紳也特急 6号

~今月のテーマ「性教育・エイズ教育ができる人集まれ!」~

●『もういい加減にしませんか』—「HTLV-1」の告知について
○『読者の方から』—先日放送された『ここがヘンだよ日本人』で感じた事
●『性教育・エイズ教育が出来る人集まれ!』
○『いま、求められている性教育』
●『いつから性教育・エイズ教育をするか?』
○『性教育・エイズ教育を行なうための必要条件』
●『性教育・エイズ教育を行なうための十分条件』

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●『もういい加減にしませんか』

 皆さんは「HTLV-1」というウイルスのことを聞いた事がありますか。HIVより以前から知られていたウイルスで、HIVと同じく輸血・セックス・授乳で感染します(血液、セックス、母乳と言わない意味がわかりますか?)。しかし、HIVより発病者は少なく、感染力も弱いと言われていますが、感染すると千人に一人くらいはATL(白血病の一種)になり、治療が功を奏さないと死に至ることもあります。
 問題は、献血した人が「希望すれば」HTLV-1に感染していた場合告知を受けることになったということです。感染していることがわかっても現在のところ治療する方法はなく、場合によっては一生発病不安と共に生きなければならないことになります。感染している事実を公表すれば結婚したくても出来なくなるかもしれません。そこまでのインフォームドコンセントをしないまま結果を告知するのはいかがなものでしょうか。日本にはHTLV-1に感染している人が多い地区がありますが、そのようなことがマスコミにのると「○○地方の人と結婚しないほうが良い」というような差別が起こることも考えられます。特に感染している人が多い地域の人にご意見をいただければと思います。ちなみに私は結果を告知することは反対です。検査体制を整備するというのであればHIVと同じで保健所で希望者が検査できるようにすることが先決ではないでしょうか。

○読者の方から
 先日放送された『ここがヘンだよ日本人』で女子高校生vs外国人の性教育論みたいなのが論じられていました。大勢の女子高校生が10〜20人経験していると言い張る中、一人の女子高生が『私は彼しか知らないから大丈夫』と発言していて外国人からヒンシュクをかっていました。
 その時、思ったのですが私の母親をはじめ性を語ることはタブーと考えている親が多いのではないかと。また、その環境で育てられた子供が親になった時にちゃんと性病や避妊について伝えられるのか?と。
 いつ、誰が、どのような方法で性教育をするか。学校に任せておいてもいいのか?岩室先生に任せておいてもいいのか(笑)?独学?の危険性、等などについてご意見を下さい。

ということで今月のテーマは★

●『性教育・エイズ教育が出来る人集まれ!』

 今月もまたエイズ教育、性教育を何件かこなさなければなりません。そろそろ後継者を育成してはと言われるが適任者が簡単には見当たらないのが現状です。学校現場では保健体育や養護教諭の先生を中心に性教育に積極的に取り組んでいる方が徐々に増えてきていますが、学校の先生は他校や地域で講演をすることが難しく、外部講師を育成することが求められています。「岩室先生が講演を引き受けていただけないなら誰かを紹介してください」と言われても私が知っている方々は忙しく、なかなか次なる講師を紹介できないでいます。ちなみに依頼するにしても学校が用意できる講師料では到底他の人に頼める金額ではないところも少なくありません。保健所管内の依頼については幸い、保健所の保健婦さんで性教育に向いている(?)部下がいるので厚木保健所管内の依頼はほとんど彼女に回していますが、いつ転勤なるかわからない状況です。
 以前は「誰でも性教育・エイズ教育ができるはずだ。だって何の教育も受けていない自分でも出来たし、それなりのスタイルでやれば良いのだから」と思っていました。しかし、性教育をはじめて10年以上経ってみると、「誰でも自己流の性教育はできる」というのは正しいものの「理解と共感される性教育ができる人はあまりいない」ということに気づかされています。

