紳也特急 54号

〜今月のテーマ『大人も下げよう、性のハードル』〜

●『大人が変わった!』
○『「性のハードル」って何?』
●『変えられない「性行動・性の価値観のハードル」』
○『性教育が高める性のハードル?』
●『性情報を素直に受け止められる環境整備』
○『「性情報のハードル」を下げる意識を』

◆CAIより今月のコラム
「おもしろ」ければチャンスはある!

———————————————————————
●『大人が変わった!』
 先日あるところで講演した時、少しうれしい、そして考えさせられる反応をいただきました。講演後、「よかった」、「参考になった」、「悪かった」という講演内容についての反応はあっても、その後、講演会がどのように役に立ったのか、皆さんにどのような影響を与えたのかという事後報告はほとんどもらえません。「評価」ということが盛んに言われるようになり、エイズ教育では講演を聴く前後で性行動がどう変わるのか、性行動が抑制されるのか、コンドームを使う意思が高まるのか、実際にコンドーム使用率が高まるのか、といった調査をされている方もいます。私も今年はそのような調査をできるところからしたいと思っていた矢先でした。私に講演を依頼してくださった方に、「前に先生の話を聴いて私たち大人が変わりました。性について話すことが当たり前、自然なことになり、今まで性の話題を避けてきた大人たちが普通に性のことを話すようになったのが何よりよかったと思います」と言われました。
 私の研究センターの看板にもあるヘルスプロモーションで大事なことは環境整備です。今回いただいた反応のように「性の話が普通のことになる環境整備」というのも大事だと改めて気づかされ、今月のテーマを「大人も下げよう、性のハードル」としました。なお、決して大人たちに若者たちと同じような性行動をとるようにしましょうと呼びかけているのではありません(笑)。

大人も下げよう、性のハードル

○『「性のハードル」って何?』
 大人たちが若者の性を語るときに、性体験、性感染症の低年齢化が必ず話題になります。そしてその理由として若者たちの「性のハードル」が下がり、セックスをすることに対する抵抗感が低くなったためと言います。確かに若者たちのセックスに対する抵抗感は大人たちの思春期の頃と比べても低くなったことは確かです。
 一方で、1年間のHIV感染者数がまた史上最高を更新したにも関わらず相変わらず正確な性情報が伝わらない。それどころか性教育の内容が過激だとか路線論争をしている無関心、他人事意識の大人たちが少なくありません。人は嫌うもの、ハードル(障壁)と思うものを遠ざけようとしますが、確かに純潔が確立されれば「性のハードル」に向き合う必要もなくなります。

●『変えられない「性行動・性の価値観のハードル」』
 そもそも「性のハードル」って何なのでしょう。今回、私の講演に対する評価を聞き「性のハードル」の中には「性情報のハードル」、「性行動のハードル」、「性の価値観のハードル」といった様々なハードルがあり、私自身がそれらを整理することなく対応してきたと反省させられました。
 セックスをしたっていいじゃない。何が減るんですか? 減るもんじゃないでしょ、と冗談を言うと、大人たちは「肉体的には減るものは無いかもしれないけど、精神的には失うものが大きい」と怒っていたのを思い出します。
 先日、20歳代から40歳代の男だけで話す機会がありました。自分のパートナー(女性)の過去の性体験の有無を自分が知ったとしたらどう思うかという話で盛り上がったのですが、結果的には世代間格差が顕著に出て面白い結果でした。

20代前半
知っている相手でも関係が切れていればいい

20代後半
知っている相手でも関係が切れてしばらく経っていればいい

30代前半
知っている相手だといや。相手のことを知らなければ過去にセックスをしていてもいい

30代後半 過去にセックスをしていてもそのことを言われたらだめ

40代以上 純潔であって欲しい

 ごく限られた人たちの発言であり、その世代の皆さんが同じだと言うつもりはありません。また、話し合いに10代の人はいなかったのですが、いたら「関係が切れていなくてもしているんじゃないの。だって自分もそうだから」というでしょうか。
 ユーミンの曲(魔法のくすり)に「男はいつも最初の恋人になりたがり、女は誰も最後の愛人でいたいの」という歌詞がありましたが、昭和の人たちには理解されても、平成の若者たちは「何を言っているかわからない」となるのでしょう。このように世代間の性行動や性の価値観には大きな意識のギャップ(=ハードル)があり、それを埋めたり共通化したりすることは不可能です。

