紳也特急 75号

〜今月のテーマ『いいじゃない いいんだよ』〜

●『愛の反対は無関心』
○『本当のピア!!!』
●『誰もがピアに』
○『5分間の感動』
●『夜回り先生からの誘い』
○『ものの見方』

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●『愛の反対は無関心』
 ある中学校で講演をしたら、次のような感想を3年生の女の子からもらいました。
 「今回の先生のお話しを聞き、心に一番残ったことは『愛しているの反対は無関心』ということです。そのことを聞きなんかとても悲しくなりました。私は前大好きな人がいました。その人とは何か月か付き合い、その間にはいろいろなことがありました。好きな人の希望はかなえてあげなくてはいけない、そうしないと嫌われちゃうんじゃないか、という思いからしたくもないことをしたりもしました。今回先生のお話しを聞き、改めて後悔しました。だから自分のことを本当に大切に思ってくれる人と付き合いたいなと思います。今回の講演は、これから生きていく上でとても勉強になりました。本当にありがとうございました。」
 「素直な、でもつらい感想を書いてくれてありがとう。そしてごめんなさい。」こんな気持ちでこの感想を読んでいました。この子にもっと早くいろんなメッセージを伝えてあげられればつらい思いをせずに済んだかもしれません。でも、その時は一生懸命だったんだから「いいじゃない」。そして今までのことを後悔するのではなく、反省材料として、今後はもっと素敵な人生を歩もうとしているその姿勢で「いいんだよ」。そんな思いである本が生まれました。そのタイトルをとって、今月のテーマは「いいじゃない いいんだよ」としました。

『いいじゃない いいんだよ』

○『本当のピア!!!』
 ピア(仲間による)エヂュケーション活動を広げたいと思っている大学1年生からのメールです。
 「パワーポイントなどを見て先生の考えにとても共感しました。私も高校生に性の話をしたいって思ってます。理由は、自分が高校生のとき『寂しいからとりあえずセックスしてた』からです。(こうやって書くとやっぱ悲しいです・・)思い出すとほんとに後悔します。自分を大切にしてほしい、ほかにも楽しいことなんて探せばいっぱいあるんだから、簡単にセックスしないでほしい!!という思いを、伝えたいです。特に初めてのセックスは大事にしてほしいってことも・・・。」
 やはり「いいじゃない いいんだよ」と思いました。でも、同世代の人だからこその、すごく説得力があるメッセージだと思いませんか。ぜひピアとしてがんばってもらいたいと思います。

●『誰もがピアに』
 ただ、最近、若者による若者たちのピアエヂュケーションが流行のようになっています。特に性教育、エイズ教育の分野でそれが顕著になっていることに何となく違和感を持っていました。もちろん大人の説教よりも若者同士が同じような感覚で情報を伝える、思いを共有することは効果的だと思います。しかし、本当に「年齢、年代」だけが問題でしょうか。
 年齢だけが問題なら50歳を超えた私の話など中学生や高校生が喜んで聞いてくれるはずもありません。しかし、実際には静かに、真剣に、そして考えながら聞いてくれているというのは最初に紹介した中学3年生の女子生徒の感想からも見て取れます。
 確かにすごくいい経験、一緒に話している分にはすばらしいメッセージを若者たちに届けてくれそうな人でも、いざ学校で講演を頼まれても若者たちが聞きたい話が出来ず、結果的には若者たちが聞いてくれないということがあるようです。そこで、ヘルスプロモーション研究センターでは昨年度から「思春期保健指導者研修会」を始めました。

○『5分間の感動』
 人に、何かを伝えようとした時に、相手に聞いてもらえる話の時間はせいぜい5分程度です。研修会では最初にその5分間の間に自分がもっとも得意とする、相手に伝えたい内容を話してもらいます。ところが実際に話をしてもらうと、性にまつわる話ではお説教になったり、回りくどい話になったり、逆にストレートすぎて抵抗感を感じてしまうことが少なくありません。
 そこで、発表者の話に講師陣がコメントをつけて、よかったところ、まずかったところを指摘して再度同じような話をしてもらいます。そうすると、驚くほどに説得力のある、でも聞きやすい話へと変わってきます。
 このように5分間のストーリーを10個持っていれば、1時間の授業や講演は簡単に組むことが可能となります。すべてのストーリーにすべての人が感動するわけではないでしょうが、多くの経験をもった大人のメッセージは説得力があると思っています。私はピアも大事だけれど、大人がもっと技術、話術を磨いて若者たちに感動を伝えていって欲しいですね。

●『夜回り先生からの誘い』
 「岩室さん、一緒に本を作らない」
 ある日こんな電話がかかってきました。友人の水谷修氏から「大人たちの本音をまとめた本を作りたい」という誘いだったので二つ返事でOKを出していました。とにかく若者たちに大人たちもどんなにもがいているのか、大人たちも日々混沌とした中で暮らし、生きていることを伝えたい。そのためには大人たちが何より本音をぶつけるしかないと、新聞記者の小国綾子さんを含めた3人で集まりました。
 テレビに出ているかっこいい夜回り先生。芸能人とエイズトークをするコンドームの達人。そしてキャリアウーマンの理想像の新聞記者。おそらく、肩書きや職歴だけで言えば、他人がうらやむシチュエーションにいる3人かもしれません。しかし、それぞれで話し合っていると、実はそんなに順風満帆な人生だったわけでもなく、いろんな紆余曲折の中から今の生き方をつかみ、でも日々迷い、悩んでいる3人です。

○『ものの見方』
 最初に水谷修が「この本を読む子供たちへのお願いです。ぜひ、この本からものの見方を学んでください。この本には、みなさんのいまの常識をくつがえすたくさんのヒントがあります。そして、いまの自分を反省し、新しい自分を拓くことのできる材料が。みなさんお幸せを祈っています」と書いています。
 私が専門分野の一つである「エイズ」について本を作るとなると、読み手の思い、全体のバランス、誤解を招かない表現、等々を考えて慎重に言葉を選ぶでしょう。しかし、若者たちをターゲットにした講演会では、相手にどう伝わるかを考えながら言葉を選ぶ一方で、誤解を招かないためにビデオ撮影や録音はお断りしています。生の表情、若者たちの反応の中で言葉が生きてくるからです。
 この本は若者をターゲットにしているため、大人の本音をどう伝えるかで悩みながら書かれました。そのため普段は声に出してもあまり文字にしないことも書かれています。私に限らず、全員が短く、死、親とのつながり、理不尽さコンドーム、いじめ、コミュニケーション、等々について語っています。それを一人ひとりの若者が、一人ひとりなりに受け止めてくれればと思っています。

いいじゃない いいんだよ −大人になりたくない君へ−
水谷修、岩室紳也、小国綾子著(講談社)\1,365
http://www.bk1.co.jp/product/2608424