紳也特急 97号

〜今月のテーマ『若者にあなたの生の声を』〜

●『○○高校○年の女子です』
○『水谷修氏講演会』
●『いいじゃない』
○『想像力』
●『大人にPowerPointを』
○『生徒向けにもPower Pointを?』
●『生きる力とは』

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●『○○高校○年の女子です』
 今日は貴重なお話ありがとうございました。実際エイズなんて自分にゎ関係ナイと思ってました。昨年、水谷修先生のお話を聞いて、その時ゎエイズに関心を持ちました。自分にもなる事があるから気をつけよう、そう思いました。しかし、だんだん日がたつにつれ、その意識も薄れてきて、またエイズにゎ無関心な自分がいました。
 今日岩室先生にエイズのお話をして頂き、またエイズに関心を持つ事が出来ました。今度ゎ昨年のようにエイズへの関心が薄れていくという事がナイように、日頃からエイズにつうて考え、SEXする時にゎコンドームをつけるようにしようと思いました。しかし…今日少しだけつけないでしてしまいました。ゴムがなかったんです。NOと言えませんでした。
 あんなお話を聞いた後、しかもその日に、ゴムをしなかったというのは、やはり意識がなかったんだと思います。でもやはり妊娠の事とか怖くなり、いつの間にか泣いていました。彼氏ゎそれに気付いて、やめて何度も謝ってきました。NOと言える勇気持ちたい。岩室先生の話を聞いてなくて、性について関心をもっていなかったら、自分にゎ関係ないって思ってたら、最後までやって、妊娠していたかもわかりません。急に怖くなりました。
 エイズになりたくない。今妊娠したらよくない。そんな事誰でもわかってる事だとゎ思います。しかし関心がないから、ゴムをつけないんだと思います。これから色々な若い人達に岩室先生の話を聞いてほしいと思いました。色々と大変な事もおありでしょうが、どうかこれからもお仕事の方、頑張って下さい。岩室先生に話された事決して忘れません。
 愛の反対ゎ無関心。色々学びました。今日は本当にありがとうございました。お体に気をつけてお仕事頑張って下さい。
 この感想を読んで、やっぱり、何度も、くりかえし生の声のキャッチボールをすること。コミュニケーションをくりかえすことが大事だと思いました。そこで今月号のテーマは「若者にあなたの生の声を」としました。

『若者にあなたの生の声を

○『水谷修氏講演会』
 真夏に紺色のスーツ。目の前のマイクを持つことなく2時間人を引き付ける。今年の思春期学会市民公開講座で久しぶりに夜回り先生こと、水谷修氏の講演会をじっくり聞かせてもらいました。熱い思いを込めて、自分を、自分の家族を、自分の周りでの出来事を語り、「20歳未満の若者に酒を勧める大人は訴えてやる」と大人に自覚を促す。当たり前のことを語っているだけなのにこの迫力はどこから出てくるのか。でも子どもたちにはやさしく「いいんだよ」と。
 大人と未成年の違いは何か。大人と少年法で守られる若者の違いは何か。自分ももっとそのことを考えなければならないとあらためて考えさせられました。

●『いいじゃない』
 水谷修氏らとの共著、「いいじゃない いいんだよ 〜大人になりたくない君へ〜」のタイトルは当初「いいんだよ」という水谷修氏がよく若者たちにおくる言葉になる予定でした。ただ、私はどうしても「いいんだよ」という言葉が岩室紳也と若者たちの間で交わされないことに違和感をもっていました。私が同じようなニュアンスで若者に声をかける時は「いいじゃない」ということが多かったのです。
 冒頭の彼女に対しても、「今回は途中からでもコンドームなしは怖いんだと思えたんだからそれで『いいじゃない』。次からは絶対つけてもらうようにしようね。そうできるといいよね」と思いました。でも、「今回は途中からでもコンドームなしは怖いんだと思えたんだからそれで『いいんだよ』」となぜか私は言えません。だからといって、水谷修氏が繰り返し言っている「いいんだよ」ということに違和感があるわけではありません。彼の言葉も、私の言葉もそれぞれ「自分の言葉」だからです。

