紳也特急 82号

〜今月のテーマ『新時代の性教育』〜

●『若者の中の二極化』
○『こんな質問が』
●『月経と妊娠の関係』
○『セックスをしたら妊娠するんですか』
●『二次元で十分だ』
○『岩室の性教育が変わった?』
●『結局は「自分」をどう語るか』

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●『若者の中の二極化』

 大人たちの中の二極化という話は往々にして「経済力格差」という視点です。しかし、若者たちの中にも二極化は起こっており、こちらにこそ注目し、早急に対策を講じる必要がありそうです。
 5月26日(金)読売新聞一面トップの記事が「ニート6割部活未経験 希薄な社会性 未就労の原因」でした。ただでさえ、人と人とのつながりが希薄化する中で、部活にも入らず社会性が身につかない若者が増えていったらどうなるのでしょうか。新聞記事が出た後に高校の先生に最近の生徒さんの状況について聞いてみたところ、高校生になっても自分たち仲間で問題を解決する力がないことに危機感を抱き、人間関係をつくる練習の場としてホームルーム活動や部活を活用し、ホームルームでは、席も「好きな子の隣」ではなく、出かける際のグループづくりも「好きな子と一緒」ではなく、くじ引きで決め、誰とでも話せる力をつけるための環境整備を心掛けているとか。中学校の時に部活をそれなりに頑張っていた生徒さんも、高校に入ったら「人間関係が面倒だから」「少しゆっくりしたいから」、「勉強が忙しくなるから」といろんな理由をつけて部活に入らなかったり、すぐやめたりする子もいるそうです。
 もちろん、全員がそうではなく、積極的に仲間づくりをしたり、部活に精を出したりしている若者たちも少なくありません。CAIで積極的に街頭キャンペーンを展開している若者たちを見ていると、若者の中にも二極化が起こっていると感じざるを得ません。大人たちの二極化は「経済力」の差で語られますが若者たちは「ストレス忍耐力」、「コミュニケーション能力」の差による二極化のようです。そんな中で、いま、岩室紳也に何ができるのか、何が求められているのかを考える意味で、今月のテーマを「新時代の性教育」としました。

〜今月のテーマ『新時代の性教育』〜

○『こんな質問が』

 お蔭様で「EZ-webのアダムとイブの真面目にエッチ」の利用者が増えるに従って、若い方々からの相談メールも多様なものとなっています。メールに返事をする中で、性教育のあり方、いま、何を、どう伝えるべきなのかを考えさせられる毎日です。そんな中で次のような相談を19歳の方からいただきました。
 「3月15日に生でHをしてしまって5月16日、17日に少しだけ出血していたのですが、コレは妊娠の可能性があるのですか?? 4月は普通に生理もきたんですけど…」
 (?_?)(「はてな」と入力して変換したらこんな顔文字が出てきました。どう答えたものか迷いつつ、月経と排卵と妊娠の関係を説明しました。
 確かに、学校で女子生徒さんたちに「あなたが妊娠したら、体に最初に起こる変化は何ですか?」と質問すると、返ってくる答えで一番多いのは「おなかが大きくなる」です。これまた、はてな、です。学校では月経も、排卵も、妊娠も教えているのですが、縦割りというか、連続したものとして教えていません。そのため妊娠した後に月経がどうなるかを19歳になっても知らない人がいて当たり前のようです。大人の常識は決して若者たちの常識ではなくなっています。

●『月経と妊娠の関係』

 では、月経と妊娠の関係を正確に説明するとどうなるでしょうか。まったく知識がない人に伝えるために、どのような内容を伝える必要があるかを考え、それを連続的に記載しました。
 「女性が思春期を迎えると、卵巣という卵子をつくるところが発達し、定期的にその卵巣から排出された卵子が、男性との性交の結果、男性のペニスから出てきた精液の中の精子と結びつき受精が成立したときのために、赤ちゃんを育てる子宮という臓器の内膜(内側の膜)が増殖し受精卵が来るのを待ち受けますが、性交をしなかった、ゴムでできている避妊具であるコンドームを使用した、女性がのむ、妊娠しない効果がある薬であるピルをつかった、あるいは偶然受精が起こらなかった、といった様々な理由で妊娠が成立しなかったときはその内膜が剥離して排出され、月経という現象が起こりますが、妊娠が成立した時は逆に卵子が体の外に流れ出されないよう内膜がそのまま残存し、そこから受精卵に栄養分が補給される仕組みになっていますので、月経があったということは、その月経の14日前に排出された卵子では受精が起こらず、妊娠が成立しなかったということですが、その後の排卵については、その排卵後に月経があるかどうかで妊娠したかどうかを確認する必要があります。」
 こう書いてみると、月経と妊娠の話を科学的に理解することは決して容易ではありません。しかし、人はいつの間にかこのようなことを当たり前のこととして自分の中の知識として獲得しています。というか、昔は獲得できていました。

