紳也特急 48号

〜今月のテーマ『いま、12歳が求めていること』〜

●『講演後のメール』
○『今日から第10回AIDS文化フォーラム in 横浜』
●『いま、12歳が求めていること』
○『小学生としての記憶』
●『日本の小学校はへん?』
○『体の変化に一人で戸惑う』
●『人の体を見て安心』
○『12歳に必要なこと』
●『お医者さんごっこ』
○『痛みを知る大切さ』
●『命の大切さを言葉だけで言うな』

◆CAIより今月のコラム
「10代女性を取り巻く性情報」

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●『講演後のメール』(HPから送られてきました)
 この前は○○高校に来てくださって、本当にありがとうございました。私は○○高校の2年です。この前の講演会での先生の話、とってもよかったです。すごくためになりました。
 私の彼氏はエッチのときに、自分でコンドームを持ってきてくれないんです。一度頼んだけど、忘れちゃったって笑って済ますし…。それがずっとイヤでした。自分の事本当は大切にしてくれてないんじゃないかなぁとか、妊娠の事を軽く考えてるのかなぁなんて、彼氏には言わなかったけど正直本当に辛かったんです。
 けど「彼女を大切にしている男なら、コンドームをハードケースに入れて持ち歩く」という先生の話を聞いて、勇気を出して悩みを彼氏に打ち明けました。そしたら彼氏も謝ってくれて、これからはちゃんと持ち歩くからって言ってくれてます。もし先生の話を聞いていなかったら、自分の気持ちをいえないままコンドームをつけないでエッチしていたかも…。そう考えると凄く怖くなります。望まない妊娠なんてかなしすぎるから。
 きっと私だけじゃない、他の女の子や男の子も先生の話で何かが変わったと思います。講演会が終わった後、「あの先生、よかったよね」って友達も言ってました☆ これからも色んな場所で、お話してください。応援してます!!

○『今日から第10回AIDS文化フォーラム in 横浜』
 夏休み前はいろんな学校で講演を頼まれ、東奔西走する日々でしたが、このような励ましのメールをもらえると正直ほっとします。本当は私の話で若者の性行動がどうかわるかの統計を取りたいところですが、学校では生徒のプライバシーを教師が知ってしまう可能性があることやPTAの反発を警戒して性行動調査はなかなかできません。といってもそのような状況をきちんと知って対策を立てたいという意見も少なくないため、機会を見てやってみようと思っています。ご協力いただける読者の方はよろしくお願いします。
 そして今日、8月1日は第10回AIDS文化フォーラム in 横浜
http://www.yokohamaymca.org/AIDS/
の初日です。10時からのセッションは脚本家の早坂暁氏が「エイズ」をテーマとしたドラマ作りを会場の参加者とともに考えると言う場です。他にも興味深いセッションが数多く組まれています。岩室はやはりコンドームにこだわったセッションで「これからのコンドーム普及のあり方」を皆さんと一緒に考えたいと思っています。ぜひ会場に足を運んでください。

 ところで最近は長崎や渋谷の事件をきっかけに「12歳問題」というのが世間やマスコミの注目を集めています。しかし、事件に関する情報が十分ではないためきちんとした議論ができませんが、事件自体がどうこうではなく、「いま、12歳が求めていること」を今一度考えてみたいと思います。

●『いま、12歳が求めていること』

○『小学生としての記憶』
 大人たちはよく「自分たちの頃は・・・・・ではなかった。性教育なんて受けなくてもちゃんと育った。知らない人について行くなんて信じられない」といいます。ちゃんと育ったかどうかはともかく、とりあえず大きな悩みを抱えず、トラブルにも巻き込まれずここまで来られたのはどうしてなのかを自己分析してみてください。
 私の場合は小学校の6年間をアフリカのケニアで過ごしました。性教育を受けることもありませんでしたが、友達と「大人はセックスをする」「しない」の議論をしていたことを鮮明に記憶しています。同級生の友達が「家のお手伝いさんがセックスをしている場面を見た」と言い、その真偽について話しながらも、どうしても自分についているペニスを女性のどこかに入れるということが理解できなかった私は「ウソだ」と言い張るグループでした。このような時も決して性に対して興味がないわけではないのですが、興味があるものの、自分の問題という認識が持てないままでした。

●『日本の小学校はへん?』
 小学校6年の3学期に日本に戻り、転校した学校で一番ショッキングな出来事は体育の授業時の着替えでした。ケニアでは着替えは男女別で専用の更衣室があったのに日本では同じ教室で戸惑いました。当時の小学生は今ほど体が成長していないとはいえ、異性が下着になる姿を目の当たりにするのが常識というのにびっくりしました。今思えば、これがイギリス流の習慣、躾と日本流の違いだったのでしょう。しかし、自分が好意を抱いている人が着替えている場面を目の当たりにするということは小学生の私にとってはドキドキものでしたが、それ以上のことは何も考えられませんでした。

○『体の変化に一人で戸惑う』
 中学に入ると発毛が起こり、何となく恥ずかしさ、戸惑いを感じながらも一日一日が流れていきました。その頃ペニスのサイズも少しは大きくなったはずですが、ペニスのサイズを話題にする友達もいなかったのか気にもなりませんでした。当然「包茎」という言葉も知らず、一人で入る風呂の中で何気なくむいているうちに痛い思いをしつつも何か白いもの(恥垢)が出てきて少しずつむけていくのを面白がっていました。そしてある日、完全にむけたにもかかわらずその状態さえも理解できないままさらにむこうとしていました。夢精に至ってはそれが何なのか、どう受け止めたらいいのかわからないまま一人で戸惑っていました。