○『想像力』
 「どうしてコンドームがつけられなかったの。それくらいの想像力を持ちなさい。」と思った方もいると思います。私は「よりによって岩室紳也の講演会を聞いた日にコンドームなしでするなんて」と一瞬だけ悲しくもなりました。しかし、それは思いあがりであり、いま、一人ひとりの大人がしなければならないことを忘れていると、すぐに反省していました。
 自分自身が想像力を少しは身につけられているとしたら、それはどうして身についたのかをあらためて考えてみました。小学校7年生の時、夏休みが終わる2日前、生まれて初めて出された宿題をしていないことに気がつきました。得意の算数とはいえ、ほぼドリル一冊を2日で仕上げるのは至難の業。でも親は「あっそ」と知らん振り。アフリカのケニアで小学生時代を送った私は、もちろん普段の日にも、ましてやLong Vacationの休みの時に宿題を出さない環境で6年目の夏休みを迎えていました。はじめて宿題が出ていたのですが、「何とかなる」とたがをくくっていた私が慌てたのは言うまでもありません。しかし、親は「自己責任」とばかり放ったらかし。結局、間に合わず、先生に叱られ、一日遅れで提出。40年経った今でも思い出すひと夏の経験をさせてもらいました。強烈な失敗のおかげで、そして、そのことを誰も責めることなく、淡々と自己責任と受け流し、でも助け船も出してくれなかったおかげで、次を、結果を考える想像力が生まれたように思います。
 親にしてみれば手を出せばあっと今にできた宿題だったとおもいます。でも、手を出さないでじっと我慢して、息子が恥をかいてくるのを見届ける。その間、決して口には出さないもののちゃんと見守ってくれていたと思います。一方で、いま、この原稿を書いているそばで、近所のお母さんが「宿題まだやっていないの」と叱っていたり、「子どもに代わって描いてやったのよ」という立ち話をしたりしている親がいます。失敗させない、想像力を育てない、生きる力を育てない日本の現状が見えてきます。

●『大人にPowerPointを』
 民間人になってから大人向けの講演会と若者、生徒向けの講演会では手法を変えています。公務員時代は時間がなかったこともあり、大人向けも、若者向けも同じマイク一本で話していました。水谷修氏や北村邦夫氏らに学んだ「生の声」が持つ重みと力を信じて、私も同じような手法を取り入れていました。もちろん話す口調は真似るものではなく、私なりの「生の声」を届けていました。
 大人たちに話した時の反応をまとめてみると「岩室さんの講演は良かったけど、まねができない」でした。私も一つのモデルとして岩室流講演会を紹介し、「まねできること、盗めるところはどうぞご自由に」と思っていました。しかし、それでは広がりは出ませんでした。コンドームの装着法もホームページにチャンピオン君の作り方を紹介しても、そこまでやる人はあまりいませんでした。
 で、どうすればいいかと考えていた時にこれだと思ったのがPower Pointでした。自分が話す内容をそのままPower Pointにすればそれをそのまま使ってもらえるということでつくって公開したところ、かなりのダウンロード件数がありました。試行錯誤、バージョンアップを重ねて今日のバージョンになっています。最近は音楽入りが好評なので、先月から音楽の挿入方法と音楽の入手先をアップしています。

○『生徒向けにもPower Pointを?』
 先日、生徒向けの講演を頼んでくれている学校の先生が、大人向けの私の話を聞き「生徒向けにもPower Pointを使った講演をしてもらえませんか」と依頼されました。マイク一本の私の話がダメだったのではなく、Power Pointを使ったのもいいとおっしゃっていただいたのですが、お断りさせてもらいました。
 確かに、今でも生徒向けにPower Pointを使うことがあります。最初に生徒向けにPower Pointを使ったのはある地方の中学生を対象にした講演でした。その学校には前年も呼ばれたのですが、外部講師に対してただでさえShyな彼らは、その上、「セックス」だとか「コンドーム」といったストレートな表現を使う私の言葉が恥ずかしく、うつむいて聞いているだけで、伝えたいことの半分も伝えられませんでした。そこで、翌年からPower Pointを使うようにしたところ、同じような内容にも関わらず、文字や映像、さらに少し音楽を入れることで聞きやすくなったのか、ちゃんと顔をあげて聞いてくれるようになっています。ただ、彼らに「岩室紳也」という大人のインパクトがどの程度あったのか、正直なところ不安というか、あまりインパクトはないのではないかと考えています。

●『生きる力とは』
 IEC。結局のところ、繰り返されるコミュニケーション。それも自分の中での葛藤を含めたコミュニケーション。これでしか想像力を含めた生きる力は育めません。冒頭のメールをくれた生徒さんも、水谷修氏とのコミュニケーションの中から何かを感じ、岩室紳也とのコミュニケーションの中から何かを感じ、そして、彼氏とのセックス(コミュニケーション)の中からあらためて「今度こそはコンドーム」と思えたと思います。それで「いいじゃない」。それで「いいんだよ」。

■お知らせです
テレビ東京「モテケン〜童貞篇〜」
9月3日(月)深夜1:00〜1:30にコンドームの達人登場。