○『性教育が高める性のハードル?』
 「性」と正面から向き合うと、自ずと情報としての言葉(セックス、コンドーム、避妊、梅毒、おちんちん、膣、ワギナ、等々)と接することになります。しかし、これらのストレートな、使い慣れていない言葉を聞くこと自体が性(情報)のハードルとなっている人も大勢います。「性」に関わる分野で何らかの対策を打ち出すには、「感覚的に理解はできないけど、現実を認めて対策を打たなければならない」という認識が求められます。しかし、言葉を正確に使えない人は科学的な議論ができないし、効果的な対策を提案することもできません。むしろこのような人にとっては「性的表現を用いた性教育」の存在自体がその人にとっての「性のハードル」をさらに高めているのではないでしょうか。

●『性情報を素直に受け止められる環境整備』
 では「性のハードル」、特に「性情報に対するハードル」が高い大人を変えるにはどうすればいいのでしょう。
 私は性の話をする時に硬い雰囲気をほぐすために「情報(言葉)に対する抵抗感」を払拭してもらうようにしています。例えば、「あなたは男ですか、女ですか」と自らの性を言葉で表現するところから入り、「どうして男なのか説明して」と振ります。「おちんちんが付いているから」と言えない人が多いのを見計らって「おちんちんという言葉が言えないこと自体、どこか変だと思いませんか」と「性情報(性表現)のハードル」に気付いてもらいます。大人、それも一般の人を対象とする場合は「おちんちん」、「包茎」、「セックス」、「コンドーム」といった言葉を会場の皆さんと一緒に3回ずつ復唱します。もちろんこの方法がおすすめできない集団もありますが。
 自分も性と無関係ではないことを感じてもらえるように工夫します。このやり方への感想では、「聞く前は性のことは恥ずかしいことだと思っていたけど、岩室先生がどうどうと、きちんと話してくれたので性は生きていく上でとても大事なことだと思えました」という声が多数出てきます。
 逆に、いきなり高校生の4割がセックスをしているという若者の性行動の実態を示し、コンドームを使う人が半数程度で結果的に毎年女性では100人に1人がクラミジアに感染しているという事実を伝えようとしても、聞き手は、セックス、コンドーム、性感染症といった言語化された情報に接しただけで戸惑い、さらに自分の価値観や行動とのギャップを感じ、「事実はそうかもしれないけれど、それって自業自得じゃないの」と反応してしまうようです。

○『「性情報のハードル」を下げる意識を』
 「性情報」、「性行動」、「性の価値観」といったハードルの中で、いま一番下げなければならないのは大人が性情報を受け止める際のハードルです。昨年、新聞に私の連載が載ったことが画期的だとある出版社の方が言っていましたが、このような作業も性情報のハードルを下げる一助になればと思っています。しかし、「性情報のハードル」を感じている人にとって、むしろ世の中に氾濫する性情報こそがさらに「性情報のハードル」を上げる方向に作用し、性について語る気にもなれないのでしょう。
 性を語る方は、聴衆の中に「性情報のハードル」が高い人がいることを意識する必要があります。そして、その人たちにこそ、性はあなた自身の問題だということを実感できるようなアプローチをしたいものです。

宣伝
 HP上にPower Pointで作成した講義資料をアップしています。よかったら参考にしてください。
http://homepage2.nifty.com/iwamuro/

◆CAIより今月のコラム

「おもしろ」ければチャンスはある!

去年の秋、札幌出身の友人に教えてもらって以来北海道のローカルTV局で放送していたバラエティー番組にはまっています。
HTBの「水曜どうでしょう」(イントネーションは、「金曜ロードショー」に準ずる)です。
DVD化されたものを借りたのですが、これがほんとにおもしろい!!
基本的に出演者は2人だけで、旅モノです。
北海道だけのローカル局のバラエティー番組だし、出演者の他にディレクターとカメラマンの4人だけで作っているという低予算番組。
にもかかわらず、道内での評判がネットを通じて全国に広がり、各地のCATVでじわじわと放送されるようになり、今はすでに番組は放送を終了していますが、終了後に発売されたDVDはオリコンチャート1位を獲得、現在第3弾まで出ています。
今の時代、面白いコンテンツを作れば地方発であっても地域の制約を越えてあっという間にブームが広がる可能性があるんですね。
遊び心と、愛のある番組なので、見た人がおもしろいと感じるだけでなく、誰かに伝えたくなってしまうから、今の状況があるのかもしれません。
ちなみに、今月号の雑誌「Quick Japan」に特集されています。

                               Y.K