紳也特急 71号

〜今月のテーマ『感動』〜

●『感動した質問』
○『エンジン』
●『感動が原動力』
○『どこにでもある感動』
●『コンドームの話に感動?』
○『岩室の話は人権教育』

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●『感動した質問』
 ある高校で講演させていただいたところ、生徒さんから次のような質問が出ました。
 「日本はどうしてコンドーム自給率100%、生産量の45%を海外に輸出しているコンドーム大国なのにこんなにエイズが深刻な問題になっているのでしょうか。政治がもっといろんな工夫を打ち出すべきだと思いますが岩室先生の見解を教えてください。」
 「何で高校生がこんなに勉強しているんだ」と思わず「コンドームの達人」の称号を彼に引き継いでもらいたいと思いました。そんな感動を引きずりながら、「今度はもう少し簡単な質問かな」と思っていたら次の質問が続きました。
 「岩室先生は講演の中で『女性はセックスをしたくなければノーと言っていい』とおっしゃいましたし私もそう思います。しかし、岩崎ちひろさんは結婚したご主人との性生活がイヤでそれを拒否し続けていたらそのことが原因でご主人が亡くなられたと聞いています。そのようなことは不幸なことで、どう考えればいいのでしょうか。」
 「すごい」。一瞬たじろいでしまった私でした。すごい質問ですよね。それに私がどう答えたかはご想像にお任せしますが、正直この学校で講演させてもらったことに感謝しました。このような質問が出来る感性や視点をもった若者たちがいることを知ってがっかりする大人は少数派でしょう(「いないでしょう」と書いて訂正しました〔笑〕)。性教育バッシングに限らず、世の中にはやる気をなくさせてくれる多様な考え方がありますが、一方でこのように私の話をきちんと受け止めてくれるばかりか、私に感動を与えてくれる多くの若者たちと出会えることを励みに今月も多くの講演会をこなしていきたいと思いました。
 ということで今月のテーマは「感動」としました。

『感動』

○『エンジン』
 仕事に追われ、朝5時からパソコンに向かうだけの生活をしていると体によくないばかりか、心まですさんでいきますね。そんな中で講演先の生徒さんが一生懸命聞いてくれてそれなりに反応してくれるのが心の安らぎにつながります。そしてもう一つくらい楽しみをと思い、一つぐらいはテレビの連続ドラマを見ています。
 最近感動したドラマはキムタク主演の「エンジン」。ストーリーは本当にシンプルです。F1を目指していたキムタクが演ずるレーサーが古巣のチームに戻るのですが、そこの監督にメカニックになれと言われます。その監督が車椅子というのはF1狂の岩室にすれば、今期はBMWと組んでいるウィリアムスのフランク・ウィリアムズ監督をモデルにしているとしか思われないのですが、このあたりの設定がわからないと面白くないでしょうね。レーサーのキムタクが育った児童養護施設が地域の理解が得られず地域から追い出されそうになりますが戻ってきたキムタクが何かしてくれそうな予感。そんな安っぽいストーリーですが、毎回一人の子どもの悩みや混乱を丁寧に描き、今の子どもたちを取り巻く社会の問題点をさらりと表現し、それをまたいろんな背景をもった大人たちが一人ひとり違った視点から支えていこうとする姿に思わず涙腺が緩むことしばしば。

●『感動が原動力』
 この「エンジン」の最終回の時は夜の仕事が入っており、残念ながらビデオで見ることになります。しかし、絶対見逃さないために、念には念を入れてビデオデッキと最近買ったHDデッキにも録画して失敗しないようにダブル録画体制でチェックしておきます。このように絶対見逃したくない、見逃さないためにありとあらゆる手段を駆使するのはまたまた「感動」を味わいたいからです。
 皆さんはどのようなことなら労を惜しまず行うことは何でしょうか。情報や知識があっても自分にとって「欲しい」、「見たい」、「何とかしたい」といった強い衝動を与えてくれるものでなければそのことに向けて真剣に行動しないと思いませんか。避妊や性感染症予防のためにコンドームを使おうと積極的に思える人は、「とにかく彼女だけは妊娠させたくない」という強い気持ちがないと実際の行動とはならないはずです。

