紳也特急 95号

〜今月のテーマ『情報の受け止め方』〜

●『爪楊枝でエイズ?』
○『包茎110番』
●『「包茎」とは』
○『「包茎ではないペニス」とは』
●『「真性包茎」「仮性包茎」は診療報酬(レセプト)病名』
○『皮オナニー』
●『からだの相性』
○『もっと情報の共有を』

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●『爪楊枝でエイズ?』
 こんな質問がありました。
 「中国でAIDSウィルスや肝炎のウィルスのついた爪楊枝を再利用していたとニュースがありましたが、そのような爪楊枝は日本に入って来ているのでしょうか?入って来た場合、AIDSウィルスに感染する可能性はあるのでしょうか?」
 爪楊枝の再生だけではなく、生理用品や医療機関で使用していたガーゼ等も病原体に汚染されていたとの報道ですが、ネットでこの話題を検索すると、結論は「中国製品は危ないからやめよう」という話で落ち着く人が多いようです。しかし、原材料表示も信用できないご時世ですので何を選択するかは難しいですね。
 心配される方がいる一方で、私はこの報道をあまり自分に身近な問題と感じませんでした。爪楊枝を使わないわけではないですし、リスクがゼロかといえばそうではないと思いますが、なぜか「そこまで心配していられない」という割り切りが私の中にありました。どうして割り切れる私がいて、割り切れない、心配ばかりが先行する人がいるのでしょうか。さらにどうしてそのような情報さえも知らない、気にならない人がいるのでしょうか。
 そこで今月のテーマは「情報の受け止め方」としました。

『情報の受け止め方』

○『包茎110番』
 メールでいろんな相談が来る度に、「もっと勉強してよ」と思う一方で、HPではいろんな悩みに答えようと情報をアップしているのですが、「この件についてはHPにアップしていない」と反省させられることが少なくありません。私の常識や情報は必ずしも皆さんの常識や情報になっていないのは当たり前のことです。そこで私はHPに書いていないことについての質問には答えつつHPの内容を更新するようにしています。ところが先日、久しぶりに包茎の取材を受けてがく然としました。
 某県の弁護士さんたちが法外な手術料を請求された人を救済するため「包茎110番」という相談をしたところ、100万円を超える請求をされたと訴える人が何人もいたそうです(まだ記事になっていないようなのでこの程度の紹介でお許しください)。その際に、男性記者の方が包茎についていろいろ質問されていたのですが、やはり今でも「包茎」が正しく理解されていないことに気づかされました。包茎について書いたのは4年近く前の紳也特急51号「包茎のインフォームドコンセント」だったので、あらためて包茎の現状も書かせてもらいました。

●『「包茎」とは』
 ペニスが勃起している、勃起していないに関係なく、そのペニスを見た時に亀頭部が全く見えない状態が誰もが認める「包茎」です。
 ここで誰もが認めると敢えて言うのは、日本泌尿器科学会でも、日本小児泌尿器科学会でも「包茎」という用語に関する定義や議論はまともには行われていません。早い話、患者さんが、一般の方に質問されても、返事をしている医者、そう、岩室紳也を含めて医者も包茎については個人の思い(込み?)で話していることになります。

○『「包茎ではないペニス」とは』
 ペニスが勃起している、勃起していないに関係なく、そのペニスを見た時に亀頭部が全て見える状態が誰もが認める「包茎ではないペニス」です。決して「正常」でも「大人のペニス」でもなく、単なる「むけたペニス」です。しかし、それを「正常」とか「大人のペニス」と呼び、それを正当化しようとしている医者も少なくありません。では、「包茎」と「むけたペニス」の間の状態はというと「特別な呼び名のないペニス」になります。