○『セックスをしたら妊娠するんですか』

 自分自身もそうですが、人は情報をどんなに教育で詰め込まれても曖昧な知識になるだけで、それを自分が実践の場で活かせる力にはなりません。人の理解力や実践力を養うには繰り返し情報と接する環境を整備し、自分ひとりだけではなく、いろんな人と繰り返し情報を共有するしかありません。ところが、そのような環境はおろか、科学的な事実さえも伝わっていないのが今の若者たちの現状かもしれません。
 冗談ではなく、いずれ「セックスをしたら妊娠するんですか」という質問をしてくる人が現れても不思議ではないと思います。

●『二次元で十分だ』

 ある中学校で講演前に岩室に聞きたいことのアンケートを書いてもらったところ、男女交際のところで「二次元で十分だ」ということを書いた生徒さんがいてゾッとしました。ふられるのが怖いから彼女に告白しないという若者も少なくありません。一昔前のわれわれは、人と人との関係性の中でいろんな情報のやり取り、コミュニケーションを通して生きる力を育んできたようですが、今は、そのコミュニケーションの場づくりから始めなければなりません。すなわち、若者たちが本能的に興味をもつ「性」を題材に、正確な、科学的な情報を、若者たちが関心を示す事例性をもったストーリーとして伝える。それも、いろんな人から繰り返し伝えることで人とコミュニケーションを図ることの心地よさを感じさせてあげることこそが今の時代に求められている「新時代の性教育」ではないでしょうか。

○『岩室の性教育が変わった?』

 最近、「岩室先生の性教育は変わりましたね」と言われることが多くなりましたので、自分が行ってきた過去の性教育を思い出しながら、岩室式性教育の変遷を分析してみました。
 1990年代前半に性教育を始めたころは、「性」を陰湿なものとしてとらえている風潮がある一方で、科学的な情報さえも流せない状況でした。また、大人が流す、あるいは自然に流布する包茎、オナニー、避妊に関する間違った知識を鵜呑みにし、包茎の手術を受けたり、アダルトビデオを見て膣外射精を避妊法と思い込み、膣外射精で妊娠したりといったことにならないよう、科学的な、正確な情報を伝えるようにしていました。
 1990年代後半はHIV/AIDSの問題を何とかしなければならない、とにかく予防にはコンドームしかないにも関わらずエイズは他人事、コンドームを教えることに対する抵抗感は強く、そんなことは教えなくてもいいという雰囲気がありました。そこで、チャンピオン君を考案し、ここまでの装着法を知っていましたか、と皆さんが気づいていない方法論を紹介しつつ受け入れてもらうように心掛けていました。
 2000年前後は病気がどうだとか、性情報がどうだとか言っても若者たちが余り反応しないのに、「事例」の話をすると聞いてくれるということに気づき、話の中身が事例性をもったものへと変わっていきました。例えば「包茎とは」ということではなく、「包茎で手術を受けた○○君は」とか「妊娠を喜んでいたらHIVに感染していることが判明した女性が」といった内容に変わっていきました。しかし、何故若者たちが「事例」には反応するのに、「科学的事実」に反応しないのかを考えていませんでした。
 2003年に民間人になったのを契機に、大人向けの話と、若者向けの話の方法論を分けるようになりました。若者たちには自分の声や雰囲気を伝えたいという思いが募る一方で、大人たちに今までのように「岩室式性教育はこうですよ」と言っても、「私にはできない」とか、「過激だ」とか、多くの評論はいただくのですが、「岩室のここをいただきます」という積極的な声は減る一方でした。そこで、大人向けにはPower Pointを使い、それを公開することでどうぞそのままお使いくださいというやり方に転換しました。
 最近は、「関係性の再構築」、「コミュニケーション能力の再開発」を性の諸問題を含めた健康づくりの基本と考え、社会で起こっている様々な問題の根底に流れる「関係性の喪失」を是正する方策を日々試行錯誤しています。性教育バッシングもその是非ではなく、コミュニケーション能力の育成のための多様な手段としての性教育の有用性という視点で、純潔もコンドームもあくまでも大人の思いを伝える、コミュニケーションを図るための手段として考えるようになりました。

●『結局は「自分」をどう語るか』
 こう振り返ってきても、結局のところ、岩室紳也の性教育が変わったというより、性教育の対象となっている若者や社会自体の変遷にあわせる形で自分の性教育のスタイルが少しずつ変わってきただけだということに気づかされます。性教育の基本は、スローガンではなく、自分自身の生き方をどう語るかではないでしょうか。

PRです。
6月29日(木曜日)午前2時〜2時15分放送
テレビ東京の「TOKYOマヨカラ!」に出演して若者たちと性感染症の話をします。