●『人の体を見て安心』
 中学2年から寮生活をするようになり、中1から高3までの裸を見る機会を得、また、男子寮の夜といえば性の話で盛り上がるのは当然の成り行きでした。そのような環境を得て初めて「自分の体と性」にどう向き合うべきかを友達という見本を通して確認することができました。もちろん友達がマスターベーションをしているのを見たり、その話で盛り上がるうちに「人の体は多様」、「マスターベーションは自然なこと」というのを覚えることができました。

○『12歳に必要なこと』
 私は女ではないため12歳の女の子としての経験を語ることはできません。しかし、発達の個人差はあるにしても、性に対して関心はあっても「自分の体と性」については月経が始まったからといってすぐに自覚し、考えられないというのは男の子と同じではないでしょうか。
 では、今の子どもたちと昔の子どもたちとどこが違うのでしょうか。精神面での成長は今も昔もそれほど変わりません。実際に小学校6年生や中学校1年生と話をしていると精神年齢は昔と変わりませんが、身体的には大人顔負けの子もいます。その子たちを見てしまうとどうしても体が立派な分、精神的にもある程度成長していると思ってしまう人もいますが、これは大きな誤解です。情報が氾濫していることや、金銭を含めた大人たちからの誘惑のため性体験をもった小学生もいますが、その子たちも決して性について特別関心があるわけではありません。
 思春期の入り口にある12歳が求めること、12歳に必要なことは、自分の悩みを解決、あるいは予防してくれる情報であり、それを一緒に話したり体験できる友達、環境です。最近は雑誌やメディア等で性に関する情報が数多く流れているため自分の体に起こる変化が何なのか、他の人はどうなのか、自分は異常なのか正常なのか、といったことを確認したいのですが、それができる場が少なくなりました。銭湯に行くのが当たり前の時代のように他人の裸を見るチャンスも場もありません。友達といろんな話をするにも塾や行事で忙しく、仮に一緒に遊ぶことになったとしてもテレビゲームをしていて会話はほとんどありません。過激なゲームに至っては喧嘩をしたことがない現代っ子に殴られると痛いということを感じるチャンスさえも奪ってしまいそうなものばかりです。

●『お医者さんごっこ』
 いきなりですが、皆さんはお医者さんごっこというのをしたことはありますか。もちろん私はあります。「お医者さんごっこ」は医者の診察のまねをして相手の体を観察する遊びですが、多くの場合、そのターゲットは小さい子どもたちです。裸にして「ここに何があるんだろうね」と興味があるところを見たりしたものです。もし「包茎」ということに興味がある子は小さいこのおちんちんをむこうとするでしょうし、鋏で切って中をのぞきたいと思う子がいても不思議ではないように思います。

○『痛みを知る大切さ』
 「鋏で切るなんて異常です。だって痛いでしょ」と思った方は、自分がどうして鋏で切られると痛いと思えるようになったかを考えてみてください。自分自身がどこかで痛い思いをして経験的に覚えませんでしたか。怪我をすることで痛みを知ることは大事な経験です。しかし、今の親は「痛いのはかわいそう」と痛い経験をしつつも超えなければならないことを教えることを避けているように思います。おちんちんの包皮翻転指導を行っていても「痛くないんでか」「自分にないからわからない」という父母、祖父母が多いのですが、むくことで様々な障害を乗り越えられるようになるのであれば少々の痛みは(といってもそんな無茶なことはしませんが)我慢してもらうことも大事だと思いませんか。

●『命の大切さを言葉だけで言うな』
 人は経験していないことはなかなか実感として理解できません。「命の尊さの教育」と言う偉い人たちは、自分がどのような経験から「命の尊さ」を学習したかをあらためて振り返って欲しいですね。私は家族、友人、そして多くの患者さんが亡くなるのを経験させてもらったおかげで「命の大切さ」を知ることができました。人を傷つけないように自分がなったのはどうしてなのかを考えれば、今の若者に何を伝えるべきかが見えてくると思います。
 私は12歳前後の若者に性の話をするときは自分の経験、戸惑いを交えながら「第2次性徴に伴う体の変化の科学的な情報提供」を心がけています。体の解剖を知ることで自分の体の変化を受容し、自分でペニスをむく痛みを感じる中で痛みを我慢し、変化に向き合える「人」が育つのではないでしょうか。そう期待して日々、性の情報伝達をしています。皆さんはどう思われますか。

◆CAIより今月のコラム

「10代女性を取り巻く性情報」

今年もAIDS文化フォーラムin横浜が開催されます。
CAIでは「10代女性を取り巻く性情報」をテーマに講演会を行います。
今回はCAIの女性メンバーが聞き込みや調査を重ね皆さんに御報告いたします。
多角的な「10代女性を取り巻く性情報」を参加者の皆様と考えていけたら良いと思います。ふるってご参加下さい。宜しくお願いいたします。

日時 8月3日(日)10:00〜12:00 304教室