)ためかそこはカットされました。本当はアップでネクタイだけではなくコンドームタイピンまでチェックして欲しかったのですがだめでした。

●『岩室が言いたかったこと』
 今回の番組で、というかいつも私が言いたいことは「エイズはセックスをする人なら誰でもかかる感染症であり、ノーセックスかコンドーム以外に予防方法はない。そのことを若い世代に伝えるのは大人の責任」ということです。
 若者たちは今氾濫する情報に翻弄されていますが、実は一番翻弄されているのは大人たちではないでしょうか。純潔教育かより実践的な教育か、コンドームを教えるべきか否か、という議論をすること自体変ですよね。ラブ&ボディBOOKをお蔵入りさせたり、コンドームを入手しにくい環境を作る前に、若者にセックスをして欲しくないと思ったらその通り言えばいいんです。「私はあなたたち中学生、高校生がセックスをするのはどうしても許せないと」。しかし、最終的に選ぶのは「本人」ですので、セックスをしてしまう人にはした時の対処法を教えておいていただきたいと思います。そのことを理解しないまま自分の価値観、道徳観、倫理観、人生経験を押し付けようとするにも関わらず、本当に自分の意見を言う最大のチャンスの選挙には行かない大人たち。せめてエイズ教育や性教育の分野では「自分はこう思う」ということをきちんと言って欲しいと思うのは私だけでしょうか。
 「もっと色んな人が、色んな意見を繰り返し言ってほしい」。
 この言葉がカットされなかっただけで今回の番組にでてよかったと思っています。番組に出て訴えられる内容ってこんなもんです。ご勘弁ください。

◆CAIより今月のコラム

「void」
なんでかわからないんだけど、家と家の間の、ちょっと草が生えてたり、ゴミが落ちていたり、放置されてしまってヤブになってしまったりしているところに陽が当たっていたりする光景が好きで、良く写真を撮っていました。

あとは、ちょっとボロっとした看板とか、錆びついて色の変わった柱とか。

そんな偶然のようでいて、
狙って作った何よりもキレイだったりしてしまうものが好きで。
それは所詮、撮っても、捉えられないものなんだけど。

この宇宙には、全てのデザインや動きが、音や匂いが、すでに存在していて、どんなものを作っても、オリジナルだと思っても、実はそのすべてが
その人の潜在意識に眠る記憶の断片の覚醒と投影でしかない。

そんな中で、唯一人間だけが作れる偶然の積み重ね、
それを、アート、なんて呼んだりするのかなと思っています。

                            Y.T