●『「真性包茎」「仮性包茎」は診療報酬(レセプト)病名』
 よく、真性包茎とか仮性包茎といったことを言います。私のパンフレットにもそのような用語を使う場合もありますが、正確に言うと、これらの言葉も医学会でちゃんと定義されていません。ここでも誰もが納得する「真性包茎」とは、誰がむこうとしても、全く亀頭部が見えない状態は「真性包茎」であり、非勃起時も勃起時もむけていないペニスの包皮をむくと亀頭部が全部見えてくるのを「仮性包茎」と言います。では、なぜこのような用語が横行しているかというと、国民のすべてが加入し、医者にかかった時にかかった医療費の3割負担で済む医療保険は、病気の治療でしか使えません。もちろん美容整形といった個人が希望する医療行為では使えないことになっています。医者がこの医療保険を使って包茎の手術をし、3割の負担を患者さんに、残り7割の負担を医療保険に請求していい包茎とは医者が「真性包茎」と判断して診療報酬請求書(レセプト)にそのように記載している場合です。「仮性包茎」とレセプトに書くと医療保険は使えず、自由診療で行うことになります。ちなみに、真性包茎でも仮性包茎でも手術方法は同じですが、医療保険を使って包茎の手術をした場合の医療費の総額はおおよそ7〜10万円になり、患者さんはその3割の2〜3万円の負担となります。
 一方で、よく聞かれるのは自由診療だとどうして医療機関で差が大きいのですか、ということです。それはまさしく「自由診療」なので値段の設定も自由です。自由な価格設定というのは皆さんの周りにいくらでもありますよね。一泊3000円のホテルから一泊100万円以上のホテルもあれば、同じピザでも店によって500円から10,000円までありますよね。それと同じです。自由診療とは自由経済の考え方同様、医者と患者さんがお互いが納得したところで値段を決定し、それを患者さんが自分で選んで自分で責任を持っていただくしかありません。これでおわかりのように、「真性包茎」か「仮性包茎」かをもっとも重視しているのが診療報酬を審査する人ですので、決して医療的な視点ではないことをご理解ください。

○『皮オナニー』
 こんな相談もありました。
 「先生初めまして、21になる大学生です。今回相談したいのは自分のマスターベーションの仕方です。皮オナニーによく似ていて亀頭の部分を皮で包みうつ伏せ状態になり、手で皮と亀頭を押しつぶしながら射精する方法なんです。女の子とセックスしようとしても今まで射精ができず悩んでいます。どうしたらいいか不安です。よろしくお願いします。」
 皮オナニー????? 私が初めて聞く言葉なのでネットを検索すると何と2万件以上ヒットしました(その中に何と「包茎110番」というグッズもありました。内容についてはノーコメント)。どうも皮オナニーとは「包皮がかぶったままオナニーをすること」のようですが、これって、仮性包茎の人なら当たり前にあることです。誰がこの言葉の名付け親かわかりませんが、正常なオナニーにも名前を付けなければならない状況なのか、それとも、この言葉を通して一儲けをたくらんでいるのか・・・・・・・・・・・と、つい勘繰りたくなります。とにかく、皮オナニーは仮性包茎の人にとっては正常なオナニーの方法の一つとだけ結論付けておきます。
 このようにとんでもない(?)情報が氾濫しているのを見ると、最近、「正しいマスターベーションの仕方」を若者向けの講演会で強調していることは間違っていなかったと思います。間違ったマスターベーションの仕方とは、まさしくこの相談者がやっているように亀頭部を押しつぶす方法で、亀頭部をベッドと体、机と体で挟んでつぶす中で快感を得て射精をすることを覚えると、実際に膣内射精ができなくなるというのは射精障害を扱っている泌尿器科医の常識になっています。しかし、この話をすると、最近は「エッ???」という反応をし、すごく心配している若者が多いのが気になります。どうして、正常な方法でのマスターベーションを覚える環境が無くなってしまったのでしょうか。

●『からだの相性』
 ある高校で講演した後、控室までおしかけ、「からだの相性ってあるんですか?」と聞いてきた女子生徒がいました。「からだの相性?????」って何を指しているのかを確認してみると、要は彼氏が彼女とのセックスで射精ができないとのことでした。二人とも初めてのセックスとのことでしたが、若い男性なら緊張の余り、射精ができなかったり、逆にすぐに射精してしまったりと思い通りにならないものです。さらに、彼のマスターベーションの仕方の問題から射精障害を抱えているのかもしれません。「いずれにせよもう少し状況を丁寧に分析した方がいいよ」とアドバイスをしましたが、そのことを女性が気にする時、「からだの相性が悪い」という発想になるというのは驚きでした。

○『もっと情報の共有を』
 中学生、高校生には「アダルトビデオを見るなとは言わない。しかし、一人で見ていると何が正しいのか、何が間違っているのかということがわからなくなるので、どうせ見るなら5人以上の仲間と見ろ。そして思ったことをお互い率直に言い合うといい」と話しています。人と話をしていればいろんな情報が入ってきます。どんなに正確な情報でも、それを活かせるようになるには時間がかかります。そもそも情報が正確かどうかもわかりません。しかし、多くの人と話していると必ず誰かが「それって変じゃない?」というと思います。「包茎っていうけど、銭湯に行けば、温泉に行けばおじいちゃんたちはほとんど包茎だよね」と気がつく話になると思いませんか。
 「何が正しい」、「正解は何?」を求めていると、「正解にたどりつくためのプロセス、つながりの大切さ」を見失いがちです。情報の共有を通したつながりの再確認ができるといいですよね。もっとも、正解を求める人だけが集まると・・・・・・