○いま、求められている「性教育」
 性教育・エイズ教育の目的は何でしょうか?
 科学的な情報伝達、自分や他人を大切にする思いやる心の育成、正しい情報伝達、ライフスキル教育、避妊教育、コンドーム教育、等々いろんな意見があると思います。目的は何でもかまわないと思います。というより目的は多ければ多いほど、大きければ大きいほど良いと思います。しかし、いま、最低限求められているものは「実生活に役立てられる教育」、あるいは最低限でも「感動生む教育」ではないでしょうか。
 私は自分の話を聞いた生徒さんが少なくとも今まで思っていたことを「ちょっと違っていた」「自分の問題なんだ」とか「自分の考え方が変わった」「もう少し勉強してみようと思った」という気持ちを持ってもらうような情報伝達を心掛けています。

●いつから性教育・エイズ教育をするか?
 「寝た子を起こすな」という声をはじめ『性』から逃げようとする風潮があります。しかし、間違った知識、情報が植えつけられる前に、HIVに感染したり、望まない妊娠をする前に情報を伝える必要があるのではないでしょうか。「寝た子を起こそう、健やかに」。生まれたその日から、出きることから始めましょう。

○『性教育・エイズ教育を行なうための必要条件』

1. 正確な科学的情報を持っている

2. 若者の情報源(雑誌、テレビ、ラジオ、インターネット、等)を少なくとも3つ知っている

3. いま、何とかしないと多くの若者が不幸な思いをするという危機感がある

4. 自分自身が性について悩んだことがある(少なくとも悩んでいる人の気持ちが心から共感できる)

5. 自分自身がHIVに感染している、あるいは感染する可能性があると思っている

 特に最後の2つが重要だと思っています。理屈だけを並べて、「正しい知識」を強調している人は「その人の気持ち」が理解できない人で、結果的には伝わらない教育をしてしまいます。

●『性教育・エイズ教育を行なうための十分条件』

1. 性について自分なりの価値観がある

2. セックスで大切なことは「二人で話し合えること」と思っている

 十分条件としたのは、どちらも大切なことではあっても、普遍化、押しつけられるものではありません。

 性教育は家庭でしよう。いや学校の役割だ。昔は地域でやっていた。いろんな意見があるでしょう。しかし、そんな悠長なことを言っている場合ではないと思える人がどれだけいるでしょうか。少なくともあなたの周りの大人、親、教師、医師、保健婦、助産婦、等で本当に危機感を持っている人がいますか。危機感がなければ性教育・エイズ教育に時間を割くはずはありません。

 私の危機感は決して社会全体として、若者の何パーセントが性感染症、望まない妊娠、不必要な悩み、等々で不幸な思いをすることを危惧しているのではありません。一人一人がそのような思いをしないことを望んでいるのです。結果的には一人一人の積み重ねが大きな成果を生むのではないでしょうか。
 地域で、学校で性教育・エイズ教育を行なっていただける方、ぜひ最寄りの保健所にご連絡下さい。また、8月4日-6日に行なわれる『AIDS文化フォーラムin横浜』にもいらして下さい。地域があなたの力を借りたがっています。

★2月10日(木)発売の週刊新潮に献血とHIV感染の記事が出ます。読んでみて下さい。

◆CAI編集者より今月の一言
 最近思う事。
 最近街を歩いていても、 AIDS予防のポスターを目にする事が無くなったなぁ..と思います。
 何年か前、政府が出した「SAFE SEX AIDS予防」という様な キャンペーンポスターで、裸の女性がコンドームに入っている広告を 覚えているでしょうか?差別や何だで物議をかもし出していましたが、 どんな表現でも、現在のようにただニュースで、 「HIV感染者が増加の一途をたどっている。」とか「AIDS人口大爆発」とか、 数字や恐怖心だけを流されるよりは、記憶に残るという点で、 まだ良かったのではないかと思うのですがいかがでしょうか。