紳也特急 73号

〜今月のテーマ『向き合う力』〜

●『成人式に見る若者と大人の現状』
○『九州からの相談』
●『岩室の返事』
○『お母さんの重い思い』
●『手段を選ばず?』
○『むいていますのメール』
●『成人しましたか?』

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●『成人式に見る若者と大人の現状』
 皆さんは夏に成人式を行っているところがあるのをご存知でしたか。実はつい先日、その夏の成人式でエイズに関する講演をしてきました。小学校から大学、専門学校といろんな年代の若者に接し、高校では進学校から定時制高校、学習困難校といろんなところで講演していますのでいろんな雰囲気の若者がいることについては理解していたつもりでした。しかし、それは私の思い込みでしかありませんでした。学校は一定の基準で選別され、かつその集団での生活を継続できる人たちの集まりでした。しかし、成人式はあくまでも同じ年度に生まれ、同じように年をとった人たちの集まりで、そこには出生年度以外に何ら参加基準はありません。そして参加している男子はスーツ姿、女子はワンピースといかにも人と同じ格好をしないと不安な若者たちでした。そんな彼ら、彼女らが「普通」に見えたのは最初だけで、首長さんや教育長さんのあいさつはもちろんのこと、私の講演会の最中も出入り自由の何とも言えない雰囲気でした。もっともそんな中で仲間に引きずられることなく最後まで聞いている人、寝ることを決め込んでいたのにいつの間にか聞き入っている人、最初から一生懸命聞いている人、積極的に反応する人、と様々な「成人」を見させていただきました。そして、私を含め、そこには真剣に若者たちと向き合っていない大人たちがいました。
 ニート、フリーター、引きこもりといろんな成人を生んでいる日本社会の現状は、私を含めてきちんと若者のニーズに向き合っていない、関係性が喪失している社会だと言うことを改めて強く感じた成人式でした。そこで今月のテーマを「向き合う力」としました。

『向き合う力』

○『九州からの相談』
 次のようなメールをいただきました。
 4歳の男の子をもつ母親です。先日、泌尿器科で息子が真性包茎と言われ、手術以外の治療方法がないといわれました。包皮口がピンホールで、排尿の際にちんちんが膨らみます。どうしても手術をさせたくありません。ほかに方法がないのかと思い、ネットでいろいろ検索していると先生のホームページに出会いました。手術反対という考えに共感しました。受診した病院ではどこの病院にいっても同じ事を言われるよと言われ、手術しないならここでは治療できないと言われました。大変ショックを受けました。九州在住です。九州にも手術を勧めない先生はいるのでしょうか?岩室先生に受診することは可能なのでしょうか?お忙しいでしょうが、お返事いただけたら幸いです。

●『岩室の返事』
 ここまで言い切られてしまうと、親としてはつらいですよね。
 もちろん手術をしなくてもむけるようになりますが、正直なところ“コツ”はあります。
 また、4歳と言うと確かに難しい年齢ですよね。
 厚木まで来ていただければ診察することは可能ですか。
 九州のどこにお住まいでしょうか。対応可能な先生を当たってみますが、正直なところ「包茎の非手術的対応」に興味を持っている先生はまだ少ないのが実情です。ただ、排尿時に包皮が膨らむと言うことなので出来れば早めの対応をした方がいいでしょう。

○『お母さんの重い思い』
 お忙しい中、早々のメールありがとうございました。先生のメールを読んで、大変勇気づけられました。息子の受診の経緯をお送りします。
○月○日 夜、包皮口の先から、ごく少量の出血
○月○日 近くのクリニック受診。出血は異常なし。包皮口ピンホールのため手術をすすめられ、病院を紹介される。
○月○日 病院受診 手術以外治療無しと診断
 病院に行く前に、ネット等で小児包茎について調べました。包皮翻転、ステロイド療法などがあると知り、手術回避できることを期待して受診しました。しかし、ステロイド療法も否定され、全身麻酔のリスクのことを聞いても、たいしたことない、そんなことが気になるならここでは治療できません。術後のおちんちんの形状について質問すると、術後は確かに見た目が悪いが、大人になれば専門家が見ないとわからいほどになると言い、形を気にするならここでは治療できません。この辺りで小児包茎手術をしているのは、うちと○○病院だけで、そこに行っても同じこと言われるよ。と言われました。
 小児包茎手術は年、何件ですかと聞くと前は50件ほどしていたが、今は少子化で30数件です。結構多いですよとの事でした。
 帰っていろいろネットで調べましたが、どんなに大きな病院でも年一桁の術例がほとんどでした。どうしても手術をさせたくないし、他の方法も受け入れてもらえないので、病院を受診するのをやめました。九州では非手術的対応してくれそうな病院がわからず、それからどこにも受診していません。今はおふろで翻転していますが、素人なのでやはり上手く行きません。全身麻酔はほんとうにたいしたことないのでしょうか?私自身骨盤位だったので、この子を帝王切開で産んでいます。麻酔の副作用よる頭痛に数日苦しみましたし、麻酔が切れたときの下半身のしびれ、発熱、術後の傷の痛み、手術の恐怖感を経験しています。これを我が子にどうしてもこの思いをさせたくないのです。大人の私でも下腹部の傷跡をみるのが辛いです。本人の意思なしに手術し、一生の後悔になるのが怖いです。真性包茎だけならいいのですが、このままでは腎臓に障害がでると言われているので悩んでいます。せめて障害のでない程度まででもいいので、手術回避できる治療をしたいと思っています。どうか先生のお力を貸してください。厚木まで受診しに行くことも考えています。8月の診察予定を教えていただけませんでしょうか?どうぞよろしくお願いします。