○『どこにでもある感動』
 「この一週間の中でどのようなことに感動しましたか」と沖縄で飲んでいた時に投げかけると、「20年も前に関わっていた精神障害者の方が『いま、このようにちゃんと生活しています』と報告に来てくれました」、「疲れて帰ったらちゃんとご飯ができていました」、「子どもが『お父さんいつもありがとう』と言ってくれた」と次から次へとみんなが日々感じている感動を語ってくれました。
 岩室はと言えば、隣の4歳の「みなみ」と妻との会話に感動しました。
みなみ:紳也さんはどこにいっているの?
 妻 :沖縄だよ。
みなみ:きび団子を買ってくるところ?
 妻 :??? それは同じ「お」から始まるけど「岡山」だよ。
みなみ:何だ(きび団子が欲しかったのに)・・・・
 きび団子を買っていったのはもう半年前くらいのことなのに、「お何とか」というところのお土産ということを覚えているというのはすごいですよね。そうやって自分が買ってきたお土産のことを覚えていてくれたとなれば、今回はちんすうこうを買っていこうという思いと行動につながりますよね。人は日々何かに感動できると、こころも洗われ、行動も変わると思いませんか。

●『コンドームの話に感動?』
 高校で講演したときの感想文です。
 (コンドームを財布に入れても)お金はたまらないって分かったのは少しショックでしタ。2つも入ってるのニ・・・・・(女子)
 先生のコンドームのつけ方の講演でしたけど、たかがコンドームつけるごときでアソコまでやることが多いというのはびっくりしました。この話はかなり役に立ちました。この時期に先生の話を聞けてよかったです。何かあったときはよろしくお願いしますね。(男子)
 自分がなぜコンドームの話、それもチャンピオンを使った正確なコンドーム装着法にこだわるのかを考えてみました。10何年も前に助産師さんが「岩室先生。コンドームが外れるのはちゃんと根元まで着けていないからですよね」と質問されたのを受けて、包皮が余っているペニスに正確にコンドームを装着する方法を考え出しました。このことを伝えると「目からうろこ」という感動を覚える人が多いことに気づきます。「コンドームは避妊や性感染症予防に有効です」という教科書的なメッセージは多くの人に伝わっているのですが、それだけでは「コンドームを使おう」という動機付けになりません。しかし、「コンドームの装着法ってこんなに難しいし、そこまで完璧にやっても破れることもあるよ」と伝えると「へー・・・・・・そうなんだ」と感動し、結果的に印象に残るメッセージとなっているようです。

○『岩室の話は人権教育』
 性教育に対する風当たりが厳しくなる中で、私とは数年来のお付き合いをしている中学校の校長先生が「岩室先生はコンドームの話もするけれど、あなたの話は人権教育そのものだ」と言ってくれました。子どもたちのことを真剣に心配し間違った性情報が氾濫する中で、そして性行動を安易に考える若者たちが多い中で、一人の大人として君たちの事を真剣に心配しているんだ、HIV/AIDSのことを正確に知れば自分の問題だということが理解できるだろ、というメッセージが込められているということをご理解いただけているようです。コンドームを教えるか否かが問題ではなく、岩室の話には一人ひとりの患者さんときちんと向き合いその人たちを支えていく中から今の若者たちがどう生きればいいかのメッセージが込められている、と評価していただけたのかと思います。人権教育というのは中身の問題以上に、その人のことをどれだけ相手のことを真剣に考えているかが問われているのだと思いました。

追伸
 先月号に書かせていただいた、私の写真の無断掲載が本の回収という形で決着したのを朝日新聞HPに以下のように掲載されました。広島の河野美代子先生は内容に問題があると裁判を起こされているようです。再出版の際にはどのような内容になるんでしょうね。

「新・国民の油断」回収に 過激な性教育批判で話題の本
2005年06月17日19時23分
 「ジェンダーフリー」や「過激な性教育」を批判した本「新・国民の油断」(西尾幹二、八木秀次著)の記述内容に問題があったことがわかり、出版元のPHP研究所が回収を始めた。
 同社によると、HIVや性教育に詳しい岩室紳也医師の写真が本人に無断で掲載されたほか、岩室氏にかかわる記述に誤解を招きかねない点があったことなどがわかり、今月上旬に回収を始めたという。同社は、修正の上、8月中旬をめどに再度出版するとしている。
 岩室氏は「書き方に問題があり、肖像権も侵害された。大変迷惑しており、抗議した」と話している。
 この本は1月の出版後、約1万3000部を発行。「過激な性教育」や「ジェンダーフリー」を批判的に取り上げた自民党のシンポジウムなどで引用されている。