紳也特急 91号

〜今月のテーマ『つながる』〜

●『メール相談が教えてくれること』
○『答えは自分の周りに』
●『答えを求める人』
○『ネットワークが育てたもの』
●『ネットワークづくりのコツ』

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●『メール相談が教えてくれること』
 『先日、彼とセックスには至らなかったのですが一瞬だけ入れてしまって、気づいたらコンドームが取れてしまったのです。こういう時って妊娠するのでしょうか??精液以外でも妊娠すると聞いたので心配です。ご返答お願いします』
 『○○中の生徒です。彼女も同級生なんですが、今の時期どのよぅな事して遊べばいぃかわかりません… どうすればいんですかねぇ・・・』
 このような相談を受けたら、あなたはどうしますか。最近、メールへの返事だけではなく、エイズ教育、性教育の講演の場面でもキャッチボール、コミュニケーションを心がけているつもりです。しかし、相手は「答え」を求め、私も最後は「答え」を提供してしまうところがあります。大人たちも悩んだとき、困ったとき、いい解決方法、答えはないかと思ってしまいがちです。そして、その極端な状態が「中学生になったら彼女ぐらいいないのはかっこ悪い」という課題に答え(?)を出すため、「彼女を、彼氏を作ること」が目的になり、「彼女と、彼氏と何をしたい」かがないまま恋人になり、することがないからセックスをしているのでしょうか。まるで、健康が目的の「健康病」の大人たちと同じです。
 人とつながる楽しさ、喜びをどれだけ多くの子供たちが実感できているのか。そして、われわれ大人がどれだけ若者たちがつながっているということを実感させてあげられているのか。先月と内容は引き継ぎつつ、今月のテーマは「つながる」としました。

『つながる』

○『答えは自分の周りに』
 小学校のPTAを巻き込んだ性教育の研修会をしたい。グループワークを中心とした内容を考えているが、最初に岩室先生の講演をお願いします。このように頼まれて受けた講演会は私の大きな反省の機会となりました。正直な所、生徒への講演ならいざ知らず、小学生の親を対象とした講演会では、「まだセックスをしている子供もほとんどいないし、親の切実感もあまりないし、せいぜい『おちんちんをどう扱えばいいか』や『女親なので男の子とはよくわかりません』といった相談に答えてもらうことを期待しているお母様方が集まるだろうからお断りしたい」と思っていたのですが、いろんな柵から受けることになりました(笑)。予定通り講演をし、数人の男性(父親と地域の親父の会?)を除くと大半が女性のPTAの会でグループワークが始まりました。たまたま私の前のグループに男性、父親が一人参加していたのですが、そこだけではなく、他のところでもディスカッションが活発に行われ、会の終了後のアンケートや感想から、ほとんどの人はグループディスカッションの中で、あるいは個々の発表やそれにからめたやり取りの中で、性に関して幅広い分野での情報交換ができていたことが読み取れました。私が正解を話さなくても、いろんな人がいろんな人と話し合っている中で自分に必要な答えや考え方が見出せるのだとあらためて私自身が気づかせていただきました。一言で言うと「みんなと話しているだけで家庭での性教育の方向性が見えてきました」、「答えは自分の周りにありました」という会になりました。

●『答えを求める人』
 もちろん中には、残念ながら偉い先生が一方的に話すことしか受け止められない、いろんな話の中から自分に必要なことを取捨選択できない人もいて、「男の子の性のことを聞きたくて来たのに、その時間が十分ではなかった」という声もありました。同じように見える人たちですが、一人ひとりの感性の違いには想像以上のものがありました。
 性教育に燃え、性教育の理想像を求めて集まっている人たちの研修会にも呼ばれました。当然のように、「どのような内容の授業を組めば、教育委員会はもとより、どこからも批判されない内容になるのでしょうか」と聞かれ、ここでも「答え」を求めて参加している人の多さ、そして今まで、当たり前のように持論を述べていた私も反省し、「ルールにのっとった、あなたなりの性教育」でいいし、「岩室紳也の真似はしないでください」と強調していました。

○『ネットワークが育てたもの』
 性教育に関わっている人が私に講演を依頼する時、あるいは私の話を聞きに来られる時、「岩室の性教育」から何か使えるものはないか、悩んでいることについての答えはないかと考えておられるようです。私もその人たちに、「岩室の性教育」を紹介し、そこから何かを持って帰っていただこうと考えていました。しかし、よく考えてみると、私が「岩室紳也なりの性教育」にたどり着けたのは私が誰かの性教育に学んだ結果ではありませんでした。確かに私は、「性教育」といえば誰もが思い浮かべる先生方を数多く存じ上げていますが、その人たちが私の性教育の骨組みを作ってきたでしょうか。答えは「No」です。「岩室紳也なりの性教育」があるとすれば、それは私の周りの、患者さん、相談者、知人、家族、そして多くの性に関心がある人たち、すなわち私の周りにあったつながり、ネットワークの中から、私の感性で性教育の方向性を定め、「岩室紳也なりの性教育」を作って来たと思います。なのに、性に関する相談を受けると、性教育を頼まれると私は「答え」を提供しようとしていました。「岩室紳也なりの性教育」を伝えようとすればするほど、賛同者が増える一方で反発も少なくありませんでした。重箱の隅を突っつくように批判が渦巻きますし、そのことに反論するほど相手も興奮して激論(?)、喧嘩になりました。

●『ネットワークづくりのコツ』
 健康づくりの分野でもネットワークや連携の大切さが強調されています。ヘルスプロモーション、ソーシャルキャピタルの醸成、関係性の再構築、と言葉を替えてとにかくいろんなものがつながることが求められていることは事実です。つながることの大切さを感じて多くの人が集うようになりました。
 先日、健康づくりのイベントでネットワークづくりを求めて集まった人たちがお互いにPRし合う場面を見せてもらいながら、ネットワークづくりの難しさとコツを学ばせてもらいました。ある人が「私たちは○月○日にこんなイベントやります。ぜひ来てください」とPRされた時に、私を含めて多くの人は引いていました。一方で別の人が「私たちは月に2回こんなことをやりながら楽しく過ごしています」と紹介されたときに、何となく「面白そう」と感じていました。人に押し付けられたものはどことなく敬遠してしまいますが、人が楽しくしているのを見せ付けられると、自分も仲間に入れて欲しいなと思ってしまいます。
 自分が楽しくなれる、自分が一生懸命になれるものがあれば、そして「押し付ける」のではなく、「伝える」、「受け止める」ことができれば、そこの多くの学びが生まれます。
 私の講演を聴いた生徒さんからこんな感想をもらいました。
 「あまりにも普通に話せる先生はすごいです。最初は「何!」と思ったけど、先生の勇気と慣れに関心です。聴いているうちに、私たち中学生を心配して話してくださる姿はかっこいいと思うようになってしまいました。ネクタイも何か訴えるものがあると思いました。これからも人々を救ってください」
 知り合うだけでもネットワーク。認め合うのもネットワーク。とにかくつながることがネットワーク。そう思いませんか。