●『手段を選ばず?』
 結局、ディズニーランドで遊ぶことを口実に九州から厚木まで出てこられることになりました。
 診察したおちんちんは包皮炎を繰り返したようで、ピンホール状態でした。この状態であれば手術が必要と診断する泌尿器科医は多いと思われました。しかし、お母さんの希望通り、少々の出血を覚悟でむいてみると亀頭部が直径3ミリほど見える状態になりました。普通は一週間後に再度診察に来てもらうのですが、それがかなわないので診察後に3時間ほど近くで時間をつぶしてもらった後にもう一度診察をし、痛み止めの麻酔剤、包皮をやわらかくするステロイド軟こう、化膿止めの軟膏を処方してディズニーランドに向かっていただきました。

○『むいていますのメール』
 こんばんは。九州の○○です。 昨日戻りました。 お礼が大変遅くなり申し訳ございません。ありがとうございました。
 受診翌日までは、排尿させるのにも一苦労し、おちんちんを触る事すらさせてくれませんでした。どうにか言いきかせて、一回剥いて薬をぬるのが精一杯でした。寝ている間に剥こうと思ってもだめでした。今もさわらせてもらえないけれど、寝ている間は、痛みもなくなったようで、亀頭が見えるまで、何回か引っ張れるようになりました。尿線が太くなっているのも一目瞭然です。1日でここまでできるとは思っていませんでした。 先生に見ていただいて、本当によかったです。先生がいなかったら、手術を回避することができず、悩み苦しんでいたと思います。
 先生の技術と心ある対応に感謝しています。 先生の技術を無駄にしたくないので、これから親子で毎日ちんちん体操頑張っていきたいと思います。私のように悩んでいる親御さんがたくさんいると思いますので、先生の非手術的対応がもっと一般に広がっていくことを願います。
 ほんとうにありがとうございました。
 翌日は、ディズニーランドで楽しい1日を過ごしました。
(3週間後の経過報告)
 診察1週間が経って、ようやく自分で剥いて、今までとは違って穴が開いていることにがわかり、それがおもしろかったみたいで、それ以来、亀頭がみえるぐらいまで自分で毎日剥くことができるようになりました。

●『成人しましたか?』
 今回、このお母さんと向き合う中で、このお母さんは自分のつらい経験や子供を思う気持ちをありとあらゆる手段で解決しようとされていました。ここまで徹底的に調べ、連絡をとり、そして行動するというのは並大抵のエネルギーではないと思います。
 その一方で、患者さんサイドがインターネットを含めてきちんと情報収集をし、医者に対してインフォームドコンセントを求めているにもかかわらず、「当院では手術以外の方法はありません」としか言えないのは悲しい限りです。今月号を書いている間にもやはり「手術しかない」と言われた親からの相談メールが入りました。
 確かに昔のお医者さんが持っていた情報量はとても素人さんがかなうはずもないほどすごいものでした。しかし、日進月歩といわれる医学の世界の中で、私などは到底ついて行けないほどどんどん新しい情報が増えていっています。HIV/AIDSのことではよく患者さんのパトリックから「このサイト読んでおいて」という英語の情報をもらって重宝しています。
 人と向き合うには自分自身の情報収集能力の限界とも向き合うことが求められているようです。人に「こんなこともしらないの」と言われただけでカッとしてしまうあなた(わたし?)。「性教育」を画一的な視点でしかとらえられないあなた。早く成人しましょうね。